2025.07.29

バスケットボールで石川を元気に…Wリーグが復興支援サマーキャンプを開催

地元のファンとWリーグのトッププレーヤーが交流[写真]=W LEAGUE
フリーライター

「能登半島地震復興支援 Wリーグサマーキャンプ 2025 in いしかわ」が7月19日〜21日の期間で石川県金沢市のいしかわ総合スポーツセンターにて開催された。

 毎年夏に行われるWリーグのサマーキャンプはその年々で開催地が異なるが、本来、石川県は2024年夏に開催される予定であった。しかし、同年1月に発生した能登半島地震により、開催会場のいしかわ総合スポーツセンターが避難所となったことなどを受け、Wリーグ(一般社団法人バスケットボール女子日本リーグ)は被災状況を鑑みて中止を決断(代替地として東京に場所を移した)。そのため、Wリーグにとっても石川県関係者にとっても今回は1年越しでの開催となった。

 バスケットボールの試合だけでなく能登半島地震復興支援としてさまざまなイベントが催された今夏のサマーキャンプ。ここではそのイベントについて触れていきたい。

Wリーグ×molten特別企画|3x3大会やトークショーで地元の小中学生と交流

サマーキャンプの特別企画で小中学生の3x3大会を開催[写真]=W LEAGUE

 女子選手の競技継続と被災地支援を目的とした株式会社モルテンとWリーグとの特別企画は、大会初日にサブアリーナで開催。最初に3x3の大会が行われた。

 石川県の子どもたちが普段とは異なる環境の中でプレーする機会を提供し、バスケットボールの楽しさを再認識する場を創出するといったテーマから、サブアリーナには石川県を中心に北信越から関東までの小中学生の女子選手が集結。3x3大会の試合ではDJによる軽快な音楽が流れる中、選手たちが次々と好プレーを披露した。

 予選リーグを経て決勝へと勝ち上がったのは小学生の部は「CROWN Honey」(福井県)と「ZETHREE CHIBA」(千葉県)。5分マッチとなった決勝では激しいディフェンスやルーズボールなど互いにボールへの執着心を見せたが、3人で戦い抜いた「ZETHREE CHIBA」が試合を制した。

 一方の中学生の部は「Jamaney RED」と「Jamaney BLUE」の対戦に。普段は「hokka Jamaney」という石川県のクラブチームに所属する選手同士の対戦となり、8分マッチの決勝戦では両チームともに高いスキルやシュート力を発揮。最後は先行したBLUEがREDの追い上げを振り切って優勝をつかんだ。

 2つの決勝戦には、赤穂ひまわり(デンソーアイリス)と宮下希保(富士通レッドウェーブ)の石川県出身の2選手に加え昨シーズンをもって引退した𠮷田舞衣(元シャンソン化粧品シャンソンVマジック)が観戦。ハッスルプレーを見せる選手たちに熱視線を送った。

場内解説で決勝を盛り上げた有明葵衣さんと池田智美さん[写真]=W LEAGUE

 また、決勝戦では場内解説でも場を盛り上げた。その一人は富士通でプレーし、現在はWリーグ理事を務める有明葵衣さん。そしてもう一人は輪島市出身の池田智美さんだ。池田さんは3x3.EXE PREMIERの女子カテゴリーに2025シーズンから参戦した3人制プロバスケットボールチーム「ECHAKE-NA NOTO(えちゃけーな のと)」に所属する元Wリーグ選手。石川県の津幡高校卒業後、大阪体育大学で活躍し、Wリーグではトヨタ紡織サンシャインラビッツで7シーズンプレーした。池田さんと同様に3x3でプレーを続ける有明さんが現在、「ECHAKE-NA NOTO」にレンタル移籍で加入していることから、2人はそろいのチームウェアを身にまといながら的確な解説と選手たちへの激励の言葉を送っていた。

 3x3大会の表彰式にプレゼンターを務めた赤穂、宮下らはその後、トークショーへ。Wリーグ理事の伊集南さんの司会のもと、中学時代の話や小中学生たちからの質問にも丁寧に答えていた。

 試合と試合の間にはサインや写真撮影の時間が設けられ、トップ選手と触れ合い小中学生たちが目を輝かせている様子は、まさに「競技を続けるモチベーションの向上を図り、未来のアスリートたちの成長と復興支援の一助に」といったイベントの趣旨のとおり、貴重な経験の場となっていた。

子どもたちはトップで活躍した𠮷田舞衣らと間近で触れ合った[写真]=W LEAGUE

 さらにイベントの最後には「ドリームボールリレー」も実施。今回で4回目となるこのプロジェクトは、Wリーグのオフィシャルスポンサーとして毎シーズン公式試合球を提供しているモルテンとWリーグの共同企画で、Wリーグで1年間使用されたボールを未来のプレーヤーたちに寄贈し、末永く使用してもらうというもの。今回はWリーグのチームが1シーズン練習などで使用したボールを赤穂、宮下らが3x3大会の参加チームに手渡した。

 イベントを終えた七尾市出身の赤穂は、「私が小中学生の頃はトップリーグの選手と関わることはそこまでなかったので、(サマーキャンプを通して)トップチームの試合を見ることもできますし、トップ選手のプレーを見ることだけでも全然違うと思うので、こういう機会を大切にして、何か少しでも学んでもらえたらいいなと思います」と、コメント。また、地元の良さについては、「一言で言えば、すごくいい場所。(中高時代に)千葉、今は(デンソーの本拠地である)愛知にいますが、石川が一番好きです。金沢は栄えていますが、自然が豊かで、食べ物も美味しい。時間の流れがゆっくりしていて自分には合ってるなと思います」と、語った。

 帰省した際には実家でのんびりしているという赤穂。石川県が発祥で自身も好きだという「とり野菜みそ」を使った料理や「実家の近くの(海産物や特産物を販売する)市場で浜焼きの貝を買って家で焼いて食べるなど愛知ではできないような食べ方をしています」と石川での食についても教えてくれた。

 そして最後には、石川のバスケットボール選手たちに向けてこのように発した。「少しずつではありますが復興していると感じます。こういったイベントが地元の子どもたちのいいきっかけになってくれれば。ここは金沢ですが、これが能登まで届けばいいなと思います」

地元でのサマーキャンプ開催を待望していた宮下[写真]=W LEAGUE

 一方、いしかわ総合スポーツセンターでの試合が中学生以来となったのが白山市出身の宮下。「私は強い中学にいたわけではなかったので、大きい体育館で試合ができることが当時は少なくて。だから、ここは本当に大きいし、試合前からワクワクしていたのを覚えています」と、当時の思い出に笑顔を見せた。加えて、「本当なら昨年、ここで(サマーキャンプが)開催予定でしたが、震災がありできなくなってしまった。昨年は震災のことも開催中止のこともショックだったのですが、今年開催するということで、見に来てくれる知り合いの方や連絡くれる方もいたので、そういった人の前でプレーできるのはうれしいです」と、本人にとっても待ちに待った地元開催だったことを明かした。

 宮下も赤穂と同じく頻繁に帰省はできないそうだが、帰省した際は、最寄りの駅から家までの車からの風景を見て「あ、帰ってきたな」と実感するという。「今は自分の心を休ませるために帰省することが多いので、落ち込んだときに帰ってきて癒しをもらうこともありますし、元気になって(チームへと)戻る場所です」と、目を細めた。

 そして「少しの力だとは思いますが、石川でバスケットボールをしている子どもたちが、この今回のサマーキャンプを見て、自分ももっとバスケットをやりたい、頑張りたいと思ってくれたらうれしいです」と、地元への思いを言葉にした。

■チャリティー活動|復興支援へ…ファンと選手がつながる「チャリティー縁日」

復興支援を目的とした「縁日ブース」が連日開催[写真]=W LEAGUE

 今回、大会グッズが販売されているエリア内には特別にわなげやサイコロのゲームを行う「縁日ブース」が設置された。これは「チャリティー縁日」というもので、わなげでの成功本数やサイコロの目の数などにより様々な景品をもらえるというイベント。そしてここでの売り上げは『令和6年能登半島地震 スポーツ支援金』として活用する予定だ。

 この縁日ブースには日替わりでWリーグ所属選手たちが、販売スタッフとして参加。富士通の町田瑠唯林咲希にデンソーの赤穂、ENEOSサンフラワーズからは宮崎早織馬瓜エブリンといったオリンピアンをはじめ、全チームの選手数名がゲームの進行を手伝ったり、景品を手渡したりと、ファンと楽しいひとときを過ごした。ほかにも会場内の数箇所で募金箱が置かれていたが、ここでの募金も同様に支援金として活用される。

 サマーキャンプは同時期に国際大会に出場していた日本代表メンバーを多く擁するといった理由などからデンソーアイリスの出場はならなかったが、今シーズンよりWリーグフューチャーに新規参入となった SMBC TOKYO SOLUAを含めた14チームが出場。社会人バスケットボール連盟からはミツウロコ、滋賀銀行、招待として日本女子学生選抜チームも加わり、計17チームが熱戦を繰り広げた。選手たちの熱いプレーとともに能登半島地震の復興に向けたイベントなど、バスケットボールを通じて石川県を盛り上げた3日間となっていた。

取材・文=田島早苗
制作協力=Wリーグ

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