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コートに立った唯一の3年生「このチームだから成長できた」…前川桃花は後輩たちへ思いを託す

40分間コートに立ち続けた前川[写真]=©SoftBank ウインターカップ2025
フリーライター

 3年生の部員はわずか2名。そのうちコートに立ったのは1人だけだった。

 12月23日に行われた「SoftBank ウインターカップ2025 令和7年度 第78回全国高等学校バスケットボール選手権大会」の1回戦で、浜松開誠館高校(静岡県)は東海大学付属福岡高校(福岡県)と対戦。第1クォーターこそ14-12で終えたものの、その後は相手にリードを奪われ、最終スコア50-69で敗れた。

19得点でチームをけん引した前川[写真]=©SoftBank ウインターカップ2025

 背番号22の前川桃花(3年)は、1、2年生が大半を占める今年のチームをキャプテン兼エースとして引っ張ってきた精神的支柱。この試合も40分間コートに立ち続け、厳しいマークに遭いながらも1人で32本ものシュートを放った。

 試合後、前川は「シュートが入らなくて苦しかったですけど、最後まで打ちきれたし、楽しめたのでよかったと思います」とコメントしたが、その声はかすかに震えていた。確率は振るわず19得点。3ポイントシュートに関しては19本中3本のみの成功にとどまった。

「今年はチームをまとめる立場だから勝っても負けてもお前のチーム。だから、もっとリーダーシップを持ってプレーすればいいし、お前の3ポイントが入らなくても誰も後悔しないから打ち続けろ」

 それでも最後まで打ち続けたのには、三島正敬コーチからの教えがあったからだ。

 中学時代は四日市メリノール学院中学校(三重県)で日本一を経験。高校は四日市メリノールには進まず、浜松開誠館の門を叩いた。

「先輩と後輩の関係性とか、チームの雰囲気がすごい良くて、三島先生もすごく熱心な指導をしてくれる方だったので、自分もこのチームでプレーしたいなと思いました」と前川。昨年のキャプテン・井口姫愛(関西学院大学1回生)は中学の先輩であもり、「井口先輩の後を追いかけたい」と思ったことも理由の1つだ。

出場メンバーに声援を送る浜松開誠館ベンチ[写真]=©SoftBank ウインターカップ2025

 1年生から主力を務めた前川は、ウインターカップでも3年連続でスタメンを担った。最上級生として新チームを迎えるにあたっては、昨年までともにプレーした井口や後藤音羽(東京医療保健大学1年)から「楽しんで」などとエールをもらったという。しかし、キャプテンの重責を背負う日々は決して簡単なものではなかった。

「対戦相手はやっぱり3年生が多いですし、新チームになったばかり頃はなかなか勝てない時期が続きました。『自分がキャプテンでいいのかな?』って迷うこともあったので、最初は苦しかったですね」

 前川は苦しみながらも自分にできることを模索し、キャプテンとして役目を全うした。

「試合に出ているのは自分だけで下級生も不安になることが多かったと思うんですけど、プレー中に声をかけたり、試合以外でも常に前を向いて下級生を支えることは意識しました」

 8月にはU18日本代表に選ばれ「第33回 日・韓・中ジュニア交流競技会」でも経験を積んだ。「このチームだから自分も成長できたと思うし、代表にも呼んでもらえました。ある意味、恵まれていましたね」。前川は浜松開誠館でのチーム状況を前向きに捉え、3年間を振り返った。

「正直、楽しいことよりもきついことが多かったです。今年は3年生としてコートに立つのが私1人でしたし。でも、こういう経験はなかなかできないと思うし、それをプラスに捉えることができました。段々キャプテンとしての自覚を持ってチームを引っ張っることができたかなとも思うので、すごくいい1年だったなって思います」

前川に続く13得点を挙げた垣内[写真]=©SoftBank ウインターカップ2025

 今大会、前川とともに先発を務めた小林陽菜乃と垣内優希奈は2年生。吉田光咲と舟久保汐は伸びしろ十分な1年生だ。

「下級生からこのコートで長い時間プレーすることは、他のチームではあまり経験できないことだと思います。それぞれが今回の経験、今日できなかったことをこれから成長する糧にして、次のウインターカップでは後悔のないように戦ってほしいです」

 後輩たちへ思いを託した前川の表情は、頼もしいキャプテンそのものだった。

文=小沼克年

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