2023.04.05
八村塁が移籍したロサンゼルス・レイカーズはプレーオフ進出のために負けられない日々が続いている。そのチーム状況にあって、八村はNBA入りして初めてとなるベンチ入りしていながらプレーできないという事態に直面する。思うように出場機会を得られない状況にあって、八村は何を考え、そしてコートに向かうのか。LA在住ライター、山脇明子氏がレポートする。
文=山脇明子
ロサンゼルス・レイカーズにトレード移籍してからの八村塁は、光が見えたかと思うと見失い、また光を探し求める日々だったと言えるだろう。そしてそれは、今季を2勝10敗スタートし、接戦に持ち込んでも勝ち切ることができず、プレーオフ進出への希望を何度も失いかけたレイカーズと似ている。
3月26日のシカゴ・ブルズ戦で八村はNBA入り以来、初めてコーチの判断による出場機会なしに終わった。だがそれは、レブロン・ジェームズが右足の痛みから約1カ月ぶりに復帰したことで、ダービン・ハムヘッドコーチから「ローテーションを変える」と試合前に伝えられていたもので、「チ―ムの判断だったので」と八村もそれほど気にしていなかった。
ハムHCも同試合後、「すべての選手に出場機会を与えることはできない。このチームにはいい選手がたくさんおり、誰かがローテーションから外れなくてはならない。それが今日は塁だった」と説明。その前のオクラホマシティ・サンダー戦では、それまで3試合連続出場機会のなかったロニー・ウォーカー四世が20得点の活躍。この試合でもディアンジェロ・ラッセルが右股関節の痛みでサンダー戦に続いて欠場したため、ウォーカー四世が引き続き出場した。
レイカーズにとっての強みは、そういったベンチ選手の思いと層の厚さ。そして何よりも、八村を含めて計6人の選手がトレードで入れ替わったにも関わらず、短期間でチームのケミストリーが構築されている。
「遠征でも結構、(チームのみんなで)ずっと一緒にいたりします」と八村。3月19日の試合でオーランド・マジックに勝った時には、当時ベンチから出場していたオースティン・リーブズとデニス・シュルーダーの名前を出し、「オースティンと最初の方に僕と彼で抑えてからまとめていかなきゃいけないという話をしていました。デニスもセカンドユニットに入って、いい感じでできている」と嬉しそうに話していた。同試合では、リーブズが自己最多の35得点、シュルーダーが12得点、八村が8得点、ウェニエン・ゲイブリエルが6得点と続き、控え選手だけで61得点を挙げていた。
マジック戦と同じくシュルーダーが23得点、リーブズが18得点、八村が16得点、ゲイブリエルが4得点と控え選手だけで61得点した10日のトロント・ラプターズ戦では、常にエネルギー全開でプレーするゲイブリエルが交代でベンチに下がる時、チームメートたちがゲイブリエルをコートに残すよう訴えたという。「(増えたプレー時間は)2、3分だったけれど、チームメートが僕のことを信じてくれ、コーチも信じてくれた」とゲイブリエル。
「あの出来事は、僕等の中に “信頼”があることを意味していた」と感慨深げに語り、「ボールもよく回っていた。僕らはシェアし合い、一つになっていた。大事な試合に勝つには、また究極の場面を戦い抜いていくには、そういうことが大事」と声に力を込めた。
ブルズ戦で出場機会がなかった八村は、場所をシカゴに移した3日後の同じカードで、ベンチから出場する最初の2選手の一人として起用された。ハムHCは同試合前、「前の試合は残念ながら出場選手の中に入らなかったが、今日は当然のことながら出場するメンバーに入っている」と八村について話した。
プレーオフ進出を目指し、緊迫した戦いが続く残り試合に向けて、「塁には自らが持つ才能、サイズ、フィジカルティ、リバウンド力、ペイントにアタックできる能力、いろんなポジションをガードできる強み、それらを使い切ってほしい。またこれは塁だけではなく、すべての選手に必要なことだが、チームのプレーに集中すること、フロアにいる間はとにかく全力を出し切り、毎分戦い切ること。それらをすることは、それほど複雑なことではない」と話した。
八村は3月1日のサンダー戦で9得点9リバウンドと攻守に活躍しチームの勝利に貢献すると、7日のグリズリーズ戦からは4試合連続2桁得点も記録した。しかし、その一方で22日のサンズ戦では無得点2リバウンドで終わるなど、存在感を見せられない試合もあった。
それを少しずつ実践していた八村の良さが大きく出たのが31日のミネソタ・ティンバーウルブズ戦。ルディ・ゴベアとカール・アンソニー・タウンズというツインタワーがいるチーム相手にゴール下で奮闘。相手のシュートはもちろんリバウンドを取りにくくさせるなど数字に表れないプレーが光り、ベンチから3選手だけが出場した後半は、タウンズ相手に体を張った好ディフェンスを見せた。
自らのマークマンだけでなく周囲にも目を配り、気持ちを集中させた。この試合の得失点差はチーム最多の+20。「今日はオフェンスがオフ(4得点)でしたが、ディフェンスでは(6つを記録した)リバウンドをよく取れたと思います。このチームに来てから、オフェンス面、またはディフェンス面において、どうにかしてインパクトを与えなければならないと思っていました。今日はリバウンドとディフェンスでそれができた」と笑顔を見せた。
レイカーズ自体も直近の6試合で5勝。前半を10点ビハインドで終え、第3クオーター残り6分半にはアンソニー・デイビスが左足首をネンザしてうずくまる場面があった。デイビスはその後プレーが続行している間も倒れ込んでいたが出場し続け、以降21得点して計38得点。チームもデイビスが足首を痛めた時点からの5分あまりで20点を追加し、その間ティンバーウルブズを2点に抑えるなど猛攻を見せての勝利。シーズン77試合目にして、初めて勝率5割を上回った。
「このチームであなたにとって頼りになる人は誰ですか?」
3月はじめ、そう聞かれた八村は、「みんなです。みんなが話しかけてくれます。みんなチームメートが好きですし、コート上でもいつもコミュニケーションをとっています。僕らは修正し合う部分はしっかり修正し合おうとしています。すぐにはうまくいきませんが、みんなでコミュニケーションをとり合って、より良いチームにしていこうとしています。ここまでいい感じですし、このまま突き進んでいくだけです」と答えた。
八村もレイカーズも、小さいことをコツコツやることで、強い土台を作ってきた。その成果がポストシーズンに繋がるか。レギュラーシーズンは、残り1週間だ。
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