7時間前

富永啓生が語ったNBA挑戦の思い…プロデビュー戦を通じて感じたこと、そして手ごたえ

富永啓生はNBA挑戦の決意を新たにした [写真]=山脇明子
ロサンゼルス在住ライター

富永啓生をNBAへ誘ったカリーゆかりのコートでファンの心をつかむ

 富永啓生がプロデビューしたカイザー・パーマネンテ・アリーナのフリースローサークルには、本人が最も見慣れたロゴが光っていた。

 ブルーとイエローを基調とした会場内のあちこちには、“Warriors”という文字が見られ、ステフィン・カリークレイ・トンプソン(今季からダラス・マーベリックス)の等身大のポスターも飾られている。

 観客収容人数2500人あまりのこのアリーナは、約120キロ離れたサンフランシスコにあるゴールデンステイト・ウォリアーズのチェースセンターとは異なる。だが、10月からインディアナ・ペイサーズでNBAの舞台を目指して競争を始める富永にとって、ウォリアーズ傘下サンタクルーズ・ウォリアーズのアリーナをホームコートとしてプレーすることは、特別以外のなにものでもなかった。

ウォーリアーズのロゴが富永の活躍を見守った [写真]=山脇明子


「ずっと見ていたチームのロゴのあるコートでやるということは、すごくうれしいことですし、気持ちが高まります」

 3ポイントシュートに限らず、富永の成長の跡には、常にカリーの存在がある。カリーのようにプレーしたいという気持ちは、いつしかカリーと同じNBAの舞台に立ちたいという目標に変わっていた。そして今、富永は、その手前までたどり着いた。

 同アリーナでセルビアのプロチーム、メガMISと2試合を行った「NBA Gリーグ・フォール・インビテーショナル」では、ネブラスカ大学時代の活躍によりアメリカでも浸透した“ジャパニーズ・ステフ・カリー”の魅力を存分に発揮した。最初の試合では、ジャブステップからの3ポイント、バンクショット、そして速攻でリングの下を大きく通過し、利き腕ではない右手でリバースレイアップを沈めるなど、14得点の活躍。2戦目は、最初の3クオーターまでの出番が第2クオーターの4分弱に限られたにも関わらず、体が冷え切った第4クオーターにコートに立つと、開始から2分弱で3ポイントを成功させた。同3ポイントがリムを通ると、会場のアナウンサーも「待ってました!」と言わんばかりに富永の名前を大声で叫び、会場が大いに沸いた。

 今季ウォリアーズどころか、サンタクルーズでプレーするわけでもない日本人選手だ。だが、3本の3ポイントを見事に決めた最初の試合の活躍で、富永はウォリアーズファンが圧倒的に多く、カリーの存在を誇りとする地元ファンの心をすでにつかんでいた。「とても楽しかった。ファンの応援もとても良かった」。富永は笑顔を見せた。

NBAを目指す先輩たちとともに“ハード”を突き進む

 富永がプレーするGリーグの選抜チーム、NBA Gリーグ・ユナイテッドは2試合目を終えて、今度はシンガポールで12日から始まるFIBAインターコンチネンタルカップに向けて飛び立った。この大会で3試合を戦い、富永はペイサーズのトレーニングキャンプ開始前の練習に参加する。

 ここまで2試合では、Gリーグでプレーする選手たちの中で十分に力を発揮した。しかし、富永自身が「目標としているところは、遠いと思う」と話すように、NBAへの道を甘くは見ていない。そのうえでも、今回Gリーグ・ユナイテッドでNBAも経験したことのある先輩たちと過ごすことは貴重な経験だ

 例えば、チームメートのホワン・トスカーノ・アンダーソン。マーケット大学で4年プレーしたあとドラフト外となり、メキシコとベネズエラのプロチームでプレーしたのちサンタクルーズの一般向けの入団テストを受けてロスターの座を手に入れた。そして2年目の途中となる2020年2月にゴールデンステイト・ウォリアーズと契約。2022年にはウォリアーズの優勝メンバーとなった。

 トライアウトを受けた理由について、「何事もやってみないとわからない。自信はあった。だから(受けないで)後悔するようなことはしたくなかった」と言うトスカーノ・アンダーソン。NBAにたどり着くために「毎日一生懸命にプレーし、全力を尽くした。それはスキルであり、僕は楽しんでそうした。誰にだって得意なものがある。それを表現する方法を見つけなければならない」と話す。トスカーノ・アンダーソンは、ウォリアーズでの優勝後、ロサンゼルス・レイカーズと契約、しかし同シーズンの2月にユタ・ジャズへトレードとなり、昨季はサクラメント・キングスとGリーグでプレーした。

 Gリーグの世界も熟知しているトスカーノ・アンダーソンは、大学でのプレーを終えてからNBAに辿り着くまでに5年かかった自らのキャリアを振り返り、「とてもハードなことだった。NBAは世界トップのリーグだ。このリーグでプレーするには運やタイミングも必要だし、多くのことがうまく自分の方に向かなければならない」と言う。目標に到達するまでのプロセスには、メンタル的な浮き沈みもつきまとう。しかし「人生というのはハードなものだ。辛いことがたくさんある。その中で、どの “ハード”を選ぶかということ。僕は他のことで苦労するよりも、バスケットボールで苦労する道を選んだ。毎日目を覚まし、ベストを尽くすことだ」。

「僕は競争者だ。最高レベルでプレーしたい。目標に再びたどり着くためにがむしゃらに頑張る」

 チーム最年長で、抜群のリーダーシップを見せるトスカーノ・アンダーソンもNBAの舞台を目指すという点では富永と同じ立場だ。

 また昨季ペイサーズの2way選手で富永と誕生日が4日違いのアイザイア・ウォンは、プレーオフで東カンファレンス決勝まで勝ち上がったチームを目の当たりにし、「それぞれが“個”ではなく“チーム”を重視し、かつ全力を尽くして一つのチームが出来上がっていた」と、協調性を意識し、自らの力を見せつける以上のものを出さなければ届かない場所だと感じた1年目を振り返った。今季、同チームで挑戦する富永について、「彼は自分に何ができるかを見せることができる。でも長いシーズンになる。頑張り続けなければならない」と話した。
 
 富永自身も「シュートだけで生きていくのは難しい。他のところもトップレベルとは言わなくても、できるようにならないといけない」と話す。

改めて課題を語り、さらなる成長を目指す [写真]=山脇明子


 3ポイントやスキルに加え、一丸となるチームの一人として存在できる能力、そして運とタイミング…。

 これから、一つの課題を克服すれば、また次の課題が待っている日々が続くだろう。

 でも、それが、自分が選んだ“ハード(苦労)”だ。

 だからこそ、挑戦する価値がある。

文=山脇明子

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