2023.01.07
2022-23シーズンの横浜ビー・コルセアーズは、過去6シーズンと比べて明らかにチーム力を上げていて、チャンピオンシップ出場を狙える位置に浮上している。
その中心はやはり河村勇輝だ。バスケットボール界には「チームを勝たせるPGはいいPG」という金言がある。東海大を中退してプロ入りした21歳の彼は、実際に今まで低迷していたチームを勝たせている。何より素晴らしいのが接戦の第4クォーター大詰めの“クラッチタイム”で見せる勝負強さだ。
11月20日のアルバルク東京戦、12月4日の宇都宮ブレックス戦は彼がクラッチタイムに躍動した試合だ。宇都宮戦は「逆転ブザービーター」となる3ポイントシュートを決めている。11月のバイウィーク(中断期間)後に、彼が見せている勝負強さは特筆に値する。
12月24日の大阪エヴェッサ戦は、そんな河村が苦しんだ試合かもしれない。チームは第3クォーターに27失点を喫して逆転され、53-59と6点ビハインドで最終クォーターに入る。河村も3ポイント、レイアップのタッチが悪く、試合を通したフィールドゴールの成功率は20パーセント(10分の2)にとどまっている。
青木勇人ヘッドコーチはこの日の河村についてこう述べる。
「最初にしっかりとアシストを供給していましたけど、なかなかシュートが決まらなかった。自分でアタックしていってレイアップが落ちると、ダメージは大きいんです。ガードのレイアップって、ファストブレイクになる確率がすごく高いですから。(河村の)ミスが相手の得点につながっていたところで、責任は感じていたと思います」
そんな展開でも河村は自分の仕事、役割を見つけていた。
「オフェンスがダメなら、ディフェンスを頑張るしかない。チームとしてディフェンスして、簡単なスコアに持っていくところをやっていければいいと思っていました。あと相手はファールが込んでいたので、こつこつファールを取ってフリースローをもらって加点していくことを考えていました。相手の嫌がることをしていきたいですし、最終的にビッグマンが2人退場したのはプラン通りです」
横浜BCはセカンドユニットがしっかりつないで、第4クォーターに盛り返す。特に須藤昂矢は赤穂雷太とともに守備でディージェイ・ニュービルをよく封じ、3ポイント4本を含む16点を挙げる大活躍を見せた。
しかし大阪は残り1分35秒から、竹内譲次が3ポイントシュートを決めて再逆転。76-77とビハインドを負った横浜BCは、たまらずタイムアウトを取る。
河村は振り返る。
「焦りはなかったです。クロスゲームで最後のクラッチタイムを迎える展開は今シーズン、いろいろな試合で経験しました。自分に打つタイミングがあれば、決め切る自信もあった。まず相手が簡単にファールしてくれてフリースローで加点できました。最後にいいタイミングで3ポイントとアシストが決まったのは、これまでの経験が生きたところです」
河村は再開直後のプレーで自らフリースローを2本獲得し、これを決めて試合をひっくり返す。残り53秒には、ここまで「4分の0」だった3ポイントシュートを決めて、大阪を突き放した。さらに残り34秒、相手のターンオーバーからドライブを仕掛けて相手をひきつけ、チャールズ・ジャクソンに見事なアシストパスを通した。
最終的には10-0のランで横浜BCが大阪を突き放して勝ちきったが、河村はそのうち9得点に絡んでいる。圧巻の活躍だった。この試合で決めた15得点6アシストのうち、残り1分35秒で7得点1アシストを稼いだ。
青木HCは河村の勝負強さについてこう口にする。
「最後に自分が決める意識はすごく強いと思います。今まで一緒にプレーしたことがあるなかだと、五十嵐圭がそうでした。最後は自分が決めるというメンタルで常にプレーしていて、とどめを刺すようなプレーをしていましたね。河村選手もそういう気持ちでプレーしているなと感じます」
「もちろん“やってやるぞ”という気持ちはあります。ただそれが悪い方へ行かないように常に冷静ではいたいなというところもあって、そのバランスは本当に大事になってきます。何がベストなのか、誰のシュートがベストな選択か、冷静に判断するための心構えを持っている感じです」
河村にそれだけの能力があることは、福岡第一高3年時の三遠ネオフェニックスで見せた衝撃デビューからすでに明らかだった。もっとも今の彼は個人能力以上に「チーム動かし、チームを勝たせる」部分が印象深い。
試合の展開を読み、布石を打ち、最後に相手を上回る――。今の河村はそうやって試合を自らの掌の上で転がしているような凄みがある。特別指定選手としての経験があるとはいえ、プロ1年目の21歳がクラッチタイムであれだけ冷静にプレーし、結果を出しているのだから、この男は別格だ。
文=大島和人
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