2020.09.15

【車いすバスケリレーインタビュー 男子Vol.8】鳥海連志「掲げる青写真は“NBAのコービー・ブライアントになる”」

最年少17歳でリオパラリンピックに出場し、今やA代表の主力として活躍する鳥海連志(中央)[写真]=斎藤寿子
新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年よりスポーツ専門ウェブサイトで記事を執筆。車いすバスケットボールの取材は11年より国内外で精力的に活動を開始。パラリンピックは12年ロンドンから3大会連続、世界選手権は14年仁川、18年ハンブルク、アジアパラ競技大会も14年仁川、18年ジャカルタの各大会をカバーした。

インタビューした選手に「現在成長著しい選手」「ライバルだと思っている同世代選手」「ベテランから見て将来が楽しみだと思っている若手」「若手から見て憧れているベテラン」などを指名してもらい、リレー方式で掲載するこの企画。車いすバスケットボール選手の個性的なパーソナリティーに迫っていく。

写真・文=斎藤寿子

 中学時代、ジュニアの代表合宿に初めて招集された時に知り合い、それ以降、親交を深めているというVol.7に登場した寺内一真(富山WBC)と鳥海連志(パラ神奈川)。寺内は「(同学年の)連志が自分たちの世代の代表としてリオパラリンピックに出場したことが嬉しかったし、自分自身の励みにもなった」と語る。高校3年時に世界最高峰の大会に出場し、今やA代表にも欠かすことのできない存在となった鳥海。彼にとってA代表とはまた違う意味を持つというジュニアについて、そして将来の目標について聞いた。

ジュニアチームにある“みんなで一緒に”の思い

 2019年からWOWOWに所属する鳥海。中学1年から始めた車いすバスケは、今年でちょうど10年目を迎えた。2014年夏にA代表の強化合宿に初招集されると、翌年に千葉で開催されたリオパラリンピックのアジアオセアニア予選に出場。16年リオパラリンピック本戦では、10歳以上も上の先輩たちの中で、唯一の10代として出場し、同世代では抜きん出た存在だった。

 リオ後は男子U23日本代表チームの副キャプテンに抜擢され、17年の男子U23世界選手権ではエースの一人として活躍。ベスト4進出に大きく貢献し、キャプテン古澤拓也(パラ神奈川)とともにオールスター5に輝いた。

 来年に延期となった東京パラリンピックでは、日本男子初のメダル獲得を狙う。さらに日本で開催が予定されているU23世界選手権のメンバーとしても活躍が期待されている。

 今やA代表でも世界から注目されている鳥海。一方、ジュニアにはA代表とはまったく異なる思いがあるという。

「結果が求められるA代表は、言ってみればチームの全員がライバル。仲間でもありますが、相手を蹴落としてでも自分が、みたいなバチバチ感がある。もちろん、それは代表として必要なことですし、ジュニアにも少なからずそういう競争心はあります。ただ僕にとってジュニアは、みんなで一緒にうまくなって、一緒に戦っていこう、という気持ちのほうが強いんです」

 その背景には、鳥海がまだ出身地の長崎にいた頃のことが大きく関係している。高校時代、鳥海は九州ジュニア選抜の一員としてU25日本選手権大会に出場していた。当時のチームには毎年同じ目標が掲げられたという。それは「大会期間中に、チーム全員が必ず得点を決めること」だった。

「ジュニア選抜には、車いすバスケを始めたばかりの選手もいたりするんですね。でも、そんなの関係なく、みんなで得点を決めにいって、みんなで一緒にゲームを楽しもう、というのが九州ジュニア選抜の目標でした。今もそれが染みついているんでしょうね。U23に対しても、同じように考えているんです。もちろんU23世界選手権でいい成績をおさめることも大事にしていますが、それ以上にみんなにゲームを楽しんでもらいたい、という気持ちがある。そのために自分ができることをしたいと思っています」

次のU23世界選手権では、最年長となる鳥海。A代表として活躍する自分が一番に、世界の登竜門である舞台を楽しむつもりだ。それが将来の日本代表を担う同世代のレベルアップにもつながると考えている。

4年前のU23世界選手権ではエースとしてチームを牽引し、世界でも抜きん出た存在として個人賞にも輝いた[写真]=斎藤寿子

将来は車いすバスケ界のトップスターに

 高校時代に日本代表として海外遠征に行くようになったことがきっかけで、鳥海は海外に強い関心を抱くようになったという。東京パラリンピック後は、海外リーグでプレーするつもりだ。

「何よりも世界のトップ選手たちとプレーしたいんです。そして、自分がどこまでレベルアップできるのか挑戦したみたいと思っています」

 来年の東京パラリンピックで金メダルの最有力候補でもあるアメリカやイギリスの代表選手たちとプレーしたいと考えている鳥海。なかでも同じ20代の選手たちが主力として活躍し、18年の世界選手権では初優勝に輝いたイギリス代表の選手たちとしのぎを削り合うことを望んでいる。

 すでに国内トッププレーヤーの仲間入りを果たし、パラリンピックを始めとする数々の世界の舞台を経験してきた鳥海。だが、まだ21歳と若く、車いすバスケ人生のピークはこれからだ。

 果たして今、彼の頭の中で思い描く、一番先の向こうにある“未来像”とはどんな姿なのだろうか。この問いに、鳥海はある一人の人物の名を挙げた。今年1月に不慮の事故でこの世を去った元NBAスターのコービー・ブライアントだ。

「今の最大の目標は“NBAのコービーのようなプレーヤーになる”こと。若い時に、当時のスーパースターだったマイケル・ジョーダンらとバチバチやりあったコービーが、ゆくゆくは世界的スーパースターになりましたよね。それに、決してNBAの中でビッグマンではなかったにもかかわらず、ポストプレーもうまかった。それはステップだったり駆け引きだったりというところで、自分よりも大きな選手相手にも負けていなかったからだと思うんです。自分もそれほど高さがない中で、今、ハイポインターとのマッチアップでもシュートを決められるプレーヤーを目指しています」

 コービーのプレー動画を見ては、それを車いすバスケのプレーに落とし込み、参考にしているという鳥海。偉大なNBAスターとなったコービーのように、車いすバスケ界のマイケル・ジョーダンとも言われるパトリック・アンダーソン(カナダ)や、現在の最高プレーヤーとして知られるスティーブ・セリオ(アメリカ)などがいる中、ゆくゆくは彼らを超えていくつもりだ。

 今22歳の頭の中にある“未来予想図”が、現実のものとなる時が来るのが楽しみだ。今後も鳥海連志というプレーヤーから目が離せそうにない。

さらなる成長を求めて、東京パラ後は海外リーグでプレーするつもりだ[写真]=斎藤寿子

(Vol.9では、鳥海選手が注目している選手をご紹介します!)

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