2023.02.28

【八村塁マンスリーレポート〜自分らしく】名門チームに移籍、世界一の選手とチームメートに

ワシントンからロサンゼルスに移籍。NBAキャリアの第2勝をスタートさせた八村塁 [写真]=Getty Images
ロサンゼルス在住ライター

この1月、ロサンゼルス・レイカーズに移籍した八村塁NBAキャリアの第2章を名門チームでスタートさせた八村は世界一のバスケプレーヤー、レブロン・ジェームズのチームメートになった。さらに環境が激変する中、LAで再会したラッセル・ウェストブルックのメッセージが支えている。八村は何を考え、そしてコートに向かうのか。LA在住ライター、山脇明子氏がレポートする。

文=山脇明子

「だって、彼は世界一のプレーヤーですから」


 雨天で冷たい空気が肌を刺すオレゴン州ポートランド。午後12時になろうとしていたモダセンターで、レブロン・ジェームズが、体から噴き出す汗を拭おうともせず、シュートを繰り返していた。左足首を痛めていたジェームズは、その日の欠場が決まっていた。しかし、復帰した時に100パーセント以上の力を発揮することを描いてリングに向かい続けていたのであろう。

「このチームは、もう1試合も無駄にできない」

 ジェームズはそう言っていた。

 その時点でレイカーズは26勝31敗とウエスタン・カンファレンス13位。ウィザーズからトレードで得た八村塁に加え、トレード期限にラッセル・ウェストブルックパトリック・ベバリーというチームの中心だった2選手を含む5選手を出し、新たにディアンジェロ・ラッセルマリーク・ビーズリー、ジャレッド・バンダ―ビルトら5選手を得ていた。つまり、これから巻き返しを図ろうとするチームが、ケミストリーの構築から始めなければならない段階に戻ったということだ。プレーオフ進出を目指すにはほど遠いように思えるが、ジェームズは、それを現実にしようとしている。足首に痛みを感じながらも力を緩めることなく、コーチを相手にパワープレーをし、ステップを駆使してボールを放つジェームズの姿には、これから出くわすどんな困難にも打ち勝っていくという「覚悟」が感じられた。

 シュートアラウンドが終わって、この日出場する選手が去ったあとの静かなアリーナだった。

 ところが、一人サイドラインのイスに座って、ずっとジェームズの練習を見ていた選手がいた。

 八村だ。

 コーチに残って見るように言われたのかと問うと、「いえ、自分が見たかったから見ていただけです」と言った。

 どうして見たかったのかとたずねると、「だって、彼は世界一のプレーヤーですから」。当然のことを聞かれて驚いたかのように、そう言った。

 八村自身、自分が移籍してからさらに変わったチームで、いかにプレーするか悩み、考えていた。ジェームズの練習を「チームメートとして」見たかったとも言っていた八村は、「世界一のプレーヤー」がいるレイカーズで、「チームが望んでいることをしっかりと理解して、その中で自分のプレースタイルができていけば」と思っている。だが、「チームの中に自分がフィットしていないんじゃないかなと思う」ほど、自分の能力を生かし切れず、悶々とした日々が続いている。

レイカーズ移籍後も八村の環境は激変を続けている [写真]=Getty Images


 新チームでの出だしは、デビュー戦の対スパーズで12得点、3試合目の対ネッツで16得点、そして4試合目のニックス戦では19得点9リバウンド、オーバータイムで貴重なブロックを決めるなど上々だった。しかしトレード期限後は、レイカーズのコーチ陣らもさまざまなローテーションを試すことから始めなければならず、八村もいいリズムの時に交代させられたりするなど、結果が出しにくい試合もあり、「今季3つの違うチームでプレーしている気分」と苦笑いを浮かべていた。しかし、「このチームは良くなると思う。新しいチームになったことで、勝ちたいというのが伝わってきます」とチームの戦力強化を前向きに受け止め、ともにポストシーズンへ向けて挑戦することへの期待感も持っている。

 オールスター時の会見で、ジェームズは「(オールスター時点での)残り23試合は、自分のキャリアのレギュラーシーズンで最も大事な23試合となる」と話したが、八村も「(チームは)絶対にプレーオフを決めてやろうという感じになっています」と口にするなど、心はレイカーズの誰もと同じだ。だからこそ、「どういうところで僕がこのチームに絡めていけるかというのが大事だと思います」と課題も挙げた。

ウェストブルックが送ってくれた「自分らしくいろ」のメッセージ

 支えになった言葉もあった。ウィザーズ時代に1シーズンをともにし、レイカーズで再会したウェストブルックがトレードされたあと、八村にテキストメッセージをくれた。

ロサンゼルスで再会したウエストブルックから八村はメッセージを送られた [写真]=Getty Images


「『このままどんどん突き進んでいけ。自分らしくいろ』と言ってくれました。彼は僕のメンターです。2年目に彼と一緒にプレーし、多くのことを教えてもらいました。彼のお陰で僕は成長できた。ここで一緒にできたのは短い期間で、数試合だったけれど、彼がどんな風に試合に臨んでいるか、どれほどプロフェッショナルに試合の準備をしているかを見てきました。彼はいつも試合に集中していて、僕にとってはとてもいい先輩でした」と語った。

 大きな刺激を受ける出来事もあった。ジェームズが自己通算得点で歴代トップにたった瞬間を目の前にしたことだ。試合が一時止まり、セレモニーが行われたあと、ジェームズがベンチに戻ってくるとハグをした。「ああいう場面にチームメートとしていられたということは、僕にとって大きい」八村は、目を輝かせた。

レブロンがNBA通算得点で歴代トップに立った瞬間に立ち会った [写真]=Getty Images


 モダセンターのコートの裏にあるローディングドックから冷たい風が吹き込んだ。早くホテルに戻って試合の時間まで休むこともできたが、八村は最後までジェームズの練習を見届けた。

「(今季は)ケガもあったりしたんですけど、その中で、この1年間いろんなことを学んでいる。プレーオフももちろん目指しますし、それを絶対に生かしていきたいと思います」

 今は暗闇を抜け出せていない。しかし必ず光を見つけて、「自分らしく」プレーできるようになろうと、八村は試行錯誤し、奮闘を続けていく。

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