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『B MY HERO!』
富士通レッドウェーブが6シーズンぶりのファイナル進出なるか。ENEOSサンフラワーズが王座奪還に向けて勝ち上がるか。注目の一戦はディフェンスの堅さが光った富士通が2連勝でリーグチャンピオンへの挑戦権を獲得した。
2戦とも主導権は富士通にあった。1戦目の出足こそ9−0でENEOSがスタートダッシュを切るが「良かったのはその一瞬だけで、人が動かず、2点の確率が悪かった」とENEOSの佐藤清美ヘッドコーチが敗因をあげるほど、チームの動きには迷いが生じていた。1戦目のターンオーバーは21を記録。
その原因について渡嘉敷来夢は「相手のプレッシャーを感じてしまって逃げながらパスをする形が多かった」と分析する。渡嘉敷自身、主導権を握れるインサイドでポジションを取ることができないため、アウトサイドに出てはパスのさばき役になることも多かった。
「ミスをするくらいだったら自分で点を取りに行ったほうがいいですよね。明日は点を取りにいきます」と試合後の会見で渡嘉敷は、隣に登壇する佐藤HCに宣言するかのように気持ちを入れ直す。それほど、誰で得点を取るのか噛み合っていない状態だった。
ただ、ミスが多かった事情は理解できる。ENEOSはこれまで起点となっていたガードの岡本彩也花が3月6日に膝を負傷してシーズンアウト。シューターの林咲希も右足首の疲労骨折でプレーオフ出場を断念していた。アウトサイドの得点源を失ったENEOSに対して富士通のBTテーブスHCは「これまでのENEOSには強力なシューターがいましたが、プレーオフではシューターが少なくなったのでスペーシングがだいぶ変わりました。守りやすいとまでは言わないけれど、守らなきゃいけないところは目立ちます(特定できます)」とインサイドを強調したディフェンスで優位に立ち、ゴール下でプットバックされないように守ったという。
そうした苦しい布陣の中でENEOSは、1戦目には富士通の起点である町田に対してフェイスガードで守り、町田を起点とするピック&ロールにはアンダーで離して守るなど様々な策を試みるが、逆に前が空いたときに町田は3本もの3ポイントをしっかりと決めて突き放している。ただ、決して富士通も2戦を通してシュート確率が良かったわけではない。「オフェンスがごちゃごちゃしてしまって…」とテーブスHCが言うほどシュートは入らなかった。
それでも、ディフェンスのキーマンである内尾聡菜を主体としたタイトなディフェンスはENEOSからターンオーバーを誘発した。猛追された2戦目の終盤には篠崎澪と町田の走りからとどめを刺している。それぞれが役割を果たした富士通が2連勝を飾った。
16年ぶりにセミファイナル敗退となったENEOS。司令塔の宮崎早織は「ENEOSが一番強いインサイドにパスを入れられず、大事なところでミスをした自分の責任です」と悔し涙を流した。
それでも、シーズンの終盤には若手が経験を積み、高田静、奥山理々嘉、星杏璃らの成長でチームを底上げすることはできた。膝の負傷から復帰した渡嘉敷もシーズンを通してフル稼働し、復活を印象づけることはできた。
「時々、接触での怖さはよぎることがあるけれど、少しずつ恐怖心はなくなっています。復帰して1年目なので、こういう苦しいシーズンになるだろうなとは思っていました。今の自分に満足することはありません。正直悔しいですが、若い子たちが鍛えられたので来シーズンはもっといいチームになると思います」とチーム再建を誓った。2戦目の終盤に猛追したあきらめない姿こそが女王復活への第一歩である。
富士通のファイナル進出は2015-16シーズン以来6シーズンぶり。当時のファイナルを経験している町田と篠崎は「6年は長かったですね」と苦笑いとも言える表情で答えている。
セミファイナルでの富士通は、決してシュートが入ったわけではない。しかし「相手に流れがいきそうなところで決め切れた」(篠崎)、「今年はディフェンスで我慢ができるし、リバウンドが取り切れているのでセカンドチャンスでやられなくなった」(町田)と自信を持つ。
6年もの間、辿りつけなかったファイナルの地へ後押ししたのは、「ENEOSから移籍してきた2人の存在が大きい」と町田と篠崎は口を揃える。宮澤夕貴と中村優花の存在だ。
宮澤はプレーオフに向けてピークをきっちり上げ、リバウンドや要所の得点で仕事を果たし、中村はシックスマンとして勢いあるプレーで流れを呼び込んでいる。
「2人は練習からリバウンドに跳び込んでくれます。その姿を見てみんなが勉強になっている。そういうリーダーがうちにはいる」とテーブスHCは、チームが勝つための役割をやり遂げる2人に全幅の信頼を寄せている。
最後の決戦に向けてテーブスHCは言う。
「(2戦目の)61得点は少ないかもしれませんが、それでも勝つことができたのがチームの成長です。ファイナルでも自分たちのバスケをすることが大切です」
取材・文=小永吉陽子