2021.12.08

ラプターズ・渡邊雄太、ケガから復帰までの道のり…米在住記者が密着(前編)

渡邊は開幕前に左ふくらはぎを負傷。今シーズンケガとの戦いから始まった[写真]=Getty Images
ロサンゼルス在住ライター

「雄太が今週末か長い遠征に出る来週はじめにでも戻ってくることを願っている」--。11月11日(現地時間10日、日付は以下同)、左ふくらはぎの負傷で欠場中の渡邊雄太の復帰について、トロント・ラプターズのニック・ナースヘッドコーチは、期待を込めてそう言った。プレシーズンゲーム2試合目の前日となる10月7日に故障を負ってから、コートに立たないまま1カ月以上が経っていた。

 一度は練習を再開させたが、復帰目前に同じ個所を悪化させた。「最初は肉離れのような感じだったんですけど、それが2回目で完全に切れてしまいました。あの練習で全部やりきれたら次の試合から復帰できるという時だったんですけど、最後の5分ぐらいで同じケガをして…」。11月19日、ユタ・ジャズ戦が行われる朝の練習前、渡邊はそう説明した。「完全に切れてしまったほうが、あとは痛みが取れるのを待つだけで、それ以降気にしなくて良くなる」と医者から言われ、安心はしたものの「時間がだいぶ掛かっているので、そこだけはちょっとストレスです」と悔しさを押し殺すように話した。

 週のはじめというわけにはいかなかったが、ラプターズはこのジャズ戦から渡邊を復帰させる計画を立てていた。だが試合でプレーできるほど痛みがなくならず、復帰は見送りとなっていた。

「とてもフラストレーションを感じています。足にもまだ痛みはありますが、何がもっとも『痛い』と言えば、やはりバスケットボールができないことです。バスケットをすることを愛しているので」。

 2018年にメンフィス・グリズリーズへ入団し、最初のトレーニングキャンプを迎える前、メンフィスのスポーツ専門ポッドキャストにゲスト出演した渡邊は、趣味を聞かれて困っていた。「何かあるだろう? 映画鑑賞とか…」。そう言われても答えられずにいた。それほど、バスケットボール一筋の人生だ。だからこそバスケットボールができない「痛み」は相当なものだった。

バスケ一筋の人生を送ってきた渡邊にとって、バスケをできない痛みは相当なものだったという[写真]=小林靖

「他の選手との競争でもあるし、自分との戦いでもある」

 渡邊は昨シーズン終盤にラプターズと本契約を結んだものの、今シーズンもロスター枠を争う立場でトレーニングキャンプを迎えた。キャンプ中、地元メディアの取材に応じた際には、「今は(ロスター入りを目指す)他の選手との競争でもあるけれど、自分との戦いでもある」と話した。昨シーズンラプターズでプレーし、評価された部分をしっかり保ちつつ、さらに成長した自分を見せなければならない。ロスターを狙う他の選手も最高の力を発揮しようと挑む中で、「だからこの選手は使える」、「こう使いたい」と思わせられるかどうかは自分次第だった。

 そのため、練習から気を抜くことなく、毎日が勝負。技術の向上だけでなく、日々の生活の改善もそうだ。シェフを雇って食事に気を使い、睡眠をしっかりと取り、リカバリーも行い、万全の体勢でキャンプに臨んだ。

 そして迎えたプレシーズンゲーム初戦のフィラデルフィア・セブンティシクサーズ戦では、約17分のプレーで10得点7リバウンド2アシスト2ブロック1スティールの活躍。「あの試合が自分の中で一番大事な試合になると思っていました。あそこでうまくいかなかった場合、『次でしっかり結果を残さなきゃいけない』と、どんどん自分にプレッシャーがかかっていって悪循環になってしまう可能性は十分にあったので」と話した渡邊。「正直、練習から手応えを感じていて、あの1試合目が終わった時点で、自分の成長もすごく感じることができたので、落ちることはないだろうと。調子に乗っているとかじゃなくて、チームに残れるという自分への自信がありました」。それほど手応えを感じた試合だった。

 左ふくらはぎを痛めたのは、その2日後だった。「変に影響しなければいいなとすごく心配だった」というが、それも杞憂に終わり、無事開幕ロスター入りを果たした。

 10月21日、渡邊にとって4年目のシーズンが開幕した。本契約で初めて迎えたシーズンだ。しかし左ふくらはぎはまだ回復しておらず、私服で試合を見守った。「自分のキャリアはいつも競争。これまでもずっとそうでした」。そう話していた渡邊が、たった1試合のプレーでロスター枠を勝ち取るほど信用を得る存在になったにも関わらず、直面した新たな戦いだった。

 文=山脇明子

渡邊はケガという新たな戦いに直面するも、開幕ロスター枠を勝ち取った[写真]=Getty Images

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