2024.07.14
「めちゃくちゃ悔しいです。確実に勝てるゲームだと思ってやっていたので。自分としても15年ファイナルの舞台に立って、はじめてユニフォームの色を変えて挑んだので、勝ちたかったなというのが今、率直に出てくる感想です」
その悔しさは、試合後に大泣きしていた姿からも伝わった。
アイシンウィングスを初の準優勝へとけん引し、自身も大会ベスト5を受賞した渡嘉敷来夢は、記者会見の席で最初に決勝の感想を語ると、こう続けた。
「一試合一試合、確実にチームとして成長していると感じたので、リーグの後半戦でチーム全員で勝ち続けたい。今、7位にいますが、ここからまだ狙えると思うので、リーグ戦に向けて頑張っていきたいです」
「第91回皇后杯 全日本バスケットボール選手権大会」ファイナルラウンドでの渡嘉敷は、まさに獅子奮迅の活躍だった。準々決勝のシャンソン化粧品シャンソンVマジック戦では序盤から得点を重ねると、30得点7リバウンド2アシスト3ブロックショットをマーク。ディフェンスでも相手センターのイゾジェ ウチェを7得点に抑える働きを見せた。
続く準決勝でトヨタ自動車アンテロープス戦でも渡嘉敷は序盤から得点やリバウンドでチームを盛り立てる。そして1点を争う展開の中、試合終盤の2点のビハインドの場面では渡嘉敷自らが難しい体勢のシュートを決めて同点に(残り36秒)。すると、最後の攻撃にサイドラインのスローインで吉田亜沙美からのパスを受けた渡嘉敷は、一度はシュートを外したものの、執念でリバウンドを取り、そのままシュートをねじ込む。時間は残り1.2秒。結局、この渡嘉敷の劇的シュートが決勝点となり、アイシンが初の決勝進出。この試合でも渡嘉敷は29得点12リバウンドをたたき出していた。
迎えた決勝戦。昨シーズンまで14シーズンをENEOSサンフラワーズに所属していた渡嘉敷にとっては15年連続での舞台となった。相手の富士通レッドーウェーブには今シーズン、Wリーグでは4戦すべてに敗れていたが、試合では開始早々に渡嘉敷がリング下のシュートを決めると続いて3ポイントシュートも沈めて先行する。その後も渡嘉敷のインサイドを起点にインサイドとアウトサイドとでバランス良く攻撃を仕掛けたアイシンは、前半を覚えて9点のリードを奪った。しかし、後半に入ると攻防において修正した富士通に点差を縮められてしまう。さらに終盤にミスが続くと、そこを見逃さなかった富士通に得点を許して逆転を喫する。その後もリードを広げられ、最後は55−65で力尽きた。
アイシンはWリーグでは12月8日時点で7位に位置しているため、単独首位を走る富士通との決勝は見方によれば善戦ともいえる。だが、「環境を変えたことによってプレッシャーというのはENEOSにいたときよりも大きくなったと感じています。ただそれは、自分自身が自分自身にかけているプレッシャーでもあります」という渡嘉敷にとっては、新天地でも結果にこだわっていたからこそ悔しさは大きかった。そしてそこには周囲へのこんな思いもある。
「皇后杯は(ファイナルラウンドで)代々木体育館に入ってから、ENEOSのときよりもいいパフォーマンスができているなと思っていました、ENEOSではどちらかというとペイントの中が多かったと思うのですが、今日も3ポイントシュートが入ったし、ジャンプシュートも。ドライブは1本あったかなかったですが、オフェンスのバリエーションが増えたと思っています。それはチームのスタッフもそうですし、仲間も自分を生かしてくれるし、好きなようにやらせてくれているから。そうさせてもらっているからこそ、チームを勝利に導かないといけないと思っています」
渡嘉敷は昨年の皇后杯ではENEOSの一員として決勝を戦うもデンソーアイリスに11連覇を阻まれた、自身にとっては前回に続いて2大会連続での銀メダルだが、その違いについてこのように語ってくれた。
「どちらかというとデンソーにやられた感じが強かった」という昨年は、悔しさからであろう、メダルを飾ってはいないという。だが今回は、「自分の第二章の始まりのメダルなのでしっかりと飾って、この気持ちを忘れずにやっていきたいなと思っています」と、同じ悔しい思いは変わらないが、新天地での最初のメダル。それをあえて飾ることでその悔しさを次へのエネルギーに変えようとしている。
皇后杯は終わったが、戦いはまだ続く。「ここで終わるつもりはなく、プレーにも満足はしていません。今日(の決勝を)勝っていたら気持ち的に楽になったかもしれないけれど、この負けでチームも自分自身もまた一つ強くなるなと思っています」と、渡嘉敷。
これまでも多くの名勝負を演じてきた彼女が言う『第二章』では、どのような伝説を作るのか、楽しみでならない。
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