2020.02.04

「チームの助けになりたい」…インカレMVPの称号を引っさげ、琉球ゴールデンキングスで奮闘する牧隼利

現在3試合連続スタメン出場中の牧[写真]=鳴神富一
1981年、北海道生まれ。「BOOST the GAME」というWEBメディアを運営しながら、スポーツジャーナリストとしてBリーグを中心に各メディアに執筆や解説を行いながら活動中。「日本のバスケの声をリアルに伝える」がモットー。

 昨年の「全日本大学バスケットボール選手権大会(インカレ)」では筑波大学をキャプテンとして優勝に導き、自身もMVPに輝いた牧隼利。インカレ優勝を成し遂げた2週間後には、特別指定選手として琉球ゴールデンキングスの一員となり、日々奮闘している。

 2月2日に行われた青山学院記念館でのサンロッカーズ渋谷戦は、前日同様、クロスゲームの展開で満員に膨れ上がった会場は熱気に包まれた。その環境下で3試合連続でのスタメン出場を果たした牧は、第4クォーター残り1分8秒に冷静かつ豪快に同点に追いつく3ポイントシュートをマーク。チームを敗戦の危機から救う大仕事をやってのけた。

 並里成デモン・ブルックスとつながったパスを受けてシュートを放った牧は、ベンドラメ礼生の懸命なシュートブロックを五感で感じながらも、彼の目は確実にリングに向けられていた。明らかにあの瞬間、いつも通りの彼の姿をコートで見せていた。

「そんなにボールを持てる時間が自分は大学とかに比べたら少ない中で、常に準備はしています。あそこはノーマークで打ち切らなくてはいけない場面でしたし、しっかりと打ち切れたのは良かったかなと思います」と牧が淡々と語る一方で、チームを率いる藤田弘輝ヘッドコーチは称賛の言葉を送った。

「あの場面はもう空いていたので、チームで作ったオープンシュートは誰でも思い切り打つというチームの方針。あそこを打って決め切ってくれたのはすごいと思いますし、よく打ち切ってくれたなと思いますね」

琉球でもストイックなメンタリティと献身的なプレーで存在感を発揮している[写真]=鳴神富一

 “すごい”という言葉をHCに言わせるほど評価の高い牧であるが、指揮官は彼の最近のスタメン起用の理由、そして良さについて「尊敬」という言葉を用いてこう続ける。

「大阪(エヴェッサ)やSR渋谷と非常にアスレティックなチーム相手のゲームが続いたので、牧のプレータイムの増加は考えていました。その中でよくやってくれたなと思いますし、彼はサイズとフィジカルさと運動量があるのでとてもディフェンスで使いやすい選手です。そして彼の一番いい所はバスケットに対してめちゃくちゃ真面目で、非常にワークアウトもするし、試合終わった後でもウェイトをするなど、暇さえあれば自主練習しています。そういうメンタリティはルーキーながら尊敬しています」

 牧はインカレ優勝を果たしてから、まるでファストブレイクのようにあっという間に時間が過ぎ、特別指定選手としてプロへの階段を登っている最中だ。彼にここまでの時間を問うと、笑顔で回答してくれた。

「インカレの時は優勝という2文字だけを見つめてずっとやっていて、それが終わった後はバタバタした中ですぐに沖縄に来させてもらったんです。インカレ優勝を忘れたわけではないですけど『もうなんか夢だったのかな』とすごく前のことに感じていて(笑)。もうすでに次なる自分自身のバスケット人生が始まっているので、そこに対しては毎日楽しみながら、学びながら過ごしていけるのかなと感じています。キングスは先輩方も優しく、いい雰囲気をいつも作ってくれているので、自分もプレーしやすいですし、すごくいいチームです」

琉球は第22節を終えて西地区2位。牧は首位浮上へのキーマンだ[写真]=鳴神富一

 チーム合流から1カ月が経ち、彼自身新たな地で様々な考えを持ちながらチームに新しい風を吹かせようとしている。直近3試合では、いずれも20分以上のプレータイムと出場時間が増加中のルーキーは、もっとチームに貢献していきたいと今後に向けて意欲を示してくれた。

「チームのペリメーター陣の中では、体を当ててリバウンドに絡んでファイトできる選手はあまりいないと感じています。それに対して自分はちょっとできるのかなと思いますけど、それだけではまだまだダメです。自分のようなポジションでチームの起点になれれば、ボールも回ってもっといいオフェンスができると思うので、そういう部分でチームの助けになりたいと考えています。シーズン途中に加入して優勝やチャンピオンシップがどんなものなのか上手く自分の中では想像つかない中で、まずは試合に絡んで少しでもチームに貢献できるような選手になることが、今の自分の目標ですね」

 現段階では特別指定選手だが、新たな階段を登りつつある牧。バスケに対するストイックなメンタリティと献身的なプレーで南国に新たな風を吹かせ、チームを悲願の頂点へ——。

 彼の新たな物語はスタートしたばかりだ。

写真・文=鳴神富一

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