2019.10.22
10月8日。「NBA Japan Games 2019 Presented by Rakuten」(以降、ジャパンゲームズ)初戦を前に、都内某所で少数のメディアとNBAのエグゼクティブ2名によるラウンドテーブル(座談会)が行われた。バスケットボールキングは、この貴重な座談会に参加する機会に恵まれたため、その座談会の模様をお届けしていきたい。
文・構成:秋山裕之
マーク・テイタム(Mark Tatum)
NBA副コミッショナー兼COO(最高執行責任者)
※ドラフトで1巡目指名選手をアダム・シルバー コミッショナーが読み上げ、2巡目指名選手はテイタムが読み上げている
スコット・リヴィー(Scott Levy)
NBAアジア エグゼクティブ・バイスプレジデント兼マネージング・ディレクター
※今年3月5日に行われたNBAジャパンゲームズの記者会見にも登場
テイタムとリヴィーは、ビシッと決めたスーツスタイルで登場後、集まった少数のメディア全員に対して声かけをしつつ握手をし、ラウンドテーブルがスタート。それでは、テイタムとリヴィーによる挨拶、そして質疑応答の模様をお届けしよう。
マーク・テイタム(以降マーク) NBAは日本で試合をしてきた長い歴史があります。今回のジャパンゲームズの試合は、日本で13、14回目となります。そして、北米以外でNBAの試合を開催したのは日本が初めてで、約30年前の1990年でした。この2試合に併せてチーム、エグゼクティブたち、またかつての名選手たちも日本を訪れており、東京のあちこちで視察・訪問をし、ファンの皆様との触れ合いをさせていただいております。
今年は日本において次のステップを考える歴史的な年となっております。八村塁選手が日本人として初めてドラフト1巡目でワシントン・ウィザーズから9位で指名されましたし、渡邊雄太(メンフィス・グリズリーズ)選手も2ウェイ契約を結んでいます。したがって、NBAにおいても日本人に対する関心が高まっている歴史的な1年となっております。
今年8月には、バスケットボール・ウィズアウト・ボーダーズ(以降、BWB)というNBAとFIBAがジョイントしたプログラムを開催しました。これはアジア太平洋地域のベストな男女計64選手のためのプログラムで、日本人選手も8人参加しています。日本では2回目の開催で、前回は八村選手も参加しており、今回もイベントに立ち寄ってくれまして、子どもたちを喜ばせてくれました。
そして選手たちも日本、東京が大好きです。ステフィン・カリー選手(ゴールデンステイト・ウォリアーズ/2年連続3度目)やケンバ・ウォーカー選手(現ボストン・セルティックス/初)も、この夏に日本を訪れております。今後、日本におけるバスケットボール、そしてNBAがますます成功していくことになると思っております。
スコット・リヴィー(以降スコット) 東京へは頻繁に訪問させていただいていますけど、今回は1週間ほどの滞在になります。食事を楽しみ、ラグビーのワールドカップやテニスも楽しんでおりまして、日本に広がっているスポーツ文化を味わわせていただいております。NBAの人気はかつてないほど高まっており、日本も例外ではありません。そして楽天(株式会社)さんのお陰で、日本のファンの方々にもいろいろなコンテンツを楽しんでいただけるということを、大変うれしく思っております。
(スーパースポーツ)ゼビオさんでは190店舗以上、日本全国では500店舗以上でNBA商品を取り扱っていただいております。我々はNBAの試合を日本でも拡大していくことをコミットしておりまして、本日(8日)と木曜日(10日)のジャパンゲームズも、まさにその一部です。それでは、マークと私で、喜んでご質問をお受けいたします。
――私は現在、記者でありつつ、20年以上もNBAを見続けているファンでもあります。NBAは世界最高のプロバスケットボールリーグであると同時に、最高のエンターテインメントだと思っています。そのNBAを一言で表現するとしたら、どんな言葉になりますか?
マーク 一言で言えば、ファンタスティックですね。一言以上使って表現できるならば、と思うほどです。バスケットボールというスポーツ、特にNBAというのはエキサイティングなスポーツだと思っています。だからこそ、世界中にいる多くのファンが愛してくださるんだと思います。それから、(選手たちは)身体能力も高く、(独特な)スタイルもありますし、音楽とファッションというクロスオーバーがあるという点も、愛されている理由の1つだと思います。
――ビジネス面におけるお話を。現時点で、NBAは日本市場をどれくらいの金額の規模のマーケットとして見ていますか。そして5年後、10年後にどれほどの規模にまで上がるのでしょうか。その中で、NBAが得ることのできる利益の部分、放映権はブロードキャスティング・ビジネスなのでしょうか。あるいは、どういった部分の収益を考えていますか。
スコット 財務面における詳しい部分については、控えさせていただいておりますけども、日本はアジア、それから世界においても、最も重要なマーケットです。メディア・ディストリビューション(流通)、マーチャンダイジング(お客様に商品を買ってもらうためのマーケティング戦略)、スポンサーシップイベントなどが収益となっております。各国でしかるべきパートナーと提携をさせていただいておりますし、あらゆる形で試合を提供していただけるようにしています。数年前から、楽天さんとのパートナーシップを結んでいますけども、試合を見ていただく、グッズを購入していただくなど、あらゆる形で楽しんでいただけるようにしたいと思っております。
マーク 日本における、NBAのビジネス面の成長については非常に楽観的に捉えています。というのも、八村選手、渡邊選手がいるということで非常にエキサイティングですし、来年は日本でオリンピックが開催されます。さらに2023年にはFIBAワールドカップ(予選ラウンドがフィリピン、日本の沖縄市、インドネシアによる3か国で開催される)が再び日本で開催されます。したがって、選手という面だけでなく、さまざまなイベントの面から見ても、日本でバスケットボール、そしてNBAが今後伸びていくことについて非常に楽観的に考えています。
――八村選手や渡邊選手がNBA入りしたことで、金額は明かせないとお話しされていましたが、数字の部分ではどんな期待をしていますか?
マーク (これまでと比較して)2倍に伸ばしていきます。というのは少し冗談ではありますが、NBAは日本においても長い歴史があります。その中で、日本人選手がドラフト1巡目で指名されたこと、来年オリンピックが開催されること、2023年にはFIBAワールドカップが開催されるということで、これだけ盛り上がっていることはなかなかなかったのではないかと思います。それから、スコットが申し上げましたように、日本の皆さんはスポーツが大好きであり、非常に大きなスポーツマーケットだと思います。よって、スポーツマーケティング・ビジネスとして、NBAがこれから何パーセントも成長していくチャンスがあると考えています。
――八村選手は今日もプレシーズンゲームに出場していて、とても良かったと思います。ですが、日本のNBA選手として、八村選手だけがクローズアップされる存在になって投資が集まるということだけではなく、NBAとして次の八村選手、さらにその次、またさらにその次と出てくるためには、どういうことを考えていますか?
マーク 私たちはバスケットボールを日本でも、それから世界でも広げていきたいと思っています。本日も、JBA(日本バスケットボール協会)の方々とお会いし、Bリーグは大成功を収めていると聞きました。入場者数、それから視聴者数も大変伸びています。また、日本代表チームも強くなっています。ぜひ今後、NBAとBリーグで協力させていただきたいというお話をしましたし、JBAとも協力をさせていただきたいと話しました。そして次世代の選手たちに投資していくことについて、お話をさせていただきました。
我々には先ほどお話しした、BWBというプログラムもあります。BWBは才能ある優秀な子どもたちを、各地域でその国に集めてハイレベルなトレーニングを、NBAのコーチや選手たちが提供するというものです。それ以外では、アカデミープログラムがありまして、オーストラリアにあるグローバル・アカデミーには日本人選手もいます。このグローバル・アカデミーというのは、最も優れた選手を集めているところでして、全世界に6つこのアカデミーがありますけども、そこから最も優秀な選手を集めています。
――放映権について。ストリーミング(インターネット上で動画や音声などのコンテンツをダウンロードしながら逐次再生すること)と、伝統的なテレビ局に対しての放映権を売ることは、NBAとしてどのように考えていますか?
スコット 我々は視聴者(消費者)の方々がどんな形であれ、まず見ることができるということを確実にしていきたいと思っています。今シーズンから「NBA Rakuten」が始まりますので、今までにない形でアクセスが可能になると見ています。ですので、どの媒体を通して見る、というよりも、視聴されるということを重視しています。(視聴者が)使いたいデバイスで、見たい時に見たい場所で見ることができることが重要だと思っています。「NBA Rakuten」は、よりエンゲージメントを高める形になっておりまして、ファン同士で一緒に試合を楽しめるライブチャット機能もありますし、より臨場感のある形で提供していただけるよう、いろいろな内容を盛り込んでいます。
――これまでNBAは『NHK』や『WOWOW』へ提供してきましたが、楽天に変わることで、どのようなプラス効果が出ると見ていますか?
スコット より多くの試合について、日本の解説陣による日本語解説の試合を視聴していただくことができるようになっていますし、コンテンツについても、アメリカで制作したコンテンツに加えて、楽天さんを通じてローカルに制作しているコンテンツもあります。また、楽天さんを通じてコンテンツについてのフィードバックもいただいていますので、具体的にもっと日本のファンの皆さんに楽しんでいただけるような内容にしていくことができると思います。
――その一方で、初心者、あまりNBAについて関心を持っていない人からしますと、日本では一般的に地上波と言われるテレビで最初に触れることが多いです。そういう部分で制約される恐れがある、という声もあります。それについてはどう考えていますか?
スコット なるべく、ファンの方がいろんな形でアクセスすることが可能になるように、ということにフォーカスしています。ですので、楽天さんとどういう形が一番良い配信方法であるのか、ということについて話し合いを重ねています。日本の方の解説による試合の放送数を増やしていますし、NBAと楽天とのパートナーシップを通じて、将来的にどういった配信形態を追求していくべきか、ということを考えていきたいと思っております。
――今回のNBAジャパンゲームズを通じて、日本にもたらすことができるのはどんなことでしょうか。また、NBAとして持ち帰りたいことは何でしょうか?
マーク 私たちとしても、日本に戻ってくることができ、大変すばらしいと思っていますし、日本のファンの皆さんへバスケットボールをライブで見ていただくということは、すばらしいことだと思っています。また、選手たち、(ヒューストン・ロケッツとトロント・ラプターズという)2チームが日本を訪れることによって、日本、東京の文化を体験することになりますし、本国に帰って「日本はすばらしかった。とてもすばらしい経験ができた」ということを周囲に伝えていくことになります。来年の夏にオリンピックが開催されるということで、全世界のNBAファンにとっても、NBAが日本で受け入れられているんだということを示すことになると思います。
――冒頭で、次のステップに進むと言っていましたが、次のステップについて具体的にお聞かせください。
マーク 次のステップというのは、日本でバスケットボールがさらに広がっていくために投資を続けていく、という意味です。それは例えば、試合の開催数が増えるということかもしれませんし、あるいはもっと草の根のようなプログラムを増やしていくということになるかもしれません。それがNBAであるとか、BWBのようなものが増えるという意味でもあるかもしれませんけれど、いずれにしてもバスケットボールを日本でプロモーションしていくために投資をし続けていく、というのが次のステップが表す意味です。
――市場について。日本を重要視していると言っていましたけど、アジアの中では中国やインド、フィリピンのマーケットもすごく大きいとNBAは見ているはずです。アジアにおける日本の市場というのは、今どれくらいの位置にまで来ているのでしょうか。
スコット マークが日本の将来について、先程すでに申し上げたと思いますけど、「短期間でビジネスを2倍に伸ばす」と言ったことは、私に対する指示でもあると思っています。日本ではバスケットボールの成長が見られていますし、スポーツ文化がある国で、オリンピックやワールドカップもあります。日本人のNBA選手がおり、国内リーグもある。これから、今以上に成長していく、伸びていくマーケットだと思っています。また、バスケットボールの人気がかつてないほど高まっています。それは中国、インド、フィリピンでも、世界のどの国でも高まっています。
約45分間にわたって行われたNBAエグゼクティブとのラウンドテーブル。マーク・テイタムとスコット・リヴィーは、終了後にも参加したメディア一人一人と握手し、声をかけ合って笑顔で会場を後にした。
特に印象的だったのは、テイタムが日本のバスケットボール界における次のステップとして語った“Continue to invest in promoting the game of basketball in Japan”(バスケットボールを日本でプロモーションしていくために投資をし続けていく)という言葉。
来年の東京オリンピック、2023年のワールドカップと、主要なイベントが控える日本。八村、渡邊、そしてダラス・マーベリックス傘下のGリーグチーム(テキサス・レジェンズ)でプレーする馬場雄大といったアメリカでプレーしている選手たちの活躍は、今後も注目を集め続けることだろう。
それと同時に、4シーズン目を迎えたBリーグが成長を続けることで、近い将来にNBAとBリーグが大きなイベントを開催する期待も膨らむ。8日に行われた記者会見で、アダム・シルバー コミッショナーは、NBL(オーストラリアとニュージーランドによるプロリーグ)やCBA(中国)のチームと同様に、プレシーズン期間にBリーグのクラブがNBAチームに挑む可能性について、好意的に受け取っていたため、今後実現する可能性は十分ありそうだ。
今後も、日本のバスケットボール界は過去を振り返るのではなく、さらなる発展を目指して前進を続けてほしい、というのがNBA側の願いだと言っていいだろう。
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