2018.10.13
「Dream of NAGOYA」というコーポレートステートメントの下、名古屋のシンボルとなるべく本格的に動きだした名古屋ダイヤモンドドルフィンズ。ホームゲーム運営の中で大きな割合を占めるアリーナ演出を映画監督・演出家の堤幸彦氏がプロデュースすることが決まり、興行面でも様々な取り組みに挑戦し、変革の時を迎えている。しかし、新たな試みの一方で変わらない名物もドルフィンズの魅力の1つだ。その男、恰幅の良い体格で大きな声で選手に指示を与え、激を飛ばし、チームの中でも一際存在感を放っている。彼の名前はアンディ・ボーランド。名将の風格漂う名古屋の名物通訳だ。この愛嬌たっぷり、クセのある通訳に、その仕事の魅力と矜持を聞いた。
インタビュー=村上成
写真=本美安浩、B.LEAGUE
――最初に経歴を教えてください。
ボーランド あちこちでハワイ出身と書かれていることが多いけど、実は京都府の生まれです(笑)。京都で生まれて、2歳からはずっと名古屋。高校を卒業してからアメリカに行きました。親はミネソタ州出身です。クレイグ(ブラッキンズ)がミネソタ近くのアイオワ州立大学出身なので、僕の親戚たちは大喜びで「(ブラッキンズを)知ってる! 知ってる!」、「サインをもらってきて」と。田舎者はそういうことが好きですから(笑)。僕が一番長くアメリカに住んだのはハワイで、大学もハワイ大学です。
――その後、ハワイから日本に戻ってきたのですか?
ボーランド 日本とハワイを行ったり来たりしていました。あの頃は、まだ何をしたいか決めていなくて、世界旅行をしたりしていましたね。カナダで写真の勉強をしていたときに、友だちから連絡があって「日本で通訳の仕事がありますよ」と言われました。「写真家になるからいいよ」と4、5回断っていましたが、少しお金に困っていたので1年くらいやってみようかなと……。当時は16試合しかなく、バイト感覚でした。カナダから日本に一旦帰ってきて、当時のヘッドコーチとゼネラルマネージャーに会ったら、面接したそばから、HCが「こいつでいいや」と。不思議に思ったら、HCは僕がバイトをしていた飲み屋のお客さんでした(笑)。1年だけやろうと決めましたが、ズルズルと今に至っています。
――もともとは、そんなに長く通訳をやるつもりではなかった?
ボーランド 大学を卒業してから通訳の仕事ばかりやっていましたし、もちろんハワイでもやっていたのでこの仕事はすごく好きです。ただあの頃、お客さんが200人、300人しか入らず、アメリカの大学バスケットと変わりないし、長くやっていてもと思いました。しかし、日本のバスケットボール界がどんどん大きくなって、今は楽しくて仕方ないです。
――シーズン16試合という時代を経て、2016年9月からBリーグが始まりました。
ボーランド 個人的にはバスケットボールの競技人口は多く、日本でも流行ると思っていましたが、何回もリーグ名が変わるなどなかなかうまくいかず。Bリーグが誕生して「ようやくかぁ」という思いですし、とてもうれしく思います。
――ところで、もう名古屋生活も長いと思いますが、名古屋のいいところを教えてください。
ボーランド 名古屋はすごく好きで、ほかのところに住もうと思ったことは1回もありません。名古屋はちょうどいいサイズだと思いますし。文化もすごく好きです。ただ、たまに有名なミュージシャンのコンサートで東京と大阪では開催されるのに、名古屋が飛ばされることには少し腹が立ちます(笑)。
――いろいろな国に行ったことがあると思いますが、その中でも名古屋がいいと?
ボーランド それを言うと……。本当はハワイですかね(笑)。
――真面目な話に戻りましょう。通訳の面白さや、やりがいを教えてください。
ボーランド 通訳の仕事自体が面白いわけではないのですが、いろいろなものを乗り越えるのが好きなのです。この仕事を長くやっていると、様々な選手、コーチがいて、一人ひとりの個性に合わせて、どういう話し方だったら聞いてくれるか考えています。僕は通訳を始めた当初、コーチが話したことを直訳していただけでした。その様子を見ていたとある通訳の先輩から、「そのやり方はやめておけ。ケンカになっちゃうから」とアドバイスをもらいました。僕みたいに生まれは日本ですけど、様々な国や文化を経験している人間をバイリンガルだけではなく、“バイカルチュラル”と言うようです。
言葉が2つわかって、文化も2つわかる。私が雇われた理由は、日本の文化も、アメリカの文化もわかっているので“文化を訳す”ことができるということでしょう。コーチが言っていることが選手に伝わり、選手同士で話していることも選手に伝わるようにするには、直訳することで必ずしも伝わるとは限らないのです。選手、コーチの個性を考えて、どう言ったら確実に伝わるか考えています。練習中やタイムアウトなど、時間がないけど考えなきゃいけないところはやりがいがありますし、常に挑戦ですね。
――通訳という仕事の難しいことは?
ボーランド スピードが求められることです。タイムアウトを取ったら、それまでのプレーを全部わからなければいけません。忘れもしませんが、初めて公式戦で通訳したときに、1点差で負けていて試合終了まで残り数秒という場面。1分しかタイムアウトの時間がない中、HCが言ったことをそのまま訳しました。アメリカ人の2人に伝わり、作戦もわかったと思ったのですが、彼らがコートに出たら全く違うプレーを始めました。「俺はそんなこと言っていないのに。クビか(笑)」と思いましたが、あとで聞いたら「いや、(通訳された内容は)わかっていたよ。でもそれじゃうまくいかないと思ったから、俺たちが勝手に変えた」と選手が言ってくれて(苦笑)。でも、コーチは僕のことをにらんで「あいつの通訳は通じているのか」と。
――短い時間で、コーチが話していることを確実に伝えなければいけませんよね。
ボーランド コーチによって、よく喋る人もいれば、あまり喋らない人もいて。選手も、質問する人もいればしない人もいます。そのときに出る選手にもよりますが、1分間はとても短い。特に1点差で負けていて、残り数秒しかない時はかなり緊張します。チームの戦術もしっかりと勉強していますよ。それをわかっていないと仕事になりません。
――これまでのキャリアで、印象深いコーチや選手はいますか?
ボーランド すごい選手は何人もいましたが、僕が尊敬しているのは、あまり試合に出られない選手です。特に、“助っ人”として海外から呼ばれても、数分しか出られない選手です。例えば、ほかに素晴らしい外国籍の選手が2人いて、その選手は3人目のつなぎ役だけど、何一つ文句を言わず、練習にもしっかり取り組んでいる。そういった選手はプロ意識があってすごいと思います。プレー時間が短い選手とは、ベンチで一緒に座っている時間が多いじゃないですか。僕はそれが仕事だからいいけど、彼らはプレーするのが仕事なのに、そこに座っている。日本という異文化の中に飛びこんできて、与えられた仕事をしっかりこなすのはすごいですよ。
――最後に、自身の夢や、これからやってみたいことを聞かせてください。
ボーランド 早く優勝したいよ(笑)。優勝はもちろんですけど、もう1つあるのは、バスケットボールがアメリカと日本のつながりになればいいなと思います。特に、2020年東京オリンピックがあります。僕は長年の通訳の経験でNBAの指導者などと顔見知りになってもいますし、互いのつなぎ役をできればと。また、日本にNBAを呼ぶような、大きなこともできると思っています。
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