2022.09.15

これがリーグでの評価…NBAのスカウトたちが八村塁の“現在地”を分析

NBAで4年目のシーズンを迎える八村塁[写真]=Getty Images
某ストリートメディアのシニア・エディターを経験後、独立。ひとつのカルチャーとしてバスケットボールを捉え、スポーツ以外の側面からもNBAを追いかける。

 八村塁(ワシントン・ウィザーズ)は日本の至宝として並々ならぬ期待を背負い、NBAで戦い続けている。その活躍は国内では華々しく報じられる一方、海を渡ったアメリカでは“1人のバスケットボール選手”として冷静に成長曲線や課題が分析されている。

 米スポーツメディア『The Athletic』は、ウィザーズの未来を背負う同選手について、4人のスカウトから意見を聴取。数々の手練れを品定めしてきた目利きたちは今、八村をどのように見ているのだろうか。

昨季は3ポイントシュート成功率が大幅に向上

 まずはじめに指摘されたのは、出場試合数の少なさだ。NBAでの3年目を終えた八村は、これまでレギュラーシーズンで147試合プレー。NBAは年間80試合以上出場機会があり、1年後輩のデニ・アブディヤがすでに136試合に出場していることを踏まえると、ドラフト9位指名として物足りなさがあるのは事実だろう。

 スカウトの1人は「彼はまだ若いため、評価を下すには難しい。彼は同年代の選手よりも遥かに経験が浅い。彼はこの3シーズン、我々が望むほど多くの試合に出場していない」とコート上での経験値の少なさに言及している。

 しかし、個人的な理由による離脱などもあり、フルスロットルで走り抜けることのできなかった昨シーズンでさえ、明らかなステップアップを示した。

 八村は昨シーズン1試合平均22.5分の出場時間で11.3得点3.8リバウンド1.1アシストといずれもキャリアワーストを記録。しかし、出場時間36分換算のデータでは18.1得点をマークしており、同データでは過去最高の数値を叩き出している。

 とあるスカウトは「僕が彼を一言で表すのなら“スコアラー”だ」と、八村のオフェンス能力を評価。2年目まではミッドレンジとペイントエリアを中心に得点を重ねてきたが、昨シーズンはアウトサイドという新たな武器を手に入れた。

 デビューからの2シーズン、八村の3ポイントシュート成功率は31.3パーセントにとどまっていた。しかし、昨シーズンは44.9パーセントと大幅に上昇。リーグで100本以上の3ポイントを試投した選手のうち、八村より高確率でショットを沈めたのはルーク・ケナード(ロサンゼルス・クリッパーズ)だけだったと言えば、いかに優れた成績だったがお分かりいただけるのではないだろうか。

昨季はアウトサイドシュートの成功率が大幅に向上した[写真]=Getty Images


 また、最初の2年間はフィールドゴールの18.8パーセントがアークの外側から放たれたものだったが、昨シーズンは32.3パーセントが3ポイントシュートで、そのデータからも自信が伺える。

 スカウトたちも「40パーセントだろうと、39パーセントだろうと、彼にとっては大きな成長。元々はミッドレンジの選手だった。この成功率が継続し、アウトサイドという新たな武器が追加されれば、彼は遥かに価値のある選手になる」と、オフェンスの幅が生まれたことに太鼓判を押した。

ディフェンス力は平均以下という評価

 その一方で、まだまだ課題も少なくないというのが、スカウトたちの総論のようだ。とりわけ、ディフェンス面には改善の余地が多く、スカウトたちはディフェンス力が平均以下と見ている。『The Athletic』も1対1から簡単にダンクへ行かれたケイド・カニングハム(デトロイト・ピストンズ)とのマッチアップを一例に挙げ、ディフェンスへの意欲、ヘルプでの集中力、全体的な感覚を今後の伸び代として指摘している。

ディフェンス力は平均以下という評価を下された[写真]=Getty Images


 ただし、球団は八村のディフェンスに外部ほどネガティブではない。ウェス・アンセルドJrヘッドコーチとトミー・シェパードゼネラルマネジャーは、八村が潜在的に複数のポジションを守ることができると度々強調しており、フィジカル面で大きな引けを取ることはない。

 実際にスカウトの1人は「体格もいいし、足も動かせる。これはとてもいいこと。スペースでのスイッチとディフェンスが可能な点からも、彼にはある程度の汎用性があると感じている」との見解を述べている。

 もちろん、ウィザーズフロントが現状に満足しているわけではない。球団はディフェンス面でのさらなる成長を望んでおり、シェパードGMも八村のイレギュラーだった昨シーズンの難しさに理解を示し、新シーズンのさらなる成長に期待を寄せた。

「塁は素晴らしいブレンドプレーヤーです。来年、彼のディフェンスは大幅に改善されるでしょう。トレーニングキャンプ、プレシーズンを欠席し、それからチームに合流して生産的なシーズンを送ることなど、普通であればできないはずです。出場時間の制限を解除し、特にスターターとしてプレーできるようになると、彼のスタッツは私たちが想定してとおりのもでした」

「ステップアップできるスキルは少なくない」

『The Athletic』は、その他ディフェンスリバウンドの生産性、フロアビジョンの改善、味方を生かすようなアシストなど、ステップアップできるスキルは少なくないとしている。また、持論を展開してくれたスカウトたちの八村に対する展望もまちまちだ。

「3ポイントシューターとして成長したことは励みになり、それによって彼はアブディヤと同じタイプのプロファイルまで評価を高め、複数のポジションをこなす攻撃的な役割を担うだろう」

「大学時代、我々は懸命にプレーする姿、素晴らしい肉体と運動力により、彼のディフェンスへの可能性に魅了された。しかし、現在では攻撃的な役割を担っている。私は彼がチームにとって良いスターターになるかと言われると、少し懐疑的だ。彼は優秀なロールプレーヤーや、ベンチプレーヤーに落ち着く可能性がある。ただ、ゴンザガ時代の関心が未だ薄れたわけではないので、ポテンシャルを発揮することを願っている」

 NBAは客席からはとても華々しいステージに映るが、一度コートに降りれば冷酷なまでに現実を突きつけられる。オールスターは大黒柱として球団の未来を託され、代わりがいると見なされれば名簿から除外されてしまう、とても過酷な戦場なのだ。

 来シーズンはいよいよキャリア初の契約更新が控えている。今、すべての可能性は八村の手中にある。我々ができることは彼を信じ、遠い日本から彼の原動力となるような熱いエールを送り続けることだろう。

 文=Meiji

来シーズンは年間を通じて躍動する姿に期待したい[写真]=Getty Images

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