2020.09.16

車いすバスケ、日本の女子選手1名がパラリンピック出場資格を失う

[写真]=斎藤寿子
新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年よりスポーツ専門ウェブサイトで記事を執筆。車いすバスケットボールの取材は11年より国内外で精力的に活動を開始。パラリンピックは12年ロンドンから3大会連続、世界選手権は14年仁川、18年ハンブルク、アジアパラ競技大会も14年仁川、18年ジャカルタの各大会をカバーした。

 9月15日、日本車いすバスケットボール連盟(JWBF)はオンラインで会見を開き、パラリンピック出場資格を判定するクラス分け再評価についての経緯と結果を報告した。来年に延期された東京パラリンピックに対しては、対象とされた日本人選手男女あわせて14人の再評価が終了。13人が出場資格を満たしたが、女子選手1人に出場資格がないと判定された。

“最終通告”に至るまでの経緯とは

 世界の車いすバスケットボール界に衝撃のニュースが飛び込んできたのは、今年1月のこと。国際パラリンピック委員会(IPC)が公式サイトで国際車いすバスケットボール連盟(IWBF)に対して通告したことを発表。その内容は、「東京大会の実施競技から除外する可能性があること」、「現段階では2024年パリ大会からの除外が決定」というものだった。

 今回、問題となったのは、障がいの程度や身体機能によって選手に振り分けられる「クラス分け」についてだ。IPCには選手の公平性を保つために考えられ規定された「クラス分け規約」がある。IPCはまず2003年にクラス分け戦略を公表し、07年にクラス分け規約を発表した。さらに15年には改訂版を発表し、各国際競技連盟にこのクラス分け規約に準じて、それぞれの競技性に沿ったクラス分けの規定を作成し、18年1月までにIPCからの承認を受けることを通達した。

 ところが、IWBFはこの期日までにIPCの承認を受けてはいなかった。その理由は、IWBFのウルフ・メーレンス会長の次の言葉からうかがい知ることができる。

「我々には、持続可能で機能的なクラス分け規定がある。それは他競技におけるロールモデルとなるものだ」

 この言葉からは、IWBFは独自のクラス分けに強くこだわり、IPCの求めに積極的には応じてこなかったのではなかったか。いずれにしても、18年8月の時点で東京パラリンピックの正式競技である22団体のうち、IPCから承認を受けていたのは20団体。そして今年1月の時点では、残るはIWBFのみとなっていた。

 IPCによればIWBFをサポートしようと何度もコンタクトを取ったが、IWBFの対応は遅々として進まなかったという。そのため今年1月に“最終通告”をしたのだ。それでもIPCは、東京大会までの期間を考慮したのだろう。再評価の対象を東京大会に出場する可能性のある4.0と4.5の選手に限定した。

今年1月、車いすバスケットボール界に衝撃のニュースが飛び込んできた(写真はイメージ)[写真]斎藤寿子

東京パラへの再評価、日本は完了

 その再評価の結果、日本で対象となっていた14人(男子6人、女子8人)のうち、13人が出場資格を満たし、女子選手の1人が出場資格を満たさないという判定を受けた。出場資格がないとされた選手は再審査を求めず、今回の結果を受け止めたという。そしてJWBFは、選手のプライバシーを守るため、氏名やコメントなどは公表しないとした。

 再評価でパラリンピックの参加資格が認められなかった理由は、IPCのクラス分け規約に定められている『障がい』に該当しなかったためだ。IPCでは選手の公平性を保つために、パラリンピックに参加する要件を満たす障がいは10種類と定めている。車いすバスケでは、そのうち7種類が該当されるが、そのどれにも該当しないと判定されたのだ。

 日本の女子から該当者が出たことについて、女子代表チームのキャプテン藤井郁美は、次のようなコメントを寄せた。

「参加資格が満たないとされた選手は、これまではIWBFのルールでは参加資格が認められていたことは紛れもない事実。今回の判定は“障がいがなかった”ということではなく、“パラリンピックという大会に参加する資格を満たしていない”ということだと理解してほしい。そのような選手が世界各国から出たことは、同じ選手として正直言葉が見つからない。それでも世界中の車いすバスケ選手の“夢の舞台”を実現させるためだと理解している」

JWBFは今後、パラリンピックに出場資格が満たされないと判定された選手が競技を続ける意向を示した場合は、国内での活動はこれまで通りにできるようにサポートしていくとしている。

再評価の結果、日本の女子選手1名が出場資格を満たさないと判定された(写真はイメージ)[写真]=斎藤寿子

除外解除へ課題は山積み

 日本人選手においては、東京大会実施に向けた再評価は完了した。しかし、他国ではまだ保留とされ、再審査が必要な選手もいる。加えて、すでに出場資格が満たされないと判定された選手をめぐって、海外の選手たちが異議を唱えている。先月末には、東京大会の出場権のある14カ国のうち10カ国の選手たちが、IPCに声明文を送っている。これに応えるかたちで、IPCも9月3日に公式サイトで詳細を説明した。だが、これで事態がおさまるかは分からない。

 一方、4年後に予定されているパリ大会においては、IPCは現段階では「パラリンピックからの除外」を決定している。除外を解除するためには、今年の12月31日までに、クラス1.0~3.5の国際レベルの選手および、今回の再評価の対象とならなかったクラス4.0、4.5の選手の再評価を完了させなければならない。日本で対象としている選手は男女あわせて30人で、すでにJWBFからIWBFへの資料提出は7割程度が完了している。

 加えて、来年8月31日までにIPCのクラス分け規約に完全に準拠した、車いすバスケのクラス分け規定を提出し、IPCからの承認を受けなければならない。だが、ここにも大きな問題がある。前述したとおり、IPCでは車いすバスケに該当するパラリンピック出場資格を満たす障がいは7種類と規定している。しかし、それぞれの障がいの最小基準、つまり「どこまでを該当とするか」については、各競技団体が競技の特性によって定めるとしている。JWBFによれば、その最小基準について、「切断」と「脚長差」を除く5種類の障がいについては、IWBFから公表されていないために、測定方法が不明とされている。

 これについて、日本連盟のJWBFクラス分け部・西川拡志部長はこう述べた。

「JWBFクラス分け部としては、(IWBFに)最小障がいの基準をつくるだけのデータがまだ蓄積されていないことが理由だと考えている」

 期限まで残り1年を切った中、果たしてIWBFは残り5種類の障がいの最小基準を設定し、IPCからの承認を受けることができるのか。JWBFとしては、迅速に発表することを求めていくとともに、前面的に協力していく考えだ。

 しかし、日本では粛々と進行しているものの、海外の選手たちからの抗議の声はおさまる気配はない。各競技団体が対応してきた中、5年にわたりIWBFが残してきた“ツケ”が今、車いすバスケ界に大きな波紋を呼んでいると言えそうだ。

 
 写真・文=斎藤寿子

5年にわってIWBFが残してきた『ツケ』が波紋を呼んでいる(写真はイメージ)[写真]=斎藤寿子

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