2023.05.30
残り30秒を過ぎた頃、勝利を確信したキングスブースターから拍手が上がった。88-73、タイムアップ。横浜アリーナを白く染めた大観衆が、総立ちとなった。
「キングスをファイナルまで連れてきてくれたプレーヤー、スタッフ、ファンの皆さん、関係者の皆さんに本当に感謝しています。このファイナルの経験は、キングスにとってかけがえのないものだったと思うので、またここに戻ってきたいなと思います」
昨シーズンの頂上決戦で敗れたあと、桶谷大ヘッドコーチが口にした言葉だ。初のBリーグ制覇をあと一歩で逃したこの日から、琉球ゴールデンキングスの新たな挑戦がスタートした。
「まずは昨年足りなかったピースをかき集めるところから始まった」。昨シーズンの悔しさをコート上で味わったアレン・ダーラムは、2022-23シーズンの開幕当初をそう振り返った。
2021-22シーズンは当時のB1記録となる20連勝を達成。クラブ初のチャンピオンシップ決勝の舞台にもたどり着いたが、悲願達成には田代直希、牧隼利、渡邉飛勇というピースが足らなかった。しかし、今シーズン途中にはこの3枚のピースがそろい、開幕前にはジョシュ・ダンカンと松脇圭志、2023年が明けてからはカール・タマヨという「新たなピース」(桶谷HC)も加わった。
新たな布陣でリベンジを果たすために、指揮官は「去年と違うバスケットを目指さないといけなかった」と明かす。その中でも重要視したのは、試合に臨むうえでの「マインドセット」だった。
「去年は一つひとつの試合を勢いで勝ってきた感じがありましたけど、今シーズンに関しては『勝つだけじゃなく、そこで成長しなければいけない。常に課題が残るような試合をしよう』ということにフォーカスしてきました。試合の中でしっかり成長してきましたし、このCSでも一番成長したチームが一番強いチームになると思っていたので、そういうマインドセットを持って戦ってきたところが今シーズンの強さだなと思っています」
チームは過去稀に見る大混戦となった地区優勝争いでも王座を守り、「日本生命 B.LEAGUE CHAMPIONSHIP 2022-23」も4戦負けなしで勝ち上がった。最後の相手は史上最強の千葉ジェッツ。それでも、今季の琉球には昨年の大舞台を経験したことで生まれたほどよい余裕、シーズンを通して積み上げてきた自信、初優勝への熱き想いが集結した強大な力があった。
「相手は史上最強の千葉さん。とはいえ、このCSで勝ったチームが最強で、勝ったコーチが最強で、勝ったプレーヤーが最強だと思っている。このファイナルは自分たちがそう言えるように頑張りたい」
桶谷HCの宣言どおり、「日本生命 B.LEAGUE FINALS 2022-23」で千葉Jとの死闘を連勝でものにし、悲願のBリーグ制覇を達成。指揮官は「最後の大舞台で、一番いい状態でチームとしてのピースがはまりました」と顔をほころばせた。
昨季のファイナルだけでなく、今季の天皇杯、東アジアスーパーリーグでもタイトル獲得のチャンスをつかめなかった。過去には“雑草”と唱われたこともある。Bリーグが誕生して以降、ブースターの心を満たすことができず、誰よりも責任を感じていたのは岸本隆一だろうか。今や唯一の沖縄出身選手となった33歳は、悲願達成と同時にしゃがみ込み、目を真っ赤にした。
昨シーズンのファイナルの記者会見では、「一言で自分の気持ちを表すのは難しい」と切り出した岸本。今回のフラッシュインタビューに応じた際も感情が入り交じっていたが、その内容は全く違うものだった。
「信じられないというか、うれしいというか……。本当に一言では表せられない、人生で初めて味わうような感情でいっぱいです」
白のチャンピオンTシャツに身を包んだ選手たちが、キャプテンの田代を中心に高々とトロフィーを掲げ、無数の金色のテープが舞った。「団結の力」を意味するホワイト&ゴールドが、とても眩しく見えた。
取材・文=小沼克年
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