2019.12.26

歴戦の強者である古川孝敏が若手の多い秋田で様々な経験を伝授

「チームとして勝ちたいだけ。伝えることは伝える」とプロに徹する古川孝敏 [写真]=B.LEAGUE

秋田は前半のリードを守れずA東京に逆転負けを喫した

この試合、前半だけで12得点を挙げた保岡龍斗。将来が期待される秋田のメンバーの1人だ [写真]=B.LEAGUE


 12月25日に行われたBリーグ第14節において、秋田ノーザンハピネッツはアウェーでアルバルク東京と対戦。第1クォーターはハードなディフェンスで24-14と主導権を握り、ジャスティン・キーナン保岡龍斗のシュートもよく決まって前半は10点リードをキープした。

 しかし、後半は攻守にギアを上げたA東京の逆襲に遭い、71-79であえなく逆転負けとなった。今季はすでにA東京と3度対戦して2勝1敗と勝ち越しており、この4度目の激突も相手のルカ・パヴィチェヴィッチヘッドコーチが2つのテクニカルファウルで第2クォーター早々に退場となるなど、秋田にとっては試合を優位に進め得る状況だった。だが2連覇中の王者の底力をまざまざと見せつけられた格好だ。

 とはいえ、レギュラーシーズンの3分の1が過ぎた現時点で12勝11敗と白星先行を維持。昨季を17勝43敗と3割に満たない勝率で終えたことを考えると、今季の秋田が一味違う姿を披露していることは確かだ。B1復帰を果たした昨季はファウルやターンオーバーの多さで自ら試合を壊してしまう傾向があったが、アシスタントコーチから昇格した前田顕蔵ヘッドコーチがその課題を大きく改善。B1のプレーのクォリティーにアジャストし、チャンピオンシップ進出も十分に狙えるチームに成長した。

 そのステップアップに一役買っているのが、今季秋田に加わった古川孝敏。アイシンシーホース(現シーホース三河)でキャリアをスタートさせ、その後は栃木(現宇都宮)ブレックス、琉球ゴールデンキングスと強豪チームを渡り歩いてきた歴戦の強者である古川は、ただの好シューターにとどまらず、勝ち方を知る選手として存在感を放つ。

 前述の通り、今季のA東京戦は2勝1敗とリードしていたとあって、今回の対戦に臨むにあたっては古川も「自信を持っていける部分はあったと思う。変な気負いもなく、良い状態だったとは思います」と、チームにはポジティブな雰囲気を感じていたようだ。しかしその一方で、富山グラウジーズに敗れた前節2戦目の試合内容が今季の戦いぶりを見失うものであったことから、「今回はどうしてもそのことが頭にあって、アルバルクどうこうというよりはそっちの意識のほうが強かったかなと思います」と、同じ過ちを繰り返さないことに意識を傾けていたと語る。試合の前半で優位に立つことができたのは、A東京に対する自信よりも危機感のなせる業だったということだろう。

 後半に入ると高い修正能力を発揮したA東京に主導権を奪われて逆転負け。B1という国内最高峰のステージで勝ち進んだ経験を持たない秋田は、一度崩されると立て直しが利かないところがまだ出てしまう。これはどのチームも踏むステップの1つであり、昨季に比べて勝ち星が伸びているとはいえ、秋田にはそういった戦術やスキルだけでは解決できない課題がまだ残されていることを、移籍1年目の古川はよく理解している。

「試合前の準備はみんなしっかりやっていると思うが、試合中は何かあるとどうしても下を向きがちだし、それぞれが気持ちの部分でいろいろ抱えてまとまらなくなると空中分解してしまう。そこでグッと締めて、チームとして戦えるようにならないといけない」

自分に課せられた使命を認識するシーズンを送る

秋田の前田顕蔵HCは早めのタイムアウトでチームの立て直しを図ったが、後半、逆転を食らった [写真]=B.LEAGUE


 3シーズン前にはBリーグ優勝に加えてファイナルMVPにも輝くなど高い経験値を持つ古川は、当然のようにその経験をチームに還元することをファンに期待され、チームからも必要とされることになる。そして何より、このチームで果たさなければならない役割を古川自身が自覚し、ごく自然に行動に移しているとのことだ。

「僕はチームとして勝ちたいだけなので、伝えることは伝える。コミュニケーションは常に意識してやっています。それができているとかできていないという感じではなく、僕は普通にやっているだけ。それが自分の役割だし、むしろそうするつもりでここに来たので、強制されてやっているわけでもないです」

 まだ発展途上にある秋田というチームにおいて、自身に課せられた使命を誰よりも認識している古川。秋田が強豪チームとして名乗りを上げるために、古川は自身が備えるプレーのクォリティー、経験値、コミュニケーション能力を惜しむことなくチームに注ぎ込む。その献身性もまた、古川が持つ武器の1つと言っていいだろう。

「技術的な部分で自分の持ち味は出していきたいし、それをうまくチームにフィットさせていきたいとは思いますが、もっともっとしゃべって、“チームとしてまとまっていけるように”ということを感じています。今までいろんな経験をさせてもらって、もちろんそれが全部正しいかというとそうではないと思いますが、自分が感じることを伝えて、みんながどうすることがこのチームにとってベストなのかというのを構築してきたい。そのために自分が手助けしたり何かチームのためにできることはないかというところですね」

文=吉川哲彦

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