2023.07.19

【インタビュー】3度の手術に弟の存在…渡邉飛勇は苦難乗り越えて日の丸を背負う戦いへ

日本代表に貴重なビッグマンとしてメンバー入りを目指す渡邉飛勇 [写真]=野口岳彦
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 8月25日に開幕を控えるFIBAワールドカップ2023。開催国の1つとして大会に臨む男子日本代表は、来たる決戦の日に向けてすでに候補選手たちを集め強化合宿を実施している。

 選手たちはこの大舞台に向けて、どのような思いを胸にトレーニングに励んでいるのか。幼少期の思い出から今大会にかける思いまで、一人ひとりに話を聞いていく連載。その4人目として、度重なる手術を乗り越えて再び日本代表に戻ってきた渡邉飛勇に話を聞いた。

インタビュー・文=酒井伸

■一時は「もうダメかな」と落ち込みながらも、弟の活躍に刺激を受けた日々

ーー母親が日本バスケットボール協会(JBA)に売り込みのメールを送った結果、渡邉選手は2018年に日本代表初招集を果たしました。当時の話を詳しく聞かせてください。
渡邉 母親がJBAにメールを送ったのですが、僕はそのことを全然知りませんでした。新潟県の帝京長岡高校出身で、ポートランド大学のチームメートだったタヒロウ・ディアバテ(2022-23シーズンはベルテックス静岡に所属。豊田合成スコーピオンズへ移籍)選手を経由して話を聞きました。母親は僕に内緒でメールを送っていたみたいで、JBAから連絡が届いた時はビックリしました。

ーー日本代表に選ばれた時の心境は?
渡邉 2018年1月に熊本で行われた自身初の合宿は緊張しました。でもチャンスをもらえてすごくうれしかった。また、感謝の気持ちなどいろいろな思いがあって、母親の国を背負って戦えるのは最高でした。

ーー日本代表への思いはかねてから持っていたのでしょうか?
渡邉 様々なスポーツの日本代表チームを応援していて、正直アメリカ代表のことは全然応援していませんでした。オリンピック、ワールドカップに関係なく、日本のことを応援していましたけど、バスケットボール日本代表のことは全く考えていませんでした。高校の最終学年になった時、D1の大学でプレーできるかもしれないという話が舞い込んできました。それまでは高いレベルでプレーできないと思っていましたけど、そういったチャンスがきて、すごくビックリしたのを今でも覚えていますね。

ーーバレーボールと両立していたバスケットボールで日本代表に選ばれるまで成長を遂げました。
渡邉 ずっとバレーボール選手になりたいと思っていました。高校時代はバスケットボールよりバレーボールのほうが上手でしたからね。でも、ポートランド大学に進学してからバスケットボール一筋でプレーすることを決めました。

ーー日本代表初招集の際はフリオ・ラマス氏がヘッドコーチを務めていましたが、東京オリンピック後からトム・ホーバスHCが指揮を執っています。
渡邉 システムは全然違いますよ。ラマスHCは僕にスクリーナーの役割を求めていました。でも、ホーバスHCはいろいろなことを求めています。僕はシュートを打てない、ドリブルもできない、パスはまずまず。このチームでは厳しい(立場だ)と思います。でもリバウンドが一番強いから、チャンスがあります。

ーー2021年の夏にケガをしたあと、手術が重なり、2022-23シーズン途中の2月にようやくプロデビューを果たしました。どのようなモチベーションで過ごしていたのでしょうか?
渡邉 僕の弟(渡邉晃瑠/2023年7月に堺ブレイザーズへ加入)はバレーボール選手です。僕がケガをしていた時、弟がハワイ大学のスターターになりました。ハワイ大学はアメリカで一番強い大学。僕はいつも弟の試合を見ていました。コートで戦い、いいプレーを見せていたので、僕は感動していました。弟がいなければ、ちょっと落ち込んでいたのかなと。

弟の渡邉晃瑠はバレーボール選手。大学卒業後、日本でキャリアを始める [写真]=Getty Images

ーーリハビリ期間はプレーできないもどかしさがあったのでは?
渡邉 ありましたね。手術を3回受けましたが、2回目のあとリハビリ中に痛みが出て、「もうバスケットボールはダメかな。僕は終わっちゃうかもしれない」と。でも、本当にいいお医者さんを見つけて、治すことができました。

ーー長期離脱から戻ってきた時はうれしかったと思います。
渡邉 復帰戦は沖縄アリーナで富山グラウジーズとの試合。最高の気持ちでした。ジャック・クーリー選手のようにガッツポーズして、本当に最高でした。そのすぐあとに(Window6の)日本代表に入って、試合に出て。ビックリでした。そんなにいいプレーをできるとは思いませんでした。FIBAのレベルはすごく高いですから。(ジョシュ)ホーキンソン(サンロッカーズ渋谷)、富樫(勇樹/千葉ジェッツ)、河村(勇輝/横浜ビー・コルセアーズ)、(テーブス)海(アルバルク東京)……。チームメートが本当にうまいから、僕はフィニッシュするだけ。ほかのチームメートと比べて、僕の仕事は簡単でした。

長期離脱から復帰を果たし、2023年2月に待望のBリーグデビュー [写真]=B.LEAGUE

ーーホーバスHCのバスケットはいかがでしたか?
渡邉 本当に難しかったです。難しいし、長期のケガから戻ってきたばかりだったので。いろいろな理由が重なって、本当に大変でした。スキルはあまりないけど、エネルギーだけを出していこうと思っていました。

ーープレータイムが限られたとはいえ、イラン戦で6得点8リバウンド、バーレーン戦でも6得点5リバウンドを記録しました。
渡邉 あまりいいことは言われませんでした。ホーバスHCのシステムではいろいろなミスがあって、今もミスがあります。僕の役割は厳しいです。(グループステージで対戦する)ドイツ、フィンランド、オーストラリアの選手は大きいから、僕のリバウンドは難しい仕事になると思っています。ワールドカップは厳しいグループに入ったと理解しています。特にインサイドのポジションはリバウンドを争わなければいけないので、厳しい戦いになるでしょう。まずは自分を律して、準備していきたいです。日本が目指すのは、どのグループに入っても変わりません。自分がメンバーに入るのか、入らないのかは置いておいて、日本が強くなるために、自分に何ができるのかを練習で常に考えて、試合でもいいパフォーマンスを発揮したいと思っています。「Window6でいいプレーをした」と言っていただきましたが、それは過去のことなので、今はもう前を見て、気持ちを切り替えています。

ーーホーバスHCから求められている役割は?
渡邉 リバウンド、フィニッシュ、ディフェンス。やれることが限られているかもしれませんが、自分がやれることの精度を高めて、レベルアップしていきたいです。チームメートが僕のレベルに追いついたとしても、また自分が成長できれば、ほかもまた追いついてくる。そういった相乗効果が出てくると思っています。

■「またプレーできていること自体がうれしい」

身長は候補選手で2番目に高い207センチ。ゴール下での活躍が期待される [写真]=伊藤大允

ーーワールドカップで対戦したいチームや選手はいますか?
渡邉 今は毎日を頑張ることだけに集中しているので、現状は対戦したい選手がいません。日本代表候補の合宿に呼んでもらって参加していますけど、ワールドカップ本戦のメンバーに選ばれたわけではありません。自分自身はまだまだ伸ばさないといけない部分があるし、考えなければいけないこともたくさんありますから。今は自分がやるべきことに集中して、頑張りたいと思っています。

ーーWindow6から現在に至るまで、どのようなことを意識してきましたか?
渡邉 Bリーグでは5番(センター)で出ることが多く、もっと強くならなければいけません。日本代表でホーバスHCの指導でシューティングフォームを変えて、うまくなりました。3ポイントもミッドレンジも。もっとバスケットボールを知りたいし、もっとスマートな選手になりたいです。

ーーこれまでのワールドカップやオリンピックで思い出に残っていることは?
渡邉 東京オリンピックの時は(シェーファー)アヴィ(幸樹/シーホース三河)、ギャビン(エドワーズ/宇都宮ブレックス)といつも一緒にご飯を食べて、散歩していました。今回はアヴィがケガで、ギャビンも選ばれなかったので寂しいです。アヴィとはずっと代表チームで一緒に練習をしてきて、シューティングパートナーでもありました。どれだけリバウンドを取ったのか、どれだけ得点を取ったのか競い合っていて、自分の隣にいて当たり前の存在でしたから、彼がいないというのは、心にポッカリと穴が空いたような感じですね。

ーー日本のグループステージが行われる沖縄アリーナは渡邉にとってもホームアリーナです。
渡邉 レギュラーシーズン中は温かい応援でしたけど、チャンピオンシップの時は声がすごく大きかった。本気の応援を受けられて最高でしたね。ワールドカップはチャンピオンシップの時と同じような感じになると思っています。いい空気を作ってくれる沖縄のファンは世界一です。ロッカールームはほかのBリーグチームと比べて、レベルが全然違います。まるでNBAのようです。

ーーオリンピックではメンバーに選ばれながらも出番がありませんでした。それだけに今回のワールドカップへかける思いが強いと思います。
渡邉 僕はオリンピックのメンバーに選ばれ、昨シーズンのBリーグでも優勝しました。大きな手術を3回も経験しました。スポーツ選手として、バスケットボール選手としてやれることをたくさん経験してきたと思っています。今はそういう経験があるからこそ、自分にできることを毎日の練習で100パーセントを出し尽くそうと思っています。今回のワールドカップでメンバーに選ばれたらすごくうれしいですけど、選ばれなかったとしても自分のやるべきことをやっているのであれば、このチームの助けになると思っています。最後の結果にフォーカスしていなくて、やるべきことを毎日出し尽くすのを意識しています。過去の経験から、こうやって自分のモチベーションに変えられたと思っています。

ーー日本を背負って戦うことについては?
渡邉 本当に感動しますよ。オリンピックのメンバーに選ばれて、10分ぐらい泣きました。今回も10分かそれ以上泣きそう。3回の手術を経てプレーしていますが、「バスケットボールはもう2度と無理だよ」と言われてもおかしくないようなケガでした。こうやってまたプレーできていること自体がうれしいですね。代表に選ばれるチャンスが目の前にあるのは、本当に楽しいチャレンジだと思っています。

予選最後のWindow6で“ホーバスジャパン”デビュー [写真]=野口岳彦

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