2025.09.26
FIBA女子アジアカップ2025で準優勝を果たした女子日本代表チーム。コーリー・ゲインズ体制となって2カ月という短期間では目標の金メダルには到達することはできなかった。しかし、一戦ごとにチーム力を高め、準決勝ではホームで大会連覇を狙う中国に90-81で勝利を飾り、7大会連続で決勝の舞台に進出した。銀メダルを獲得したゲインズJAPANのアジアカップを総括する。
文=小永吉陽子

成長株の一人、今野がチームのピンチを救うことも [写真]=fiba.basketball
今大会はパリ五輪翌年とあり、若手を多く招集して育成し、チーム力を底上げしていくことがテーマの一つだった。そのため、大会序盤は不安定な競技力を露呈するシーンもあったが、「育成には我慢が必要」と語るゲインズHCは、選手を満遍なく起用するスタイルで若手を育成し、試合ごとにチーム力を高めていった。
その中でポイントガードに抜擢された19歳の田中こころ(ENEOSサンフラワーズ)が、平均14.8得点5.5アシストのスタッツを叩き出し、初のオールスター5に選ばれる大躍進を見せた。特に中国戦では、第1クォーターに5本の3ポイントシュートをパーフェクトに決め、中国に先制パンチを仕掛けた攻撃は相手の出鼻をくじき、日本に勢いをもたらしたと言えるだろう。
また、時にポイントガードを兼任した今野紀花(デンソーアイリス)は準決勝進出決定戦のニュージーランドと準決勝の中国戦で得意の1対1が冴えわたり、クイックで3ポイントが打てる藪未奈海(デンソー)もシューターとして台頭。栗林未和(東京羽田ヴィッキーズ)は中国戦においてディフェンスで奮闘した。
ゲインズHCは「若い選手を育てるには我慢が必要です。優勝の目標は達成できませんでしたが、若手の育成に関しては目標が達成できたと思います」と若手の成長ぶりを高く評価した。

成長株の一人、今野がチームのピンチを救うことお [写真]=fiba.basketball
FIBA大会初参戦の選手が半数いた今大会は、大会序盤は不安定な競技力を露呈。レバノンやフィリピンにも競る場面があったほどで、グループフェーズを2位で勝ち上がった。そうした悪い状態を「チームが若いという理由で片づけてはならない」(髙田真希/デンソー)と、選手たちからは様々な反省や分析が出ていた。
「ボックスアウトやディフェンスの細かいところができていないし、コミュニケーションも完全ではない」(東藤なな子/トヨタ紡織サンシャインラビッツ)
「ボールがインサイドまで落ちてこないので、自分の考え方を変えて、外に出て3ポイントを打つように仕掛けているところ」(渡嘉敷来夢/アイシンウィングス)
「ディフェンスのローテーションミスも多いし、リバウンドもウォッチしているシーンが結構ある。オフェンスではインサイド陣が絡みにくくなっているので、パスのもらい方やピックを工夫したい」(宮澤夕貴/富士通レッドウェーブ)
実際に国際試合を経験することで、様々な課題が浮かび上がっていたのだ。
また、19歳でポイントガードに抜擢されたことで注目が集まった田中だが、グループフェーズでは球離れが悪く、パスが回らない課題があった。さらに、PGとSGを兼任していた今野は「強化試合のときはSGが8割、PGが2割くらいだったのが、この大会ではPGを5割くらいやっているので考え過ぎている」と停滞していた理由を語っており、大会序盤は若いガード陣が機能しないジレンマもあった。
ポジションレスバスケを目指しているゲインズ体制下では、全員が全ポジションを練習して全ポジションの役割の理解を深めながらチーム作りをしているが、短い招集期間では、アジアカップの本番を使ってチーム力を高めていくしかなかった。向上の兆しが見えたのは、突き放すことに成功した準決勝進出決定戦のニュージーランド戦の後半だった。グループ2位のため予定より1試合多く戦うことになってしまったが、若いチームには試合数をこなす経験こそが必要だったのだ。

献身的なプレーを見せた髙田 [写真]=fiba.basketball
試合をこなすごとに進化の兆しが見えた背景には国際大会の経験豊富な選手たちの貢献があった。ニュージーランド戦が終わったときに東藤は「試合中、インサイドのベテラン選手たちの声掛けが多くなったことで、ガード陣のディフェンスのミスが少なくなりました。コミュニケーションが大切ということを全員が理解した試合でした」と手応えをつかんだことを明かしている。
準決勝の中国戦では、田中や今野といった若手の得点が爆発したことがチームのアクセントになったが、陰で支えていたのはベテランたちだ。髙田と渡嘉敷が205センチと220センチの中国のインサイドに対して体を張り続けてペースを乱し、宮澤は得点やリバウンドなどでチームの窮地を何度も救った。これこそが、数々の修羅場をくぐり抜けてきた経験の賜物。若手とベテランが融合し、ようやくチームが一つになった瞬間だった。
ゲインズHCは「中国戦に照準を合わせていた」と語り、完全アウェーの中での勝利に「してやったり」の表情を見せた。
「中国にはサイズの高さからくる独特なスタイルがあります。6月の中国遠征は若手だけで行いましたが、そこでは自分たちのやりたいことを隠しながら、相手のやりたいことをスカウティングできたことが大きかった。何よりも、ベテランたちのディフェンスの貢献に感謝します」
苦境の場面でチームを支えた髙田、渡嘉敷、宮澤らベテラン3人の仕事量はあまりにも多く、現体制においては替えが効かないほどの存在感を示した。

力を振り絞ってリングにアタックした渡嘉敷 [写真]=fiba.basketball
大会序盤はパスが回らないという課題があったが、決勝のオーストラリア戦で司令塔の田中は「中国戦であれだけ自分のシュートが入ると相手は絶対にプレッシャーをかけてくると思うので、そういうときにどれだけ周りを生かせるかだと思っている。ビックを使ったり、自分が攻めてディフェンスを引きつけたい」と修正を図り、渡嘉敷との2対2を繰り出すシーンが多くなっていた。
ただし、ファイナルではオーストラリアよりも一試合多く戦っている3連戦の疲労や、インサイドでねじ込まれてしまうフィジカル面で苦戦。後半には16点のビハインドから同点まで追いつくものの、そこから、もうひと踏ん張りができなかった。
ゲインズHCは「言い訳はしたくないが、体力の限界があった」と分析。現状ではここまでが精一杯の力だった。チームをけん引した宮澤も「チームのポテンシャルを感じた大会でしたが、このままではアジアも世界でも簡単には勝てないことを再認識しました。さらに課題を克服して前に進みます」と新たな誓いを立てた。

ゲインズJAPANの今後から目が離せない [写真]=fiba.basketball
準決勝の中国戦では田中と川井麻衣(デンソー)がPGを務め、それまでPGの役割も担っていた今野がSGの役割に徹することでチームが機能した。中国に勝利したあとガードの起用法についてゲインズHCに質問すると「試合の流れによって決めている」との答えをしながらも、こう付け加えた。
「この大会はPGが2人(川井と田中)でした。今回はこういう選考になりましたが、次からはPGは3人選びたい」
具体的な名前こそあげなかったが、実績あるメンバーたちの中には、ラージリストに含まれながらもコンディションが整わずに離脱した町田瑠唯(富士通)や、WNBA挑戦中のため今もアメリカでトレーニングを積んでいる山本麻衣(トヨタ自動車アンテロープス)などがいる。また、昨季の途中から負傷を抱えていた赤穂ひまわり(デンソー)や林咲希(富士通)らの完全復帰にも期待したいところだ。もちろん、これらの実績あるメンバーたちも競争を勝ち抜かなければロスター入りはできないが、彼女たちが健康であれば、今後の選考に絡むことは間違いないだろう。
ゲインズHCはグループフェーズのオーストラリア戦で逆転負けを喫したとき「私のミスがあって敗れたので選手に謝罪をしました」と話しており、帰国後の総括会見でもそのことをみずから切り出し、「私が犯したミスについては具体的には言いませんが、次の試合ではその課題が解決していることをお見せします」と語り、このように大会を総括した。
「望んでいた金メダルではありませんでしたが、中国を倒したことで世界からリスペクトを取り戻し始めたと思っています。私がWNBAで優勝したときもチーム作りには1年を擁しましたが、日本の選手たちはたった2カ月、12人が揃ってからは2週間半の練習でチームの約束事を覚えました。短期間でここまで来られたのは選手たちの賢さのおかげです。今後、もっと時間をかけてディティールを徹底して準備すれば日本はもっと強くなります。長期的なゴールは世界からリスペクトを得るチームになること。このアジアカップは長いプロセスの始まりです」
アジアカップを通して、若手の育成とチームの土台を作った新生ゲインズJAPAN。今後、アジア2位の成績を収めた日本は、来年3月に開催されるFIBA女子ワールドカップ2026の出場権をかけた予選に臨む。それまでは秋に開幕するリーグ戦でしのぎを削りながら、各自がレベルアップを図っていくことになる。
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