2024.01.30

ネブラスカ大の指揮官が語る富永成長の足跡…「シュートを決めきる力がNBAへのキップ」

経験豊富なホイバーグHC(右)が愛弟子の富永について言及 [写真]=Getty Images
アメリカ・オクラホマシティ在住のフリーランスライター

「富永にはNBA入りのチャンスがある」

 富永啓生ネブラスカ大学に転入した最初のシーズンから、フレッド・ホイバーグヘッドコーチは富永のNBA入りについてチャンスはあると話していた。それは富永のシューターとしての実力を買ってのことだ。NBAを含め、あらゆるレベルで指導してきたなかでも最高のシューターの1人だと、彼は富永を絶賛していた。

 しかし、昨シーズン前半までの富永は出場時間も安定せず、コートではボールに触ることのない時間が続くこともあった。悔しい思いをしながら迎えたネブラスカ大3年目、富永は中心選手として、15勝6敗(現地1月28日時点)と1990年代以来最高の成績を残すチームをけん引する存在になっている。

 今シーズンの富永の3ポイントシュート成功率は37.2パーセントと昨シーズン(40.0パーセント)より落ちているが、ホイバーグHCが富永に求めるのは今シーズンも変わらずその得点力だという。「少しでもスペースがあればシュートを打っていい立場」の富永のシューティングには絶大な信頼を置く。

 対戦相手の執拗なディフェンスを受けるようになっても、富永が1試合平均13.6得点を記録できるのは、「カッティングが得意でゴール下に入っていくのがとてもうまい」ことも大きい。「そこは過小評価されている部分だ」と、ホイバーグHCは言う。

「彼の最大の成長の1つがボールを持っていないときの動きで、そこで相手に多くのダメージを与えている」

 その言葉を裏付けるかのように、1月21日(現地時間20日)の試合後、ノースウェスタン大学のクリス・コリンズヘッドコーチも「彼はカットがうまいし、シュートレンジが広くてステップバックをするから、彼にスペースを与えることはできない」と話した。

 スコアラーとして成長を続ける富永には、プレイメイカーとしての役割も当たられている。「彼にボールを預けて、啓生のためのピック&ロールを増やしている」と指揮官は言う。「彼はいろいろな面で本当に成長したと思っているよ」と誇らしげだ。

 今季の富永の成長は、オフシーズンの努力と経験の賜物でもある。ひとつは身体を強化したことだ。「日本代表チームに合流する前に身体を鍛えて体重を15ポンド(約7キロ)は増やした。強度が増すにつれてより優れたディフェンダーになった」とHCは言う。しかし、ディフェンスはまだまだ改善すべきで、「もっと安定したディフェンスができるようにならなくてはいけないし、タフネスが必要だ」とも付け加えている。

 もう1つは日本代表としての経験だ。ホイバーグHCによれば、「ワールドカップでトップクラスの選手たちと対戦したことが彼の力になった。なかでも一番大きかったのは、それがさらなる自信をにつながったことだ」という。

ホイバーグHCはW杯での経験も富永を成長させたと語った [写真]=YOKO B


 確かに、今シーズンの富永には以前に増して揺るぎない自信のようなものが伺える。その点については、ホイバーグHCも「そうなんだよ。私もあのくらい自信を持ってプレイしたかったものだ」と笑顔を見せた。「彼はこれ以上ないほど自信にあふれる選手で、私はあの、チーム全体に伝染していく彼の喜びと気迫あふれるプレイが大好きなんだ」

「英語の上達も、チームの看板選手の1人という役割を担っていることも、彼が自信を持ってリーダーシップを発揮することにつながっているだろうね」と、ホイバーグHCは続ける。

「もともと皆の前で話したがっていたんだと思う。今年はそれが楽になっているように感じる。彼はこのチームのリーダーであることにプライドを持っているし、私は彼は間違いなく最も安定したリーダーの1人だと思っているよ」

念願のNCAAトーナメント出場、そしてNBA入りへのキップ

 スコアラーとして、プレイメイカーとして、そしてリーダーとして成長を続ける富永が、ネブラスカ大が念願のNCAAトーナメント進出を果たすためのキーパーソンの1人であることは間違いない。

 残りのシーズンに富永に期待することを尋ねられたホイバーグHCは、アウェーで連敗中のチームの現状を踏まえ、「先のことを考えずにまずは目の前の試合に勝たなければならない。1試合1試合を大切にしていればすべては自ずとうまくいく」と話した。

「そして、啓生には今まで通りのプレイを続けてほしい。相手は彼をすごく警戒しているからね。それでも彼はチームに大きく貢献してくれている。だから、彼には彼らしくあり続けてほしいと思っている」

 ホイバーグHCは最後に、NBA入りを目指してシューティング以外の課題に取り組む富永について、「身長が6フィート2インチ(188センチ)だからといってポイントガードになる必要があるとは思わない」と語り始めた。

「彼に必要なのは、自分が得意とするシュートを打つことだ。NBAではフロアスペーシングが大事になる。NBAにはプレイメーカーは十分いるが、シューティングが十分だなんてことはないと思うんだ」

「それこそが、啓生のNBAへのキップだよ。彼のショットが入らないと誰もが驚くだろう? オープンになった時にシュートを決めることのできるあの能力こそが、啓生のNBAへのキップなんだ」

 優秀な元NBAシューターにそう言わしめる富永の実力と魅力はおそらく本物だろう。それが実際にどこまでNBAに通用するのかはわからないが、NBAで19年(選手として10年、コーチとして4年、フロントオフィスで5年)の経験を持つホイバーグHCから「彼がなり得る最高の選手になれるよう、的確なアドバイスをしていくつもりだ」と言われれば、富永の今後にいやが上でも期待が高まる。

ブルズやウルブスでNBAでのプレー経験を持つホイバーグHC [写真]=Getty Images


文=YOKO B