2020.06.13
一時代を築いた世代を振り返りながらバスケ史を紐解く企画。第5回はNBAワシントン・ウィザーズで活躍する八村塁を中心とした1997~1998年生まれ。八村は別格ながらも粒揃いな選手が多く、今後Bリーグを沸かす候補生ばかりだ。八村塁との関わりを交えながら、期待の選手たちを紹介したい。
明成高校(宮城県)で心技体を鍛えた八村塁が、NCAAへの道を切り拓いたのが、高校2年次に出場して得点王を獲得した「FIBA U-17男子バスケットボール世界選手権大会」(現U17ワールドカップ)。田臥世代が初のU19ワールドカップ(当時、ジュニア世界選手権)に出場した代ならば、八村世代はその下のカテゴリーであるU17ワールドカップに初出場した代。また彼らが大学に入学する2016年にはBリーグが誕生。高校時代の“世界進出”と“Bリーグの存在”により、進路の選択肢が広がった世代といえよう。
八村率いる明成がウインターカップ3連覇を達成した2015年は、明成を筆頭に下級生の頃から活躍していた選手を擁するチームが多く、大会でも熱戦が多かった。そうした経験値が現在につながっている。
彼らが戦った3年生のウインターカップはというと、決勝で八村率いる明成と名勝負を繰り広げたのが土浦日本大高校(茨城県)。センターの平岩玄(アルバルク東京)とシューター松脇圭志(富山グラウジーズ)を軸に、サイズ、シュート、ディフェンスの三拍子が揃ったチームで、その質の高さは近年でも際立っていた。3位に浮上して『名門復活』を遂げたのは能代工業高校(秋田県)。キャプテンの盛實海翔(サンロッカーズ渋谷)は能代工でリーダーシップを学び、専修大学ではゲームコントロールをしながら勝負強さを発揮する選手になった。
さらにこの大会でダークホースとなったのが中部大学第一高校(愛知県)。点取り屋の中村浩陸(大阪エヴェッサ)を軸に2回戦で下馬評の高い福岡大学附大濠高校を倒してベスト4へと躍進した。その大濠は牧隼利(琉球ゴールデンキングス)、増田啓介(川崎ブレイブサンダース)、中村太地(京都ハンナリーズ)の3本柱を擁し、タレント性では群を抜いていた。
準々決勝で明成をあわやのところまで追い込んだのは多田武史(秋田ノーザンハピネッツ)を中心としたシューター軍団の八王子学園八王子高校(東京都)。また、強力な留学生モッチ・ラミン(JR東日本秋田)を擁し、インターハイ決勝に進出したのは桜丘高校(愛知県)で、「モッチの代は打倒明成を目指していて、富永啓生(レンジャー短大)の代より完成度が高かった」と江崎悟コーチが語るほど、組織力が光るチームだった。
それぞれのチームが東北で、全国で、高校界のトップにいる八村を見据え、様々な策で明成に立ち向かったからこそ好勝負が多かったのだ。
当時、ウインターカップ3連覇の要因を八村は「いろんなポジションや状況を想定した練習を全員でやり切りました。コーチと選手の絆の強さです」と笑顔で語り、アメリカへと旅立っていった。
大学時代にさらに飛躍した選手も多い。大東文化大学4年次に関東リーグ制覇に貢献した中村浩陸は、ポイントガードへのコンバートに成功したケース。同じく、八村とは中学時代のチームメイトで、東海大学の笹倉怜寿(アルバルク東京)や日本体育大学の大浦颯太(秋田ノーザンハピネッツ)も司令塔として存在感を見せた。
中村が「Bリーグでやるにはこの身長で2番は無理だと思い、自分なりの攻めるガード像を見つけながらやってきた」と言うように、3人とも自分のカラーを発揮する司令塔になるべく、Bリーグでのスタートを切った。
白鷗大学で春の関東トーナメントMVPを受賞した前田怜緒(滋賀レイクスターズ)は点取り屋ながらもハンドラーの役割も担った。白鷗大のフォワード星野曹樹(新潟アルビレックスBB)も前田と同様に大学でプレーの幅を広げた選手だ。
前田には八村との忘れられない思い出がある。東北高校時代は明成と同県で、練習試合ではよく八村とマッチアップし、国体ではチームメイトとして戦った。明成がインターハイ制覇したことで県2位の東北にもウインターカップの出場権が与えられ、冬の全国ではベスト16まで勝ち進んだが、「僕らがベスト16になれたのは明成と練習試合をしたり、塁から刺激を受けたおかげ。僕にとって夢だったウインターカップは、もっと成長したいと欲が出た大会です」と語った。
1年次に続いて最上級生となった4年次にもインカレ優勝を果たした筑波大学の牧と増田は、学生生活最後の大会で大学のタレント集団をまとめ上げる仕事を果たした。優勝に寄せて2人は「高校時代から気持ちの弱さが出て大事な試合で負けてばかりだったので、僕らの代では勝てないのでは…と思うほど苦しかったので、優勝できて本当にうれしい」と2人して同じ感想を述べている。
それほど、高校3年次に味わった屈辱を忘れてはいなかった。キャプテン牧は「コート外の行動から見直し、最後にチームが一つになれた」と優勝の要因を語ったが、学生時代の忘れ物を取り返しての優勝は成長の証。彼らもまた、八村世代の主役である。
明成時代に八村とコンビを組み、青山学院大学ではスコアリングガードとして躍動した納見悠仁(島根スサノオマジック)は、大学入学時にこう語っていた。「今まではプロの仕組みがわかりにくかったけど、今年からBリーグができてプロリーグが一つになるので、僕はプロ選手を目指したい」。進路選択が早くから広がったこの世代は、学生時代から挑戦する場が一気に増えた。
190㎝の長身ガード、京都ハンナリーズの中村太地は法政大学バスケ部を4年の夏で退部し、同世代より一足早くにBリーグ入りしている。「大学生活はトップ選手になるための環境を模索してきた時間」と語る中村は、特別指定選手制度ができると、迷わずに大学2年次から活用している。
京都では寺島良の活躍も見逃せない。東海大学時代はベンチから支える選手だったが、京都ではチームから与えられた役割が自身のスタイルとマッチし、水を得た魚のようにスピードを生かして暴れている。
大学時代から3人制の世界に飛び込んだのは、世代を代表するトップシューターの松脇。日本大学の先輩である長谷川誠3x3コーチにシュート力を見込まれると、3年次にはアジア競技大会で新競技となった3x3(U23)でエースを務めている。「3x3をやったことでフィジカルが強くなって、周りの生かし方を学んだ」という松脇は、今季もHACHINOHE DIMEと契約を結んでいる。
この代はインサイドで体を張る選手がいるのも特徴だ。「U19ワールドカップ」で八村とインサイドを組んだシェーファーアヴィ幸樹(滋賀レイクスターズ)は、名門ジョージア工科大学を休学してBリーグでプレータイムを得る道を選んだ。この1、2年は滋賀と日本代表で経験値を上げるべく揉まれている。世代を代表するインサイドの平岩やナナーダニエル弾(琉球ゴールデンキングス)もBリーグでの成長が待たれるところだ。
一学年下になるが、八村とU19でチームメイトになり、NCAAで対戦したという意味で同世代に含んで紹介したいのが、アメリカでプレーする渡辺飛勇と榎本新作の2人だ。今年からカルフォルニア大学デービス校に編入した207㎝の渡辺飛勇は、ポートランド大学時代に八村と対戦。昨季のジョーンズカップでもインサイドで貢献している。U19でスラッシャーぶりを発揮した榎本新作は、新シーズンからBリーグ入りを表明したことからも注目したい存在。また、シェーファーアヴィ幸樹と渡辺飛勇は、2メートル超のサイズからも、竹内世代以降、ようやく現れたセンターの後継者と言えるだろう。
アンダーカテゴリーで競い合い、海外で揉まれた選手が逆輸入される今、八村世代は実に様々なタイプの選手が揃い、たくさんの可能性を秘めている。最後に、U17代表で八村とプレーした牧の言葉で締めくくりたい。
「NBAで活躍している塁は本当にすごいと思うし、塁の頑張りは僕らの世代にいつもすごい刺激を与えてくれる。またいつか塁とプレーできるように、僕も負けないように頑張りたい」
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