2026.10.23
大塚製薬が高校・大学のバスケットボール部を対象に開催している「コンディショニングセミナー」。今回は、S&C(ストレングス&コンディショニング)コーチの日本の第一人者であり、同セミナーで講師を務める吉田修久氏が、栃木県の女子の強豪・矢板中央高校女子バスケットボール部を訪問した。
「S&C」とは、筋力や運動能力の向上を図る「ストレングス」と、日常生活や回復も含めて心身の状態を整える「コンディショニング」を組み合わせ、パフォーマンスの最大化とケガの予防を図るアプローチのこと。吉田氏はコンディショニングを「食事、睡眠、水分補給、トレーニング、休養のすべてを一つの線でつなぎ、心身をベストな状態に整えること」と定義する。
女子選手は男子選手に比べ、ひざのケガ(前十字靭帯損傷など)のリスクや、エネルギー不足に伴う月経異常・骨密度低下といった女性特有のコンディショニング課題を抱えやすい。座学、実技レッスン、コート実践の3部構成で行われたセミナーの模様をレポートする。
女子選手にとって筋力強化は、パフォーマンス向上に欠かせない重要なコンディショニングの一つだ。競技力を高めるだけでなく、関節を守り、ケガの予防にもつながる。特に、ひざのケガや重症化を防ぐためには、下半身や骨盤周りの筋力強化が求められる。
女子選手は男子選手に比べ、ひざのケガ(前十字靭帯損傷など)のリスクや、エネルギー不足に伴う月経異常・骨密度低下といった女性特有のコンディショニング課題を抱えやすい。座学、実技レッスン、コート実践の3部構成で行われたセミナーの模様をレポートする。

セミナーのスタートは吉田氏によるコンディショニング講座 [写真]=須田康暉
座学の冒頭、吉田氏が「適切な負荷と回復の重要性」について解説。人間は地球上で重力という負荷を常に受けており、それに対応することで体が強化される。しかし、過度な負荷はケガやパフォーマンス低下を招くため、適切な負荷(練習・トレーニング)と、十分な「回復」のサイクルをいかに作るかが極めて重要になる。
女子選手にとって筋力強化は、パフォーマンス向上に欠かせない要素の一つだ。加えて、競技力を高めるだけでなく、関節を守り、ケガの予防や重症化防止にもつながる。ひざのケガを防ぐためにも、下半身や骨盤周りの筋力強化が求められる。
■毎日続けられる睡眠と栄養・水分補給の習慣
続いて、体づくりの土台となる「栄養と水分補給」について説明があった。体重の2%以上が脱水すると、パフォーマンスの低下が起こるため、トレーニングなどで汗をかくときには、失われた水分をすばやく補うことが不可欠。体内への水分のすばやい吸収や、エネルギー補給もかねて、塩分(電解質)や糖分を適度に含むイオン飲料の摂取がすすめられた。
また、女子選手では、無自覚のうちに「利用可能エネルギー不足(LEA)」に陥るケースがあるという。運動量に対して食事から得るエネルギーが不足し、成長や回復などの身体機能に使えるエネルギーが少ない状態が続くと、月経異常や骨の健康への悪影響、疲労骨折などのリスクにつながる可能性がある。エネルギー不足を防ぐためには、朝食を含む毎日の食事をしっかり食べることに加え、必要に応じて練習前後におにぎりやゼリー飲料などの補食を摂ることが重要だ。さらに、骨の健康に関わるカルシウムやビタミンDが不足しないように意識すること、練習終了が遅い場合に「ダブルディナー(夕方の補食+練習後の夕食)」を行うなど、運動量の多い女子選手にとって、日々の食事や補食、水分補給を適切に行うことが、健康を保ちながらパフォーマンスを高める土台となる。

正しい体の使い方をトレーニングで覚える [写真]=須田康暉

覚えた体の使い方をコート上で実践 [写真]=須田康暉
トレーニングルームでの実技では、動作の土台となるスクワットと骨盤の動かし方を指導。女子選手に多く見られるジャンプ着地時やストップ時の膝のブレ(Knee-in)を防ぐため、自重でのヒップリフトから始め、片足での骨盤の安定性を育成。強い力を一瞬で発揮するジャンプ動作へ移行し、関節に負担をかけない体の使い方を身につけた。体験した選手たちは「深くしゃがめるようになった」「下半身の力がスムーズに伝わる」と話し、動作の変化を実感していた。
コートでは、パスの際も下半身からの力を上半身へ連動させる技術を指導。吉田氏は、トップ選手も股関節の乗り方や姿勢など細かいクオリティを追求していると伝え、日々の練習を高い質で行う重要性を強調した。

コンディショニングの重要性を解説 [写真]=須田康暉
――大塚製薬が実施する今回のセミナーの背景や、現代の育成年代の選手たちを見ていて感じる「自己管理への意識の課題」について教えてください。
吉田 やはりこの年代の選手たちは、日々のトレーニングを真面目に取り組んでいるのですが、「練習を頑張る」ことと「コンディショニング」というプロセスが、自分たちのなかで一つのストーリーとしてつながっていないケースが見受けられます。
――技術の向上(ストレングス)にばかり目が向きがち選手も多いですが、この年代において「コンディショニング」が重要である理由は何でしょうか。
吉田 パフォーマンスは、日常生活のすべてとつながっているからです。毎日の食事の摂り方、睡眠、生活習慣のすべてがパフォーマンスに直結しています。
この理解が深まれば、何をすればパフォーマンスが上がり、目指す場所に近づけるのかを自ら考えられるようになります。そこは指導者が細かく介入できない領域だからこそ、最終的には育成年代の選手自身の意識を高めるべきでしょう。正しいアプローチを伝え、彼らの可能性を広げる力を養うことが極めて重要になります。
――選手が自分で考えて、自発的に取り組むことが大切なのですね。
吉田 はい。選手たちには、まずに全体像をしっかりと理解したうえで取り組んでほしいと思っています。なぜ今、これをやっているのかという根本的な意味を理解していれば、卒業して環境が変わったあとでも、自発的に考えて継続することができます。
――育成年代の選手たちが「今日から日常のなかでまず始めるべきコンディショニング」は何でしょうか。
吉田 やはり、一言で言えば「バランス」です。トレーニングで適切な負荷をかけ、それを効率よく回復させてパフォーマンスを上げていくというポジティブなサイクルをいかに作るか。
まずは土台となる本当にシンプルな生活習慣を整えることから始めてください。「ちゃんと寝る」「朝ごはんをしっかり食べる」「こまめに水分補給をする」。こうした基本をしっかり守る土台があってこそ、専門的なトレーニングの効果も最大限に引き出せるのです。

正しい体の使い方を覚えることが、効果的にトレーニングのクオリティ高めることにつながる [写真]=須田康暉
――コンディショニングにおいて、適切な栄養・水分補給を行うことはどのような意味がありますか?
吉田 スポーツ選手は運動によって膨大なエネルギーを消費しているため、食事の摂り方だけでなく、運動の前後や最中にもより頻繁にエネルギーや水分を補給する必要があります。
適切なタイミングで水分や電解質、タンパク質を補給することは、日々のトレーニングのクオリティを高く維持するために不可欠です。Bリーグや世界最高峰のNBAなど、高いレベルの現場では専属の栄養士がチームに入り、食事や補食のタイミング、水分やエネルギー補給の戦略を緻密に立てて実践しています。
――指導者や保護者など「周囲の大人たち」は、どのように育成年代の選手をサポートすべきでしょうか。
吉田 コンディショニングの基本は普段の食事ですが、それだけでは激しく体を動かす子どもたちの消費エネルギーには追いつかない部分があります。
だからこそ、正しいタイミングで適切な食事や補食にアクセスできる環境を、指導者や親御さんが理解して作ってあげることが重要です。練習前後にバランスの良いものを摂取できる選択肢を用意してあげる。そうして、子どもたちが習慣化しやすいように少しずつ環境を変えていくアプローチを、ぜひ周囲の大人たちにも勉強し、実践していただきたいですね。
――女性アスリートが特に意識すべきコンディショニングや、月経周期に伴う体の変化への向き合い方について教えてください。
吉田 女性アスリート特有のコンディショニングの課題として、月経周期に伴うコンディションの変化や貧血、骨の健康、そして利用可能エネルギー不足が挙げられます。激しい運動に見合うだけのエネルギーや栄養が不足すると、無月経を引き起こす原因となり、これが長期化すると、疲労骨折や将来的な骨粗しょう症などの健康リスクにつながる可能性があります。
特に骨の健康に深く関わるカルシウムや、その吸収を促進するビタミンDを意識的に摂取することが大切です。また、練習後の急激なエネルギー不足を防ぐために、補食のタイミングを工夫することも極めて有効です。練習前に適切な糖分やアミノ酸を摂取し、練習直後にも素早く補給を行う。さらに、夜間の低血糖を防ぎ睡眠のクオリティを維持するために、夕方の補食と夜の食事を分ける「ダブルディナー」などの工夫もこの年代には非常に効果的です。女性選手自身が自分の体のリズムや変化を正しく知り、決して無理をして無月経を放置しないこと、指導者や保護者などの周囲が、そうした悩みを話しやすくサポートしやすい環境を作ることが何よりも重要です。
――最後に、全国で日々汗を流し、高みを目指しているすべての育成年代の選手に向けてエールをお願いします。
吉田 人が成長するのには、どうしても時間がかかります。一つの要素だけで、すべてが劇的に変わる魔法のような、トレーニングや栄養素は存在しません。日々の生活習慣の積み重ねが、将来の自分の体を作っていきます。
だからこそ、まずは土台となる規則正しい生活習慣をしっかりと整えてください。そのうえで、常に高い志を持って果敢にチャレンジしながら、休むことも忘れず、自分の体をしっかり労ってほしいと思います。みんなのたゆまぬ努力が最高の形で結実するよう、これからも応援しています。頑張ってください!
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