2018.09.25

【Bリーグ開幕特集】名古屋ダイヤモンドドルフィンズ④堤幸彦監督特別インタビュー「今ここでやるべき仕事だと感じています」

名古屋ダイヤモンドドルフィンズのホームゲーム演出をプロデュースすることが決まった堤監督 [写真]=鈴木元徳
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2018年7月15日、演出家・映画監督の堤幸彦氏が名古屋ダイヤモンドドルフィンズのホームゲーム演出をプロデュースすると発表された。『ケイゾク』、『トリック』、『20世紀少年』、『SPEC』シリーズなど、数々のヒット作品を生み出してきた日本有数のヒットメーカーが、なぜバスケットボールというスポーツの会場演出プロデューサーに就任したのか。そして、それはなぜ名古屋ダイヤモンドドルフィンズというクラブだったか。プロローグムービーの撮影日初日、堤氏自身に生まれ故郷である名古屋への思いをはじめ、バスケットとの関係性や今後の展開について尋ねてみた。

インタビュー・文=武藤仁史
写真=鈴木元徳

「アリーナに行くと、必ず楽しいことがある」、そんな演出を手がけたい

――まずは名古屋ダイヤモンドドルフィンズとのコラボが実現した経緯について教えてください。
 もともと私が「東海アクションプロジェクト」という映像によって地域を元気にする活動を行っていました。それはテレビの番組を作ったり、名古屋各局のドラマやニュースを作ったり。それ以外にも、いろんな市町村からオーダーを受けて、シティームービーとでもいうような市民映画みたいなものを作ったり、CMを作ったりしています。あいち航空ミュージアムの館内映像を手掛けたこともありましたね。本当に多岐多様に渡っているんです。そんな活動を続けている中で、たまたま私たちのことを知っていただいたのか分からないですが、ドルフィンズさんの方からお声掛けいただいたというのが経緯ですね。「じゃあ、一体何ができるのか」というところを、今もクラブの方たちといろいろと相談している最中です。そんな中で、まずはシーズンが始まる時にドルフィンズアリーナ(旧愛知県体育館)で流れる映像を作ろうと。登場感とパワーのある、カッコいいものにするために選手たちと作ろうじゃないか、ということで今日の撮影になっています。

――ドルフィンズからの提案で、どのようなところに魅力を感じたのでしょうか?
 まずやはり、私自身が名古屋出身なものですから。 クラブカラーの“ドルフィンズレッド”で名古屋を彩るという、クラブのコンセプトがすごく面白いと思いました。バスケットの試合は非常に展開が速くて、お祭り騒ぎをするにはとっても魅力的だと思っています。若い人たちが集って発散できるという面もあるし、それから、今はイケメンブームですからね(笑)。ドルフィンズにはスター性のある選手がたくさんいます。名古屋のチームであることだし、街を元気にするための、大きな題材なんじゃないかと思いました。そのあたりに一番大きい魅力を感じましたね。具体的にはいろんなやり方があると思います。選手自身が登場するCG満載の面白い映像もその一つ。それから応援の仕方もいろいろ提案させてもらっています。例えば、有名なアーティストにテーマソングを頼んで書いてもらえないかとか、チアリーダーの応援の皆さんと相談して今までとは違う応援の形を作れないかとか。あるいは象徴的なキャラクターを作って、お祭り騒ぎのセンターに立たせないかとか。これは否決されるかもしれないけど、私が一番やりたいのは、お客さんの入場から退館までのアリーナを劇場と見立ててエンディングとして勝った時も負けた時も、それぞれ最後に明日に向けた歌を歌うというのをやりたいなと思っています(笑)。

プロローグムービーには選手たちが出演 [写真]=鈴木元徳

――バスケット以外のスポーツを含め、クラブ・演出側が敗戦時のイベントを設けることは、新たな試みになりそうですね。
 勝った時は、それはもう威勢のいいやつ。例えばちょっと古いけど、JUN SKY WALKER(S)の『歩いていこう』みたいな、前向きで「行くぞー!」となる曲がいいんじゃないかな。負けた時はちょっと哀愁のあるメロディで、「それでも明日があるよ」というような。勝敗に関係なく、それ自体を歌うことを楽しんでもらう。勝ったらもちろん楽しいけど、負けても「行って良かったな、次があるぞ」という気分にさせるような、そんな歌を歌えればいいなと。そんな提案をしています(笑)。

――勝敗に関わらず、ホームゲーム自体を楽しめるイベントに作り上げていくことが必要なのですね。
 その通りですね。ドルフィンズアリーナなり、(パークアリーナ)小牧なりに行くと、毎回必ず面白いことがあるというか。

――これまでスポーツの会場演出を担当されたことはあったのでしょうか?
 (会場演出を担当するのは)初めてですね。大昔に女子プロレスのオープニングの演出をやったことはありましたけど、私は本当にスポーツ界とは無縁でして……。私は名古屋の中学に通っていましたけど、当時は陸上や野球、サッカーよりも、バスケ部かバレーボール部のどちらかがスターでしたね。特に私の学校ではバスケ部員たちが本当にスターで。まあ、私は運動に無縁だったものですから、体育館の端で「カッコいいな……」とジーっと見ていたクチなんですけどね。それが還暦を超えて、こういう形でご縁ができたのは感慨深いといいますかね(笑)。今日選手たちに会いましたけど、まあ恐ろしく背が高くて、カッコいいしスピーディーだし。面白いスポーツにどんどん進化しているんだなと思ったので、私も観客の一人として楽しめるような提案ができるといいなと考えています。

――Bリーグクラブの会場演出を担当するという点については、どのようにお考えですか?
 やっぱりエンターテイメントの基本ですから。生身の人物が必死になって点を取るべく、リアルな世界を駆け回る。私はサッカーも全く分からないのですが、先日のワールドカップでも、ただテレビ中継を観ているだけでもワクワクしました。国の壁を越えて感動しますしね。やっぱりそういったものを伝えていくというのは、エンターテインメントの基本中の基本ではないかなと感じています。だから、スポーツは分からないし、バスケットも観たことがない私だけれども、今ここでやるべき仕事だなと感じています。

――エンターテイメント性を追求するのに、スポーツは適したものかもしれません。
 そうですね。例えば、音楽だってバンドが必死にならなければ伝わっていかないですよね。どこかで少しでも手を抜いているようなものというのは、すぐに飽きられてしまいます。ドラマでも映画においても、やっぱり演者とスタッフが必死になってやらないと伝わらないですよ。それはすぐに分かります。お客さんもバカじゃない。そういう点でいうと、バスケットは人間の極限の象徴みたいなものじゃないですか。スポーツでもエンタメでも、必死になってやるということに共通項があるんじゃないかなと私は思います。

映像を確認する堤監督 [写真]=鈴木元徳

ポテンシャルの高いドルフィンズを名古屋の象徴にしたい

――今回のコラボを、ご自身にとってどのようなプロジェクトにしたいとお考えですか?
 はい、そこですね。まず、マニアのものになりますが、同時に広く一般大衆のものでありたいと思っています。誰が来ても面白いと感じるもの。それから、それとはちょっと矛盾はしますけど、コアに届くもの。最近だと2.5次元というのがすごく流行っています。ミュージカルや演劇もそうなんですけど、ある種ちょっと2.5次元的な人気が出るようなものにできないかなと思っています。それは二律背反ではあるわけだけども、一般的には、とにかく面白ければお客さんは来るわけですから。それと同時に、行くとイケメンに会えるとか、そういう時間を共有できるという、ある種の共伴関係を生むような戦略が取れないかなと思っています。

――今日は実際に会場で流れるプロローグムービーの撮影初日になります。今後どのような演出を実現したいと考えていますか?
 まずは登場感がある映像作りが第一。それから応援の新しいやり方が2番目。これはチアリーダーさんの動きも含めて何かできないかと考えます。それから3番目には先程申し上げた、終了後の締めくくりに何か面白いアイデアがないか。4番目としては、新しいキャラクターを創り出して、まあそれがゆるいキャラになるのかカッコいいキャラになるのかは分からないけども、それが場内を闊歩する。もう出てくるだけでちょっとウケる、というようなものを作れないだろうかと思っています。今のところは、そのような発想でやっています。ただし、もしドルフィンズの皆さん方に乗っていただけるのならば、もっともっと提案をしていきたいですね。お客さんが動的に参加できるようなものを考えていきたい。ただお金を払って試合を観るだけではなくて、試合以外に精神的なお土産をもらって帰られるような空間にしたいなと思っています。

――今日は金シャチ横丁、ささしまライブという2カ所でプロローグムービーの撮影を行いました。撮影場所の選定にはどのような理由がありますか?
 新しい名古屋の中心地ということですね。それはつまり、ドルフィンズもそうなってほしい、ということです。

ムービーには張本天傑(右)も出演予定 [写真]=鈴木元徳

――すでにリーグ開幕後の構想まで考えているのでしょうか?
 今は秋のシーズンが始まって、いろいろやらせていただきながら、次の提案へ向かっていければいいなと思っています。いきなり「堤に任せたら奇抜すぎるよね」とならないように、しっかり様子を見極めながら(笑)。できれば次へ、そして来年、再来年へとつなげていければいいなと思います。

――今回のコラボは、ドルフィンズ自体のブランディングの一環でもありながら、堤監督にとって名古屋の街を盛り上げるプロジェクトでもあると思います。
 私的にはそれが半分以上です。名古屋にはサッカーや野球、フィギュアスケートと様々なスポーツがあって、それぞれある種の聖地があるわけです。その中で特にバスケットというところが面白いと。野球でもサッカーでもフィギュアでもない。そこに私は魅力を感じましたね。

――バスケット、そしてドルフィンズに魅力を感じたと。
 そうですね。それがまた名古屋のチームである、と。地域振興の仕事をずっとしているから、すでに人気があって定着しているものをやるより、これからもっともっと伸び代があるドルフィンズに肩入れする方がやりがいもありますよね。

――ドルフィンズアリーナという名古屋を象徴する場所を本拠地としていることも重要だったということでしょうか?
 これがね、思い入れが深いんですよ。中学高校時代、私はロック少年だったので。愛知県体育館で外タレのライブを結構やっていたんです。ユーライア・ヒープっていうバンドだったかな。レッド・ツェッペリンもやっていた。とにかくイギリスの大物が来ていましたね。T・レックスもライブをやっていました。愛知県体育館に行くと、もうロックで盛り上がる。県体育館の盛り上がりは、なんというか独特なものがありましたね。

――そのような空気感を、これからはバスケットというスポーツで再現していく。
 そうですね。ロックのライブとは違いますけど、とにかく集まって熱狂するという意味では、そういう盛り上がりがいろんなところにあればあるほどいい。文化不毛の街と言われているけども、名古屋という街全体が、スポーツの盛り上がりと相まって楽しい祭りごとになっていくといいですね。

――バスケット界にとっても、Bリーグクラブが堤監督という日本有数のヒットメーカーとプロジェクトを展開することは、大きな出来事だと思います。
 いや、逆に私のような者が参加させてもらっていいのかなと自分ではちょっと半信半疑なところがあります。餅は餅屋でもっと詳しい人がやった方がいいのかなと思いながらも、一方で私なんかで化学反応を起こせればいいのかなとも考えています。来年もしも私の名前が外れていれば、「あ、ダメだったんだな」と思っていただければ(笑)。もし何年も続けられるようであれば、少しずつ大きな化学反応になっていくと思うので、期待してもらいたいですね。

――最後にバスケットファンの方々に、このプロジェクトのどういうところを見てほしいですか?
 さっきも言いましたけど、ドルフィンズはいろんな意味でとっても伸び代があるクラブだと思うんです。だからもちろん、これからプレーもどんどん研鑽を積んでいくと思うんですけど、イベントとして参加できるスポーツとして、お客さんが楽しめるお祭りとして盛り上がるように疾走したいと思っています。なので、ぜひドルフィンズアリーナないし、パークアリーナ小牧の会場に来て、楽しんでほしいですね。

堤監督が手がける名古屋Dのホームゲームに注目が集まる [写真]=鈴木元徳

プロフィール
堤幸彦(つつみ・ゆきひこ)
1955年11月3日生まれ、愛知県名古屋市千種区出身の演出家・映画監督。主なヒット作『金田一少年の事件簿』『ケイゾク』『池袋ウエストゲートパーク』『トリック』『20世紀少年』『BECK』『はやぶさ HAYABUSA』

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