2023.06.10
八村塁の今シーズンが終了した。ワシントン・ウィザーズからNBAの名門、ロサンゼルス・レイカーズに移籍して約4カ月を八村は「僕のキャリアにとって素晴らしいものになる」と振り返った。八村は何を得て、そして、この後どのような選択を決意するのか⁉ LA在住ライター、山脇明子氏がレポートする。
文=山脇明子
「このシリーズは、僕にとって大きなものになる」―。
八村塁は、確固たる自信を見せた。
その自信が、デンバー・ナゲッツという強敵を相手にしたロサンゼルス・レイカーズのコーチ陣や選手たちにどれほどの安堵感を与えただろうか。
ウェスタン・カンファレンス・セミファイナルで、昨季の覇者ゴールデンステイト・ウォリアーズを破り、王者に輝いた2020年以来のカンファレンス・ファイナル進出を果たしたレイカーズは、昨季2年連続年間最優秀選手賞を受賞したオールラウンダーのセンター、ニコラ・ヨキッチ率いるナゲッツと対戦。その第1戦でヨキッチに34得点21リバウンド14アシストされるなどで敗戦を喫した。
そんな中、チームに希望を与えたのが八村だった。
ヨキッチは第3クオーターにフィールドゴール5本すべてを決めるなど、試合最初の36分でフィールドゴール12/15、3ポイント3/3、フリースロー4/4と31得点していた。
14点ビハインドで第3クオーターを終え、何とか巻き返したいレイカーズのダービン・ハムヘッドコーチが取った対策は、身長211センチのヨキッチに203センチの八村をつけるということ。抜群のバスケIQを持つが、決して身体能力が高いとはいえないヨキッチに八村は強靭な身体と機敏な動きで挑み、第4クオーター、ヨキッチを2本の試投に留め、どちらもミスさせた。さらに2つのターンオーバーも誘い、レイカーズが同クオーター、3点ビハインドまで追い上げる原動力となったのだ。
八村はこの試合11本中8本のフィールドゴールを決めて17得点とオフェンスでも貢献。一方リバウンドは0本に終わったが、ヨキッチがゴール下に行くのを全身で抑え、味方にリバウンドを取らせる見事なチームプレーを実行。「ヨキッチはオフェンスリバウンドを取るのがうまいので、僕が彼についている時は、自分が(リバウンドを)取る気ではなく、面と向かってボクサーとしての役割をこなし、チームメートにリバウンドを取らせる気持ちでやれとコーチ陣から言われていました。だからそういうところを心掛けてやっていました」と八村。アンソニー・デイビスも「試合を通して、(ヨキッチに対し)いろいろなやり方をしてみたが、最終的には(八村が守った時間帯が)良かった」と最後に答えが出る奮闘を見せた八村を称えた。
八村は、第2戦では最初の8本のフィールドゴールをすべて成功させるなど21得点。3連敗であとのなくなった第4戦では今プレーオフ初のスターター出場し、それまでのプレーオフでのフィールドゴール成功率が54.4パーセントだったヨキッチのFGを24本中11本成功の45.8パーセントに抑える要となった。
しかしレイカーズは、ヨキッチとジャマール・マレーという天才的なセンターと司令塔を中心にテンポよく攻撃を進め、層が厚く、スリーポイント力があり、サイズがあるナゲッツに惜敗し、今季に終止符を打った。
試合後の八村は精悍な顔つきをしていた。もちろん、最終的な目標にたどり着けなかった悔しさや「(トレードで加わってからの)短い期間でも、すごく仲良くなれましたし、ケミストリーもすごく上がった」チームで、もう戦えない悲しさはあっただろう。だが、2~3カ月前には、チームにフィットすることに必死だった八村が、プレーオフという大舞台でレイカーズになくてはならない存在となり、何度となく頼もしい言葉を発するほどの選手となった。敗退後も自信に満ちた様相が消え失せることがなかったのは、自らのNBA選手としての未来図が、はっきりと見えてきたからではないだろうか。
八村にとってプレーオフの経験は、ウィザーズ所属時の1度、5試合だけだった。しかしメンフィス・グリズリーズと戦ったファーストラウンドの第1戦でベンチから約30分出場し、5本のスリーポイントを決めるなど、いきなりチーム最多の29得点。西カンファレンス準決勝のウォリアーズ戦第2戦でも4本のスリーポイントを成功させるなどで21得点。このスリーポイント力を見せつけたことで、相手のディフェンダーが八村を放っておけなくなり、「スペーシングが良くなるので、コート上にいることが大事と言われた」と語るなど、自らの存在だけでチームを助けられるようになった。また西カンファレンス決勝でのヨキッチとのマッチアップのみでなく、ブロックショットやヘルプディフェンスなど、守備も万遍なくこなし、好守問わず大きなインパクトを与えた。
3月の終わりには、NBAに入ってから初めて “コーチの判断による出場機会なし” も味わった。試合前にコーチから告げられていたとのちに本人は言っており、今でこそ「休みをもらったようなもの」と笑い話にするが、「すごく辛かった」と本音も明かした。しかし「あれがターニングポイントになった」と八村。「フィル(ハンディAC)やチームの人たちやエージェントから、『ビッグゲームに向けて準備していろ。お前が必要になるから』と言われ続けました。僕はそれをプレーイン・トーナメントやプレーオフのことだと捉えてやってきました」と当時の思いを語った。
それ以来八村は、どんなに目立たないプレーでも一生懸命に取り組むようになり、躊躇するのではなく、よりアグレッシブにプレーするようになった。すると結果がおのずとついてきた。しかし、自らのプレーがうまくいった、いかなかったで一喜一憂している暇はなかった。プレーオフ戦線ギリギリのところにいたレイカーズにとっては毎試合が勝負だったからだ。
自らも「クレイジーだった」と話したレイカーズでの4カ月間は、八村にとって、どのような期間だったのだろうか。
「今振り返れば楽しかったと思うんですけど、そしてその時も楽しかったかも知れないんですが、苦しい方が大きかったんじゃないかなと思います」と八村は正直な気持ちを打ち明けた。
「でもそういう苦しい時を乗り越えるからこそ楽しみが出てきます。そういうのは(目標を達成するためには)つきものです。苦しいことがあるからこそ、終わって振り返った時に楽しかったと思えます」
“苦しい”を“楽しかった”に変えることができた。だからこそ、「人生で最高の時間の一つでした。とてもいい経験をしました。レブロン(ジェームズ)やAD(アンソニー・デイビス)、コーチたち、フィルらからたくさんのことを学びました。今季は2、3シーズン過ごしたような気分です。最高のシーズンでした。これらの経験は僕のキャリアにとって素晴らしいものになると思います」と胸を張って言った。
八村は今季後、制限付きフリーエージェントとなる。本人は「どこのチームに行くかわからないんですけど」としながらも、「僕、AD、レブロンでコートに立つというのは、オフェンスでもそうですけど、ディフェンスとしては凄くインパクトがあると思う」と話したり、「レイカーズであれば、今までやってきたところなのでやりやすい」とはっきり言うなど残留を希望している。
「新しいチームでやってきて、まだ3カ月ぐらいしか一緒にやっていないのにこうやってここまで来れたことが凄いと思います」と八村は話していた。
“パープル・アンド・ゴールド”のユニフォームで大きく自信を得た。この続きがどうなるかは、現時点では予想以外にできないが、確実なことは、4カ月で急成長を遂げた八村の進化は、まだまだ続くということだ。
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