Bリーグ公認応援番組
『B MY HERO!』
高校バスケの頂点を決める大会ウインターカップ。試合を形作るのは選手だけではない。コーチ・スタッフ、声を枯らして声援を送る応援団はもちろん、観客、審判も試合を構成する重要なファクターだ。そして、バスケットボールの試合において極めて重要なのがT.O(ティー・オー)と呼ばれる役割なのだが、バスケットボールの競技者には馴染みのあるこのT.O。改めて一体どのような担務なのかを紹介したい。
T.Oとはテーブル・オフィシャルズ(Table Officials)の略で、選手のプレーや審判のジャッジをしっかりと見ながら、競技時間を計り、得点やファウルを記録し、試合の進行をサポートする。世代によっては単に「オフィシャル」と言った方が分かりやすいバスケ経験者もいるかもしれない。テーブルに着き試合を支える4名に加えて、大会の名物にもなりつつあるフロアワイパー、モッパーと呼ばれる4名を加えた計8名が1ユニットとして試合を総合的にサポートすることになる。
「なんだ、スコアつけか」などと侮ることなかれ。日本一を決める大会の、高校生活の集大成ともなる試合において、得点をつけ忘れた、タイマーを押し忘れたと、ペロっと舌を出して謝ってすむものではない。また、フロアワイパーにしても、試合中にスリッピングを起こさないよう、また試合の妨げにならないように迅速かつ的確にモップをかけることで、選手たちの怪我の防止と、快適な試合運営をつかさどる重要な鍵を握る。一つひとつの選手プレー、審判の所作に最新の注意を払い、選手が日ごろ積みあげてきたものをストレスなく試合で発揮できるよう最高の舞台を整えるのが彼、彼女らの仕事となる。
プレッシャーのかかる大舞台を支える高校生たちは自分たちの役割についてどう考えているのか、女子準決勝、県立津幡高校(石川県)と岐阜女子高校(岐阜県)のT.Oを担当した東京都立東大和南高校の皆さんにお話をうかがった。
まずは、テーブルに着いた4名。スコアラーを努めた吉氷さんは「素早くファールを会場に見せたり、選手がプレーしやすいように素早く表示したりするよう心掛けました」と語る。アシスタントスコアラーを努めた望月さんは「会場全体にファウルの表示をするのと、得点を表示する役割を担いました。自分の表示した得点やファウルで試合の流れも変わってしまうので、終わってほっとした」と重責から解放され安堵のため息をもらした。試合の流れの中で集中力を切らすことなく対応を迫られる24秒ショットクロックを担当したのは北原さん。「自分の判断でプレーが変わってしまうので、しっかりと判断できるように心がけました。試合が勝ちあがってくると観客も多く緊張してしまうので、冷静に判断できるよう集中しました」と重役を努めた準決勝を振り返る。タイマーを務めた風見さんは「自分自身がバスケやってきて、あこがれのウインターカップの準決勝に携わることができて自信になりました。緊張に打ち勝ったことは大きな糧になると思います」と笑顔で答えた。
続いてフロアワイパーを務めた4名、藤井さん、花岡さん、村山さん、三村さんにも話を聞いた。まず驚いたのは彼女らが口をそろえて「昨日までは4面でやっていて、木目が変わってしまい緊張しました」と語ったことだ。まるでプロゴルファーがグリーンの芝目を見ているような語り口だが、横に4面のコートが並んでいた予選とはことなり、メインコート1面に変わることで、モップをかける向きや、モップをかけはじめる位置が変わってしまうと言う。
また、フロアワイパーを担当する学校によってそのスタイルや手法は異なるが、彼女たちの特徴は、モップをかけ始めるタイミングやスピードをそろえる点にある。この日の感想についても「(モップをかけ終えて)座るタイミングが微妙だった……」、「座るところはもっとそろえられれば、全体的にきれいだった……」と晴れの舞台を終えた後の言葉はまるでフィギュアスケートを終えたあとのコメントのよう。4名がモップをかける一連の作業をそろえるのは、試合を観戦に来るお客さんの視界に妨げにならないよう、試合の進行を乱さないように規律ももって作業にあたることが大きな理由の1つだが、試合を観ている側も美しくそろうフロアワイパーの姿には清々しいものを感じることも多く、彼女たちがまさに試合を構築する重要なピースであることを感じられる。
東大和南高校のT.O8名は異口同音に「ウインターカップは日本のバスケのトップ、日本一の大会だと思います」と胸は張る。「バスケットボール選手みんなが憧れる場所にこのようにして携われることは本当にうれしい」と語る彼女たちもまた、緊張感に打ち勝ち、重大な責任を果たしたことでこの経験を大きな糧として成長していくに違いない。
文=村上成