2019.05.16

アルバルク東京の主将・正中岳城、タフなシーズンを有終の美で終え「今は休むことが必要」

2年連続でチャンピオントロフィーを掲げたA東京の正中[写真]=B.LEAGUE
1981年、北海道生まれ。「BOOST the GAME」というWEBメディアを運営しながら、スポーツジャーナリストとしてBリーグを中心に各メディアに執筆や解説を行いながら活動中。「日本のバスケの声をリアルに伝える」がモットー。

 Bリーグの3代目王者を決める最終決戦を2年連続で制したアルバルク東京。今季はワイルドカード枠からのチャンピオンシップ進出ながら、敵地で中地区王者の新潟アルビレックスBB、西地区王者である琉球ゴールデンキングスを退け連覇という称号を手にした。そして、ファイナルでは東地区王者の千葉ジェッツを4点差で撃破。各地区王者を下しての優勝は史上初の快挙である。

 アルバルク一筋12シーズン目を迎え、今季もキャプテンを務めた正中岳城は、言葉を噛み締めながら連覇を成し遂げたシーズンを振り返った。

「序盤戦は波に乗れなかったし、京都(ハンナリーズ)や琉球(ゴールデンキングス)といったタフで苦手と感じるチームと試合が続いて負けてしまった。いい戦いができていたので自信は持ちながらも最終的には東地区3位という形だった中で、『千葉強いな』とか『栃木(ブレックス)強いな』というのも戦いながら同時に感じていました。昨シーズンとは違った、しっかりとセットアップしているチームが同地区内で近くにいるのを感じつつ、それでも自分たちも彼らに振り払われないように我慢しながらやってきましたね」

 我慢し続けてつかみ取ったチャンピオンシップへの道、A東京の戦うトーンは一気に上がったように感じた。その裏側には、さいたまスーパーアリーナで行われた天皇杯でのセミファイナルで千葉に大逆転を許して敗れた苦い経験があったと正中は語ってくれた。

「チャンピオンシップだからどうこうではなくて、『どうしないと勝てないのか』とか『自分たちはどうして負けていたのか』という部分をしっかりおさらいしました。そこから導き出されたのは絶対に強いプレーを40分間し続けることが大切という結論でした。一瞬でも気を抜いたら相手に一気にやられてしまいます。あの天皇杯のセミファイナルで、まさしくその弱さが出ました。自分たちがしっかりと最後までゲームコントロールができなくて、千葉に最後の最後でやられてしまいました。つかみかけていた勝利を自分たちで手放したゲームでしたね。つかんだものは絶対に離さないという戦いができないとチャンピオンには届かないし、上位のチームとは戦えないと再認識したのは大きかったです」

今季も出場機会が限られる中、正中は自身の役目を全うした[写真]=B.LEAGUE

 そして、苦い経験を元に後半戦はチームが変わり、チャンピオンシップのアウェーでの厳しい戦いでチームにスイッチが入ったという事も大きかったと続ける。「後半戦はしっかりとマインドセットして『全部がチャンピオンシップだ』という感じで1試合1試合取りこぼさないようにやっていこうと戦ってきました。それでも千葉や栃木に勝てないという試合はありました。順位が変わればいいなという思いはあったけど、結果が出ずに自分たちでコントロールできずに勝ちきれないというモヤモヤした気持ちの中でチャンピオンシップに入ったと思います。しかし、チャンピオンシップに入ったらアウェイでの戦いというのに自分たちが1つになるきっかけが詰まっていたかなと感じています。新潟のようなすごいファンが多い雰囲気で戦うのはあまり得意ではなくて、沖縄での戦いでも同じでした。その状況下でやらないといけないという事で全員がそこでスイッチが入ったかなと感じています」。

 Bリーグのチームの中で最多の公式試合数を戦い、ケガ人や代表活動などの兼ね合いもあってフルメンバーでのチーム練習も難しい状況もあった。それでも最後は優勝という有終の美で終えた彼らは来シーズン3連覇という偉業に挑む形となる。

「連覇というタイトルを手にしたことで3連覇へのチャンスは広がりましたし、つなげることができました。タイトル獲得というのは非常に難しいですけど、がんばっていれば巡り会える可能性があるものです。こういう状況になれるとは考えることも当初はできませんでした、だけど自分たちで一つひとつ壁を乗り越えながら一番しんどい積み上げをしてきたからこその連覇だと感じています。決して手を抜いたり、効率的にバスケをして勝とうという道のりではなかったですね。これからも日々の尊いプロセスを今までと同じように積み重ねていくことで3連覇がチラッと見えてくるのかなと。気はとてつもなく早いですが、今自分たちだけが挑める状況であってチャンスがある限りは追い求めていきたいです。自分たちの戦いを確実に一つひとつ重ねていくことで見えてきて、その後に手の届くところにやってきて、最後はつかみ取るというイメージですね。まさしく階段を確実に一段ずつ登っていくような感覚でこれから過ごしていきたいです」

 それでも、今はやはり苦しかったシーズンを連覇という称号で終えたことに対するご褒美の必要性も説いてくれた正中。それだけチーム全員が極限の中で戦っていたという裏付けなのかもしれない。

現在34歳の正中は自身のキャリアについて「終わりにも近づいている」と正直に吐露[写真]=B.LEAGUE

「全員に言えますけど、この連覇を達成したことに対しては自分たちに『○(マル)』という評価を付けてあげるべきだと感じています。そのご褒美として、今は本当に休むことが必要ですね。いろいろと考えてしまうかもしれないけど、何も考えずに1カ月くらいはあってもいいかなと(笑)。昨シーズンチャンピオンになってからの様々な面での包囲網というのをものすごく感じていて、本当に苦しかったです。まずは充電しながらエネルギーをしっかりと回復させて、各々がエネルギー満タンの状況に戻せるようしないといけないです。それと同時にすぐにやってくる難しく新しいシーズンへの準備をスイッチ入れてコツコツと積み重ねていく必要があると感じています」

 彼自身もベテランとして来シーズンで35歳という年齢となる、それでもまだまだやれるという事を力強く語ってくれると同時に独自に考えも披露してくれた。

「まだやれる実感はあります。だけど長く競技を続けているということは、同時に終わりにも近づいていると感じていて。この尊い機会がいつまでも訪れるとは考えていません。自分自身もキャリアの中で1つのタイトルも取れないシーズンが長く続いた時期もあったので、こういう晩年になって連覇ができたというのはすごくうれしいです。若い選手たちにも常にタイトルを目指してやっていってほしいですけど、獲得するというのは言うほど簡単ではないです。若い頃はキャリアが永遠に続くと思ってプレーしていますが、でもそうではないと気づきます。一つひとつのシーズンが大事であって、何度もチャンスがあるわけではないです。そういうことをチームに対して伝えながら、どうなるか分からないですが3連覇という尊い道のりをチームともともに歩んでいければと感じています」

 来シーズンもベテランプレーヤーとして、そしてアルバルク一筋のプレーヤーとして、チームの精神的な柱として彼に対して誰もが期待しているに違いない。まるで哲学のような『正中語録』を様々な場面で披露してくれるであろう。きっとファンもチームもそう願っているはずだ。彼のストーリーは少し休憩した後に、再びリスタートする。

文=鳴神富一

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