2021.07.27

5人制バスケ女子日本代表…五輪1年延期と金メダル獲得のリアリティ

日本バスケ史上初の金メダル獲得を目指す女子日本代表 [写真]=fiba.com
バスケットボールキング編集部

■東京2020オリンピック5人制女子日本代表
#0 長岡萌映子(PF/トヨタ自動車 アンテロープス)
#8 髙田真希(C/デンソー アイリス)
#12 三好南穂(PG/トヨタ自動車 アンテロープス)
#13 町田瑠唯(PG/富士通 レッドウェーブ)
#15 本橋菜子(PG/東京羽田ヴィッキーズ)
#20 東藤なな子(SG/トヨタ紡織 サンシャインラビッツ)
#27 林咲希(SG/ENEOSサンフラワーズ)
#30 馬瓜エブリン(SF/トヨタ自動車 アンテロープス)
#32 宮崎早織(PG/ENEOSサンフラワーズ)
#52 宮澤夕貴(SF/富士通 レッドウェーブ)
#88 赤穂ひまわり(SG/デンソー アイリス)
#99 オコエ桃仁花(PF/富士通 レッドウェーブ)

女子日本代表☆予選リーグ☆テレビ放送予定
7月27日(火)9:50~ vsフランス NHK Eテレ 生放送
7月30日(金)21:40~ vsアメリカ NHK BS1 録画
8月2日(月)9:05~ vsナイジェリアNHK 総合生放送、15:00~ NHK BS1 録画

リオから東京へバトンは託された

女子日本代表を指揮するトム・ホーバスHC。金メダルを目指す大会がスタートする [写真]=加藤誠夫


 東京2020オリンピックは7月23日に開会式を迎え、翌日から本格的に競技がスタートした。女子5人制バスケットボールは26日から予選リーグが始まり、女子日本代表は27日10時からフランスと対戦することになっている。

 2016年、リオオリンピックで決勝トーナメントにコマを進めた日本は、準々決勝で前回のロンドン大会まで5大会連続で金メダルを獲得していたアメリカと対戦。結果的には64−110と大差をつけられて敗れるのだが、前半には2点差まで追い詰める場面もあり、大いに手応えを感じることができた。当時の内海知秀ヘッドコーチは「2人が日本を引っ張る気持ちがあれば、東京では必ずメダルを取れるという確信があります。2人がもっとしっかりすれば、日本はもっと強くなります」と試合後に語った。

 この2人とは吉田亜沙美(元JX-ENEOSサンフラワーズ)と渡嘉敷来夢(ENEOSサンフラワーズ)。当時、吉田が29歳、渡嘉敷が25歳、4年後、2020年の東京大会ではさらに経験を積んで円熟味を増しているだろうし、この2人を軸に強化を進めていけば、オリンピックで初のメダル獲得も夢ではないと思わせるには十分な内容だった。

 内海氏の後を引き継いだのがリオオリンピックでアシスタントコーチを務めていたトム・ホーバス氏。ホーバスHCは日本の女子バスケの伝統とも言えるオールコートのプレッシャーディフェンスからトランジションの激しいオフェンスを軸とするスタイルを継承。17年にはFIBA女子アジアカップ3連覇を果たし、その祝勝会でホーバスHCは「東京オリンピックで金メダルを取ります」と宣言をした。

「もちろん今の代表メンバーがベースになるが、その他にも代表候補にしたい選手がいる。アンダーカテゴリーを見ている(当時の)萩原(美樹子ヘッドコーチ)さんとはコミュニケーションを取っているし、仮にそのカテゴリーから代表に召集されても最初からやり直さなくていいように、代表全体での強化を考えている。まだまだアメリカ代表との差は大きいが、目標を高く設定するのが自分のやり方。目指さなければ達成できないし、不可能だとは思っていない」

新型コロナの影響が暗い影を落とす

心配された本橋菜子だが、本番の舞台で本来の姿を見せてくれそうだ [写真]=加藤誠夫


 しかし、それが思いどおりの結果が得られるほど女子のバスケ界は甘くない。スペインで行われたFIBA女子ワールドカップで日本は準々決勝進出決定戦で中国に敗退。実はこの大会では、吉田亜沙美、大崎佑圭、渡嘉敷来夢(いずれも当時JX-ENEOS サンフラワーズ)が不在であり、若手の底上げを図る選手選考で臨んでいた。

 ホーバスHCは「今大会は渡嘉敷や吉田がいなかったから、残っているメンバーがステップアップしました。結果は出せなかったけど、僕は自信を持っていますよ。当たり前だけど、東京オリンピックで日本はメダルを狙えると思っています」と、悔しい結果の中で手応えを感じていたのだ。

 2019年、女子日本代表はアジアカップで4連覇を達成。大会MVPには本橋菜子(東京羽田ヴィッキーズ)が選出された。本橋は吉田亜沙美、藤岡麻菜美(当時JX-ENEOS)が不在のポイントガードの座を守っただけでなく、爆発力のある得点力を見せつけ、ホーバスHCが目指す司令像を体現してみせた。渡嘉敷もチームに戻り、赤穂ひまわり(デンソーアイリス)、中田珠未(ENEOSサンフラワーズ)のような若手も台頭。いよいよ東京での本番に向けて、強化の最終段階を迎えると誰もが思っていた。

 しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響で東京オリンピックの開催は1年延期となった。さらに代表復帰を目指していた吉田と大崎は延期に伴い引退を決意。さらに延期の間に本橋が右ヒザの前十字靭帯を損傷、さらに渡嘉敷が同じ右ヒザの前十字靭帯を断裂させるという大ケガを負ってしまった。チームに大きく暗雲が立ち込めたと言えるだろう。

 それでも東京オリンピックでの復帰を目指し司令塔と大黒柱は懸命にリハビリを続け、本橋が復帰の目処が立った。しかし、渡嘉敷は回復までとはいかず、自らチームから離れることを決断し、オリンピックに出場する12名から漏れることとなる。

本番に向けた最終調整の手応えは

キャプテンの髙田真希は「金メダルを取ります」と力強く語った [写真]=加藤誠夫


 迎えた今年6月の三井不動産カップ2021(神奈川大会)、日本にとっては19年2月のFIBA女子オリンピック最終予選以来となる海外のチームとの顔合わせだ。エントリーメンバーに入っている本橋の復調具合、さらには渡嘉敷が抜けた後の得点源をどうするか!? など、金メダル獲得に向けた不安材料が頭をもたげる中、ポルトガルとの3連戦すべてを勝利したものの、ホーバスHCは決して満足できる内容ではなかったと言えるだろう。

 特に高さを補うために早いトランジションと3ポイントシュートで攻める「スモールボール」をホーバスHCは目指したが、この時点ではシューター陣がまだ本調子とは言えず思ったほど得点が伸びなかった。さらに司令塔についてはどの選手が主力になるかが明確に見えず、コンビネーションの面でもミスが出るなど、五輪開幕まで間に合うのか、不安は募るばかりだった。

 7月、オリンピックの最終調整となる三井不動産カップ2021(埼玉大会)が行われ、日本は世界ランキング6位(日本は10位)のベルギーと対戦。長岡萌映子(トヨタ自動車アンテロープス)、髙田真希(デンソー)、三好南穂(トヨタ自動車)、町田瑠唯(富士通レッドウェーブ)、赤穂ひまわりが先発に名を連ねたこの一戦、日本はサイズでは劣るベルギーに対して、オールコートでプレッシャーを与え続けるディフェンスを披露、思いどおりのオフェンスをさせなかった。さらに攻めては三好を中心に効果的に3ポイントを決めて、ペースを渡さなかった。

 何よりもこのオフェンスをリードしたのが町田だった。町田はもともとパス回しなどのゲームメイクには定評があったが、ホーバスHCは「もっと積極的に攻めてほしい」と公家を呈する場面もあった。しかし、この日の町田は、パスだけではなくドライブでゴール下まで突破し、そこからコーナーのシューターやゴール下で控える髙田などにパスを供給。どこか自信に満ちたプレーぶりでチームを完全に掌握しているところを見せてくれた。

 さらにプエルトリコとの対戦では、神奈川大会で70パーセントの出来と言っていた本橋がベンチスタートながら本来の思い切りのいいオフェンスを披露。約13分のプレータイムで11得点を挙げるなど、完全復調の姿がやっと見えるようになってきた。加えて、肩の故障で苦しんでいた宮澤夕貴(富士通)や林咲希(ENEOS)のシューター陣も調子を取り戻しリングを射抜いた。

 ホーバスHCは「3ポイントを40本打って、4割の確率で決めたい」と目標値を設定しているが、プエルトリコ戦では30本の3ポイントを打ち10本成功の33.3パーセントを記録。目標にはまだ到達していないが、これについても目処がたったと言えよう。そして、ベルギー戦に続いて見せたオールコートのディフェンスは、ボールを奪ってから畳み掛けるようなオフェンスを引き出し勝利に導いく原動力となった。

 プエルトリコ戦のあと、キャプテンを務める髙田は、「個人的には大﨑や渡嘉敷と一緒にやりたかったなという気持ちもあります。本当に言葉で表すのは難しいですけど、そういった選手の気持ちを持って、自分たちはコートに立たないといけないといけませんし、それがオリンピックの12人に選ばれた責任だと思います」とコメント。

 そして「金メダルを目指して大会に挑んでいきたいと思います。ぜひ熱いエールをお願いします。行ってきます!」と応援するすべての思いを受け止め、大会に臨む気持ちを語ってくれた。

「間に合った」

 長年女子代表を取材してきたものとしての本音だ。オリンピックの本番でどのようなプレーを見せてくれ、どんなサンプライズを見せてくれるのか−−三井不動産カップで見せた姿は全てではないだろう。相手が対応してくれば、その先の一手を打つ準備はできているはずだ。今は期待以外の何もない。

 金メダルを目指す女子日本代表がいよいよさいたまスーパーアリーナのコートに立つ。

文=入江美紀雄

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