2017.02.23

NBAを知る日本代表スポーツパフォーマンスコーチの佐藤晃一氏「ウィザーズは思い入れが強い」

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2020年東京オリンピック出場を目指すバスケットボール男子日本代表チームに、世界を知る心強い“仲間”が加わった。アメリカで若くからトレーナーとしての経験を積み、NBAのワシントン・ウィザーズでアスレチックトレーナーを、ミネソタ・ティンバーウルブズでスポーツパフォーマンスディレクター兼アスレティックトレーナーを務めた佐藤晃一氏だ。日本バスケットボール協会スポーツパフォーマンス部会長を務める彼はどのような人生を歩いてきたのか、そして彼が見据える日本バスケットボール界の未来とは――。

インタビュー=酒井伸

――現在はトレーナーとして活躍されていますが、高校時代にはバンド活動をされていたとうかがいました。それ以前は何をやっていたのですか?
佐藤 中学校は野球をやりたいと思ってたのですが、仮入部期間にバレーボール部を見たら面白そうで、母親もバレーをやってたのでバレー部に入りました。野球部は部員数が多いし、僕はそんなにうまくなかったので、球拾いをやるのならバレーだなと。高校時代にバンドを始めたのは、中学卒業後に『ビートルズ』にハマって、自分もドラムをやりたいと思ったからなんです。その頃からアメフトも気になっていたのですが、福島県にアメフト部がある高校がなかったので、高校ではバンドをやって、大学では絶対にアメフトをやると決めてました。

――その後は東京国際大学に進学しました。大学からアメフトを始めるのは珍しいと思います。
佐藤 たぶん根性があったんだと思います。最初の2年間は主に体作りで、チームが大差で勝っている時だけ試合に出させてもらいました。3年生からはスターターとして試合に出場して、4年生になってようやくアメフトができる丈夫な体になりました(笑)。

――東京国際大のアメフト部はいかがでしたか?
佐藤 4年次に新しいヘッドコーチとアシスタントコーチが来ることになって、特にHCは毎日練習場に来て指導してくれました。それから練習が大きく変わって、今まで走りこみの練習だった10ヤードの往復ダッシュ30本をアップでやるようになり、そこからまた別のメニューをやったりと、とにかく体作りの練習がメインでした。今この仕事をしていて感じるのですが、NBAにおいても、いくら小細工をして戦略を練っても、基礎体力がなくて走れないチームは勝てないと思います。アメフトで言うと、一歩目を早く出すとか、相手への当たりを早く、体勢を低くするとか、スポーツにおける基本ができれば、ある程度は強くなれると思っています。良い選手や戦術はその次に必要になってくるんです。

――大学卒業後からアメリカでスポーツトレーナーの勉強をしたそうですね。
佐藤 東京国際大で当時のソ連について勉強をしていたのですが、スポーツのトレーニングやリハビリ関係の仕事にも興味がありました。今では日本の専門学校や大学の専門学科で学べますが、当時のアスレチックトレーニングという業種はアメリカが最先端で、プログラムもしっかりしていたので、学ぶならアメリカに行こうと思い渡米しました。

――アメリカではどちらの大学に留学されたのですか?
佐藤 イースタンイリノイ大学です。シカゴから南に車で約3時間の場所にあって、周りにはトウモロコシ畑しかないようなところに3年間いました。

――英語は向こうに行ってから習得されたんですか?
佐藤 生きていけるくらいの英語力はありましたが、最初の4カ月は語学学校に通って、読み、書き、話しを学び、大学についてけるような英語力を身につけました。

――2008年にNBAのワシントン・ウィザーズのアスレチックトレーナーに就任しましたが、それまでは何をしていたのですか?
佐藤 大学卒業後はアリゾナ州立大学大学院に通いながら、アリゾナ州立大学のいろいろなスポーツチームを見ていました。修士課程修了後は、大学で陸上、クロスカントリー、レスリング、アメフト、女子の体操、バスケットボールのチームなどで合計9年間働きました。

――そこでは具体的にどのような指導をしていたんですか?
佐藤 アスレチックトレーナーとして選手の体調管理だったり、ケガの評価をしたり、ケガの治療をしたり、リハビリをさせたりというのが主な仕事でした。それだけでなく、毎日練習に参加して、ストレッチをさせたり、テーピングを巻いたり、簡単なトレーニングも見たりしていました。

――ケガ人を診ることがメインだと思いますが、選手のメンタルケアなどもされていたのですか?
佐藤 そうですね。メンタルトレーニングというと大げさですけど、選手と関わっていれば絶対にそういうケアも必要だと思います。現在は仕事が分化しているので、メンタルケアはメンタルトレーナーが行うと決まっていますが、昔はチームに監督とアシスタントコーチくらいしかいなかったので。だから今も、僕がそういうケアをすることも必要だと思っています。

――そこでバスケットに初めて関わったということは、バスケに携わってからは約15年ぐらいでしょうか。
佐藤 そうですね。僕自身はバスケをやってないし、もともとはマイケル・ジョーダン(元シカゴ・ブルズ)やマジック・ジョンソン(元ロサンゼルス・レイカーズ)などのドリームチームのメンバーを知っているくらいでした。NBAにこだわりはなかったので、ロサンゼルスのアスリーツ・パフォーマンスで働いたり、NFL選手のアスレチックトレーナーとして働いたりしたこともありました。

――アメリカに渡ってからNBAは見ていましたか?
佐藤 イースタンイリノイ大学はシカゴ・ブルズの本拠地があるイリノイ州なので、シカゴが“スリーピート”を2回果たした後の、デニス・ロッドマンなどが所属していた時は試合を見てましたが、会場に行ったことはなかったですね。

――アメリカはビジネス面も含めてスポーツが特に盛んです。アメリカのスポーツで衝撃を受けるようなことはありましたか?
佐藤 衝撃だったのはバスケよりもアメフトです。ミネソタの英語学校に通っている時にNFLのミネソタ・バイキングスの試合を見たのですが、その時は特に衝撃を受けましたね。

――NBAの現地初観戦はいつですか?
佐藤 大学院生の時にフェニックス・サンズの試合を見ました。しかし、シーズン前の試合で、スターターは体調を整えるだけの、若手主体のゲームだったので、NBAの最初の印象はあまり良くなかったです(苦笑)。

――ワシントン・ウィザーズ時代に務めていたリハビリコーディネーターというのはどのような役職ですか?
佐藤 リハビリテーションをコーディネートすることです。長期の治療が必要なケガ人に対して、治るまでのプログラムを作ったり、医師やヘッドコーチと提携してどのように進行するかを決めていました。その時はギルバート・アリーナスがケガからうまく復帰できていなかったので、彼をよく診ていました。

――NBAの有名選手たちを相手に仕事をすると、大変なことも多かったと思います。
佐藤 選手は友達ではなく仕事をする相手ですから、良い距離感を取ることが必要です。「一緒にご飯を食べに行こう」だったらいいのですが、「お酒を飲もう」は違うと思います。この仕事に取り組むにあたっては、いかにプロとして選手と接することができるかが大切です。僕はNBAをそんなに見ていなかったから良かったのですが、NBAファンでは難しい仕事だと思います。

――ウィザーズの後はミネソタ・ティンバーウルブズに行きました。そこでも同じような仕事をしていたのですか?
佐藤 ミネソタではスポーツパフォーマンスディレクター兼アスレティックトレーナーといって、リハビリではなくウェイトトレーニングなど選手の練習を見る役職でした。

――ウィザーズの時と違う仕事ですが、いかがでしたか?
佐藤 もともとそういう仕事をやりたかったので良かったです。ケガには、捻挫や打撲など急性のケガと、なぜかわからないけどひざが痛い、腰が痛いといった慢性のケガがありますが、慢性のケガは体の動き方や姿勢に問題があって起きるもので、未然に直せばケガは防げるんです。ミネソタでそういったトレーニングをやってくれと頼まれ、快く引き受けました。

――今でもNBAの試合は見ていますか?
佐藤 正直あまり見ていません(苦笑)。試合を見ている時間があったら、選手が強くなるようなサポートを考えなければいけないと思っています。

――好きなチームはありますか?
佐藤 やっぱり、ウィザーズとティンバーウルブズは好きです。僕がNBAで最初に仕事をしたウィザーズは思い入れが強いですし、リッキー・ルビオ(ティンバーウルブズ)など自分が指導した選手は応援しています。

――昨年9月に日本バスケットボール協会(JBA)のスポーツパフォーマンス部会委員長に就任しましたが、その経緯を教えてください。
佐藤 昨シーズン終了後にミネソタとの契約が満了し、5月頃に日本に戻ってきました。同じチームに長くいると、与えられた仕事の中でもっとやりたい仕事が見つかったり、もう少し組織をこう変えればいいと思ったりしてしまうんですが、僕の立場ではその状況を変えることはできません。メディカルとパフォーマンスを融合させるという理想を追いかけてワシントンからミネソタに行ったのですが、そこでもできないと感じました。しかし、今は選手をトータルで支えるシステムやメソッドを作るという、自分のやりたいことができていると思います。2020年東京オリンピックに向けて、JBAも変革期にある中で、納得して日本に戻ることを決めました。

現在は日本代表のスポーツパフォーマンスコーチとして活躍する佐藤氏(左) [写真]=上野公人

――日本代表候補の合宿では、練習前のウォーミングアップで走り方やステップでこだわっていた印象があります。日本人選手たちの基礎能力についてどう感じていますか?
佐藤 NBAでプレーする選手たちは基礎がなくても、持ち前の身体能力でプレーができてしまうのですが、日本の選手はどうしても身体能力が劣っているだけに基礎の部分をより向上させないといけないと思っています。今回、新たにルカ・パヴィチェヴィッチさんがヘッドコーチとして指導していますが、攻守において基礎の基礎からやっています。それはNBAでも同じことで、基本からしっかり取り組んでいるチームが最終的に勝つんです。サンアントニオ・スパーズが毎年強いのも、ディフェンスでもオフェンスでも基礎ができていて、しっかりとしたプレーの共通意識があるからだと思います。

――2020年に向けて、これから日本代表をどのようにしていきたいですか?
佐藤 まずは、トレーニングで徐々に体の動きを浸透させていくことです。今はBリーグがシーズン中で、代表合宿があっても激しいトレーニングはできていないので、長い活動期間がある時にもっと大きなことをしていきたいです。あとは、「これができて当たり前」というスタンダードを上げていき、選手の意識向上にも努めていきたいです。

――元NBA選手のロバート・サクレ選手(サンロッカーズ渋谷)やジョシュ・チルドレス選手(三遠ネオフェニックス)などがBリーグでプレーしていますが、彼らが来ることで日本バスケットにどのような影響をもたらしてくれると思いますか?
佐藤 とても良い効果をもたらしてくれると期待していますが、日本人とマッチアップする機会が少ないので、そこが難しいところでもあります。外国籍選手に頼るのではなく、日本人が成長するためには、常に彼らが高い向上心を持つことも大事だと思っています。

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