“14歳でプロ入り”も渡米後は苦悩「NBAはビジネスへと姿を変えてしまった」若手アスリートの現状に警鐘も

■メンタルヘルスの問題を抱えたキャリア晩年

　リッキー・ルビオ（元ミネソタ・ティンバーウルブスほか）のNBAキャリアは、幸福に包まれたものだったとは言い難い。わずか14歳で地元のスペインでプロデビューを果たした“神童”は、2009年のNBAドラフトで全体5位指名を受け、アメリカでキャリアの第2章をスタートさせた。

　しかし、アメリカでの生活を続ければ続けるほど、ルビオの心には厚い雲がかかっていく。2023年のワールドカップ準備中、メンタルヘルスの問題はピークに。最終的には代表合宿を離れ、大会から身を引く決断に至ったが、ルビオは最近出演したテレビ番組『Lo de Evole』のパーソナルインタビューにおいて「ホテルで『もうこれ以上続けたくない』と思った。それはバスケットボールだけでなく、人生そのものについてもだ」と語り、辛かった当時の心境を明かしている。

　NBA引退後は、地元スペインに戻り、家族との時間を大切にしているルビオ。帰国後は一時的に古巣のFCバルセロナに在籍していたが、これはあくまで“リハビリ契約”であり、その後はバスケットボールから離れていた。先月上旬には2023年2月以来に自身のInstagramを更新しており、1年を費やして自分のキャリアと人生を振り返り、これまでの人生における数多くのサポートについて感謝の言葉を伝えている。

■「受け入れがたい態度を目の当たりにしてきた」

FIBAワールドカップ2019で優勝したスペイン代表のルビオ［写真］＝Getty Images

「周囲のすべてが重荷に感じられ、人生に意味がないと思えた瞬間があった。いつも満足できなかった。賞をもらっても心から喜べず、『自分は偽物だ、こんなの受け取る資格はない』と言い聞かせていた」

　ルビオは、スペインの地元紙『MARCA』のロングインタビューでも、アメリカで経験した数々の困難と、それによりどれだけ苦しんだかを言葉にしている。

　NBAで約12シーズンを過ごしたルビオは、キャリア平均10.8得点、4.1リバウンド、7.4アシストを記録。パサーとしての才能は後世まで語り継がれるもので、ケガで十分な出場機会のなかった2014－15シーズンを除くと、デビュー以来5シーズン連続でリーグトップ10のアシスト・パーセンテージをマークしている。また、ウルブズ暗黒期のファンベースを下支えし、行く先々で若手のメンターを担ったほか、NBAの国際化にも大きく貢献するなど、数字にはならない功績も言及せずにはいられない。

　しかし、こうして外野は美談ばかりを語るが、本人の置かれた環境や文化の違いは、ルビオにとって順応しがたいものだったという。

「友だちは作らなかった。ただのチームメートだった。僕は心を開いたり、向き合うのが苦手だし、受け入れがたい態度を目の当たりにしてきた。ロッカールームでは『どんな車に乗ってる？』のような、くだらない会話が聞こえてくる。本気でそんなことで競い合うのかと思った。それで僕がより良い人間になれるわけがないじゃないか」

■「ヨーロッパでも同じ状況になりつつある」

2010年、移籍1年目からユーロリーグ優勝に貢献したルビオ［写真］＝Getty Images

「文化や伝統を好きになれたことは一度もなかった。NBAはショー、ビジネスへと姿を変えてしまった。バスケットボールへの愛情は置き去りにされている。それはヨーロッパでも同じ状況になりつつある」

　また、先に紹介した『Lo de Evole』では、今後の自身のキャリアやスタンスについても言及。復帰については、できるか否かと向き合っている最中としたが、「“リッキー・ルビオ”ではなく、余分なもの抜きでバスケをしたい」と語り、ピュアにバスケットボールを楽しむことが重要であることを強調。また、久しぶりのメディア出演となったが、注目の的になることは望んでおらず、「もう取材は受けない」とし、これが最後のパブリックインタビューになるかもしれない。

　ルビオは、自身の経験と照らし合わせて、FCバルセロナに在籍するサッカー選手のラミン・ヤマルを具体例に挙げ、若いアスリートにのしかかるプレッシャーについても警鐘を鳴らした。

17歳でバルセロナとスペイン代表の未来を担うヤマル［写真］＝Getty Images

　Instagram、X、YouTube。SNSが主流の現代社会において、スポーツ選手はファンから賛辞を浴びる機会が激増した。しかし、それは同時に誹謗中傷の標的ともなり、心ない言葉がダイレクトに届くようになってしまったことの裏返しでもある。ルビオは、愛すべきバスケットボールが必要以上にビジネスやファッションに侵食されて純度を失っていく姿を見るに耐えなかったのだろう。

　ルビオはインスタグラムの最新の投稿で、彼が思う“バスケットボールのあるべき姿”を静止画と動画のスクラッピングで投稿している。その投稿は、少年時代の映像で始まり、少年時代の映像で終わる。彼が今、世界中のバスケットボールラバーに伝えたいメッセージが、この1本に詰まっている。

文＝Meiji