2023.10.29

苦しい時期を乗り越えて帰還した田中力が古巣でプロキャリアをスタート…「チームに貢献して優勝を狙いたい」

横浜BCに特別指定選手として入団した田中力 [写真]=鳴神富一
スポーツジャーナリスト

 今シーズン、タイトル獲得を目標に掲げている横浜ビー・コルセアーズに才能あふれる1人のガードが特別指定選手として入団した。横浜BCのU15に所属したのち、16歳で単身アメリカに渡り、本場のバスケを5年間経験した田中力だ。

 史上最年少での日本代表候補選出(15歳7カ月)や、『JX-ENEOS 第30回都道府県対抗ジュニアバスケットボール大会 2017』では神奈川県代表として優勝に導き、MVPを獲得するなど、輝かしい経歴を築いた。渡米後は世界のトップアスリートを育成するIMGアカデミーに進学し、その後、ハワイの高校やNAIA(全米大学運動選手協会)のベテル大学に活躍の場を移した。

 その田中が、9月27日に横浜BCの練習生として合流することがクラブの公式SNSで発表されたことを見て驚いた人も多かったことだろう。それから1カ月の時間を経て10月27日に特別指定選手に登録、翌日に開催された広島ドラゴンブライズ戦でいきなりベンチ入り、試合には出場しなかったものの、チームメートをベンチから鼓舞する姿をファン・ブースターの前で披露した。そして、その試合後に入団記者会見が行われた。

「(横浜BCでプレーすることが)前からの夢でもありましたから、うれしい気持ちでいっぱいです。ここでプレーできることをすごく楽しみにしています。合流してから雰囲気も良く、先輩方もみんないい人たちで良かったです。これからは積極的にプレーしてチームに貢献し、優勝を狙いたいです」と、田中は冒頭に意気込みを語った。

田中は入団の喜びを会見で語った [写真]=鳴神富一


 アメリカでのプレーを続けることも選択肢にあった中で、帰国を決断した理由は生まれ育った国、家族や地元への愛だったという。

「日本が恋しかったです。家族にも会いたかったし、昔から縁のあるチームでプレーしたい気持ちをずっと抱いていました。故郷の横須賀は大好きですし、帰って来られてうれしい気持ちでいっぱいです。今回の契約ができて、クラブをはじめ、関わる人たちに感謝しかありません」

 田中のプロ入りに特別な思いを抱いている選手がいる。それがキング開だ。契約発表当日には自身のXアカウントで田中との過去の写真を掲載し、自身の思いを綴った。

 会見前に改めて話を聞くと、「本当に感慨深いですね。ずっと昔から一緒にバスケをしてきましたから。コロナ禍で苦しい時期に『将来、プロの舞台で一緒にやれたらいいよね』と話していて…最初は対戦相手でのイメージだったけど、まさかチームメートとして一緒にやれるとは思っていませんでした。自分としても本当にうれしいです。彼とはお互いにサポートし合える、すごくいい友情関係ですね。今後、絶対に試合出場のチャンスはあるので彼らしさ全開でやってほしいです」とエールの言葉を贈った。

 その話を田中本人に伝えると、「うれしい気持ちしかないですね。2人で『一緒にプレーできたらいいな。でも、無理だろうな』と話をしていたので、今回のチャンスが巡ってきて…実際にチームメートとしても先輩としても素晴らしい存在です」と満面の笑みを見せた。「もう本当に実現して良かったです」と喜びの言葉をつないだ。。

 コロナ禍という人類が経験したことのない事態に直面し、しかも身近な存在がいない異国での生活では非常に苦しい時期が何度もあったという。その中で、「人間として大きく成長できたと思う」とアメリカでの5年間を振り返りつつ、「自分を信じないと誰も信じてくれない。本当に周囲の声を気にせずに自信を持ってプレーして、活躍することが大切だと感じました」とメンタルも成長した。

 将来、海外への再挑戦や日本代表についてなど、気になるところは多い。ただ田中は、「夢としてはありますけど、今はこのチームで優勝することしか考えていないので、そのことだけに集中していきたいです」と力強く語ってくれた。

 会見の最後には色紙に「Aggressive」という言葉を記した。これには「自分の持ち味でもある、情熱や気持ちを込めたプレーを見せていきたい」という思いが込められている。

会見では今の思いを色紙にしたためた [写真]=鳴神富一


 これまで一番応援してくれた母と兄の2人の思いを背負って戦うという思いを込めて、選んだ背番号は「2」。苦しい時期を乗り越えて日本に帰還した田中の活躍は、クラブ悲願ために不可欠だろう。プロという大海に漕ぎ出した新人海賊の航海は始まったばかりだ。

文・写真=鳴神富一

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