2026.10.26
試合時間、残り0.9秒。沖縄サントリーアリーナを包む緊張感が最高潮に達した。
10月25日に行われた「SoftBank ウインターカップ2026 令和8年度 第79回全国高等学校バスケットボール選手権大会」の沖縄県予選男子決勝。この土壇場で果敢にリングへアタックし、ファウルを誘ってフリースローラインに立ったのは、1点差を追う県立沖縄水産高校のマクミランアレックスだ。数千人の視線を一身に浴びながら2本とも沈め、普段はあまり感情を表に出さない男が、雄叫びを上げた。
1年前に同じ舞台で苦杯をなめた興南に、59-58で劇的な逆転勝利。立役者のマクミランは「あのフリースローはめっちゃ体が震えました。でも、最後の最後で『自分が決めてやる』という気持ちが強かったので、決めきれて良かったです。自然と吠えたりするのが初めてで、ちょっと恥ずかしかったです」と安堵の表情で振り返る。

全国大会への切符をつかみ取り、喜びを爆発させる沖縄水産のメンバーら[写真]=長嶺真輝
U18日本代表に選出されるなど、今は全国区の選手となったマクミランだが、下級生の頃はプレーがうまくいかないと気持ちが沈み、消極的になることも多かった。中学生の頃からマクミランを見てきた嘉陽宗紀コーチは「今までのアレックスだったら(最後の場面で)パスしていたと思う。自分がチームを背負うという責任感があのプレーにつながったんだと思います」と目を細める。
土壇場で見せた強気なプレーは、マクミランの心の成長を象徴する場面だった。

身長200センチ台のビッグマンと対峙するマクミラン[写真]=長嶺真輝
勝敗を分けた最後のプレー。残り3.4秒でタイムアウトを取った嘉陽コーチが指示したのは、右のサイドラインから左ローポストのマクミランにボールを入れ、ゴール下に走り込むブリティンジェレド琉貴にパスを合わせるデザインだった。
しかし、身長198センチのマクミランは、目の前に立つ200センチ超の留学生に体をぶつけ、自らシュートを狙った。「スペースが空いていて、手が絡んだらファウルをもらえる状況だったので、それを狙いに行きました」。極限の緊張感の中で冷静さを貫いた。
こうしたマクミランの判断力と強気な姿勢を育んだのは、これまで多くの公立校を全国に導き、Bリーガーも輩出してきた嘉陽コーチの育成方針だ。「指導者になると、選手の判断や悪癖に対して良くない部分が目につくんですけど、それをただ『ダメ』と言うのではなくて、ミスが起こった原因を丁寧に教える必要があります」と説く。

試合時間残り3.4秒、ベンチで指示を出す沖縄水産の嘉陽コーチ[写真]=長嶺真輝
例えば、狭いスペースにドリブルで入り込んでボールを失った場合、その判断を責めるのではなく、ボールの持ち方やステップワーク、パスの出し方を教える。「習慣を変えるためには行動が変わらないといけない。行動が変わって、習慣が変わって、心が一番最後についてくる」と続ける。成功につながる技術や知識を身につけ、行動を変える。その積み重ねが自信を育み、勝負どころでの適切な判断や積極性を生むという考え方だ。
シュートやパスの選択肢を少しずつ広げてきたマクミランも「今年の夏のインターハイ予選決勝で興南と対戦した時は、自分が思うようなプレーができず、気分が下がり、何もできずに負けてしまいました。今回の試合では課題だったフリースローも含めて試合中に改善でき、自分も成長したなと感じました」と、精神面の成熟に手応えを示す。
高校年代の世代別代表に選ばれるのは、全国から有力選手が集まり、高いレベルで切磋琢磨する強豪私立校でプレーする選手が多い。一方、マクミランは地元沖縄の公立校に所属しながら、U18日本代表に選出されてきた。バスケットボール部の専用体育館や設備の整ったトレーニングルームがあるわけでもない中、いかにして代表クラスの力を身につけたのか。
198センチという高さや嘉陽コーチの指導によるところも大きいが、本人も工夫を重ねてきた。「環境面で私立との差は感じますし、自分はもともと体が弱い部分があります。それでも、フィジカルで戦うことが難しいなら(他のビッグマンより)走れるようにするとか、味方を生かすプレーを意識したりしていました」と、自らの強みを磨いてきた。

ペイントアタックするマクミラン[写真]=長嶺真輝
一方、代表と所属チームでの活動を両立する難しさもあった。周囲の選手のレベルも、チームのプレースタイルも異なる。マクミランは「代表では中をメインでプレーしますが、沖水に帰ってきたら外でもプレーする。そこに適応する難しさはありましたが、時間をかけて慣れていきました」と振り返る。
その過程を知る嘉陽コーチは「彼もチームと日本代表でプレーする中で、沖水に帰ってきた時に、自分がやりたいことと、できないことの間で葛藤があったと思います。それでも我慢をしながら役割をこなし、最後にエースとして勝負にトライした。この過程は、彼の人生の中でとても大きな意味があると思います」とうなずく。教え子の成長を前に、少し目を赤らめているように見えた。
世代トップクラスの選手たちから刺激を受け、リーダーとしての自覚も芽生えた。「いろいろな経験を積む中で自分が主役になることが増え、自分からチームメートに発信しないといけないと思っています」。練習中から積極的に声を出し、周囲を引っ張るようになった。
以前は大舞台で緊張することが多かったというが、「今回は最後まで緊張なくプレーできました」。試合を通して落ち着きを保ち、最後のフリースローでは震えるほどの重圧も乗り越えた。

試合後、仲間たちと笑顔でハイタッチするマクミラン[写真]=長嶺真輝
さらなる成長に向けた課題も自覚している。今夏に八村塁が主宰する次世代育成プロジェクト「BLACK SAMURAI SUMMIT 2026」に参加した際には、八村からビッグマンの守り方をマンツーマンで直接教わった。興南との決勝でも留学生を相手に教えを生かせた場面があった一方、「チームではベースラインを抜かれたらダメという話をしていましたが、それを何回もやられて迷惑をかけた」と反省を口にし、改善を誓った。
次に待つのは、高校最後となる全国の舞台だ。マクミランは「もっとアグレッシブに、『自分が決めてやるんだ』という強い気持ちを持って戦いたいです」と力を込める。チームとしても、「ディフェンスから走るという、沖水らしいバスケをやっていきたい」と意気込む。
その中心に立つのは、もう勝負から逃げないエースだ。
文・写真=長嶺真輝
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