2025.07.27
インディアナ・ペイサーズにとって、サマーリーグ最後の試合となるニューオーリンズ・ペリカンズ戦。試合前の国歌斉唱が終わり、ハドルに向かった富永啓生は、いつものように立っていた。試合のスタートは、ベンチに座るスターターの前に立って迎えることが、当たり前のようになっていた。
何かが違うと感じたのは、そのとき。ベンチに座っているスターターが4人しかいなかった。ふと作戦ボードを見ると、そこには“KT”と書かれていた。「俺じゃん!」。コーチ陣が「伝えていなかったっけ?」と口々に言った。
ネブラスカ大学最後のシーズンにスター選手として同チームを全米大学選手権(NCAAトーナメント)に導き、テキサスA&M大学に敗れた2024年3月22日以来のスターター出場は、このように慌ただしいかたちで訪れた。
この試合最初のシュート成功はトップから決めた3ポイント。サマーリーグでついに3ポイントを沈めたが、フィールドゴールが13本中4本、3ポイントは8本中2本の成功と本調子とは言えなかった。だが、富永を何よりも笑顔にさせたのは、攻防にコートを駆け回り、思い切りプレーできたこと。シュートが不調といえども2本のフリースローもともに成功させて計12得点。試合後、「20点ぐらい取れたんじゃないかと全然思う」と本来の富永らしい、頼もしい言葉が飛び出した。
攻撃はもちろん、守備でも全速力で戻り、前からプレッシャーをかけて相手を進ませずターンオーバーを引き起こす場面も見せ、「ディフェンスでもっと見せることができれば、プレータイムも自然に増えてくるという実感はあるので、オフェンスもディフェンスも出たときは全力でやるというところは意識していました。そのあたりは、結構できたんじゃないかなと思います」と声を弾ませた。

富永と馬場とのマッチアップが実現 [写真]=Getty Images
サマーリーグに向けて、バスケットボールシューズ2足だけを持って渡米した。日本に帰国中のほとんどを東京で河村勇輝とともに練習していたためだ。「(実家のある)名古屋にずっと戻っていなくて、2カ月ぐらい東京でワークアウトしていて、そのまま来たので、そのときに持っていたシューズしか持ってきていません。それで(2足)なんです」と説明した富永。「名古屋に1回戻りましが、それも1、2日ぐらいでまた東京に戻ってきて、すぐにワークアウトしていました」と、日本を発つギリギリまで練習を重ねていたことを明かした。
6月にBリーグのレバンガ北海道と契約したが、「NBAでプレーしたい」という夢は変わっておらず、「サマーリーグには参加したい」という希望を持っていた。富永の高い目標に北海道も理解を示してくれ、さらに昨シーズン傘下のインディアナ・マッドアンツでプレーしていたペイサーズからオファーがあったことで今夏のサマーリーグ出場が実現した。
初戦のクリーブランド・キャバリアーズ戦と河村のシカゴ・ブルズとの対戦では不出場に終わった。2戦目の対オクラホマシティ・サンダー戦では最後の1分50秒プレー。決まるかと思われた3ポイントは悔しくも外れたが、「決めたかったというのは、間違いなくありますが、自分のシュートを打てたと思うので、あれを続けていくだけ」と意欲を見せた。
次に出場したのは、4戦目の対ニューヨーク・ニックス。馬場雄大がスターター出場していた同試合、富永は第2クォーター残り6分9秒にコートに入ると、馬場の近くへと歩み寄った。
「啓生が周りの選手に“I know him well.(彼のことは、よくわかっている)”って言っていました(笑)」と馬場。そして富永は、「チームに『(馬場に)つかして』。『マッチアップさせて』と言いました」と自らマッチアップを買って出たことを打ち明けた。
「なかなかない機会でもあるんで、すごく楽しくできました。欲を言えば、もうちょっとプレーできたらよかったというのはあるんですけど、すごくいい経験でした」と、くったくのない笑顔で話した富永。日本代表候補の中でも仲がいい先輩・後輩であることが大きいのだろうが、サマーリーグの舞台で、先輩とのマッチアップを望むところに富永の本気で技術向上に取り組んできた自信と競争を好む面が感じられた。
同試合でプレーした約12分半、富永は、果敢にディフェンダーの間を割ってゴール下に入り、得たファウルで決めたフリースロー1本とリングにアタックして決めたレイアップで3得点。終始堂々としたプレーが光った。

日本メディアに対応する富永 [写真]=山脇明子
初めてのサマーリーグで、かつての自身を思い起こすこともあった。
「なかなかプレータイムがもらえず、すごく難しい部分はありますが、プレータイムがもらえたら、ある程度自己中に行くべきところは、いかないといけないと思いました。チームプレー(を重視する)というのがある中で、自分を出していかないといけない。自分もどちらかというとそっち(自分を出すタイプの選手)だと思うんですけど(笑)、やっぱりアメリカに来ると普通になってしまう。『(自己中心的に)なりすぎず』、『チームプレーもしつつ』という難しさありますが、その辺りはもっとアジャストしていけたらいいかなと思っています」。
高校のときは、積極的にシュートを放ち、成功させてファンを魅了してきた。富永が攻撃の中心であったネブラスカ大最終シーズンもそうだった。だが、NBAとの契約を勝ち取ろうと貪欲な勝負が繰り広げられる場では、そんな富永でもあっても、自分を出すということに苦労している。
NBAを第一の目標とする富永だが、北海道と契約した今は、「最低でも2Way(契約)ぐらいのオファーをもらわないといかないと思います」と話す。
日本で体感したいこともある。
「(Bリーグでプレーすることが)めちゃめちゃ楽しみです。昨季1シーズンGリーグで、あまりファンがいない環境でやっていましたが、やっぱり僕は、プレーヤーとしてのスタイル的にファンがいてこそ自分がもっと出てくると思います。日本のBリーグもすごく盛り上がってきていますし、その中でプレーできることをすごく楽しみにしてます」と胸を躍らせる。
そのGリーグのマッドアンツで、昨季チームメイトだったジャリル・オカフォーと再び北海道でチームメイトとしてともに戦うことも楽しみの一つで、「すごく仲良くしていましたし、性格的にもとてもいい選手。他のところからもいろいろオファーが来ていると言っていたので、その中から日本を選んでくれたのは、すごく嬉しいです。(一緒に)盛り上げていけたらいいなと思っています」と来季を心待ちにしている。
帰省を惜しんでまで河村と練習を続けた東京での日々、先輩の馬場とアメリカで対戦というチャンスを最大限に楽しんだ試合、そして最後に訪れたペイサーズ下での初めてのスターター出場。すべての経験を自信に変えて、富永は人生の次の章へと向かう。
3試合に出場し、1試合平均11.1分の出場、5得点を記録したサマーリーグ全日程を終えて、「出たらある程度できると実感しましたし、自信につながりました」と話した富永は、「全然不可能じゃない場所には来ていると思います。自分のことにフォーカスして、成長し続けて、あとは機会がくるたびにアピールしてやっていければ、そのうちチャンスはあると思います」と夢実現への過程もクリアになってきた。
「日本で、Bリーグで成長して、またこうやって大きな舞台に戻って来られるようになりたいですし、頑張っていきたいです」。
その表情は、生き生きとしていた。
文=山脇明子
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