2021.12.09

ラプターズ・渡邊雄太、ケガから復帰までの道のり…米在住記者が密着(後編)

ラプターズでNBA4年目を戦う渡邊[写真]=Getty Images
ロサンゼルス在住ライター

 復帰が見送られたジャズ戦の翌日、サクラメント・キングス戦前、渡邊はまだ人影がまばらなコートへ早々に現れるとストレッチを始め、アシスタントコーチの指導の下さまざまな動きからのシュートを試みた。一つひとつの動きをクリアした渡邊は、その後はじめて接触のあるプレーを行った。コーチから言われたプレーを無難にこなすたび表情が緩み、「(2試合後の)グリズリーズ戦での復帰をターゲットにしています」目を輝かせて言うと、観客でアリーナが埋まる時間まで練習を続けた。

 次のゴールデンステイト・ウォリアーズ戦前の練習では、接触プレーがさらに強度を増し、勢いのあるダンクもやってのけた。「こうやってケガをするといつも思うのが、バスケットができる環境というのは当たり前じゃなくて、幸せなことだということ」。その気持ちを噛み締めるように、復帰への段階を楽しんでいた。
 
 ターゲットのメンフィス・グリズリーズ戦を前にした2日間は初めて5対5に参加。これまでの接触プレーは自分から当たりに行くもので、当たられるプレーでどう感じるかがカギだった。痛みはまだあったが、「当たられても踏ん張れるだけの強さは戻ってきていると思いました」と渡邊。グリズリーズとの試合を夜に控え「90パーセントの確率で出られるかな」とやや控えめだったが、本人の中では復帰を確信していることは一目瞭然だった。

 渡邊はその前夜、グリズリーズのホームアリーナ、フェデックスフォーラムの正面にあるホテルから撮った同アリーナの写真をインスタグラムに投稿した。自らがNBAキャリアを始めたアリーナは夜も電灯がついたまま輝いていた。アリーナ内右側には、かつて誰よりも早く、誰よりも遅くまでシュートを打ち続けた思い出深い練習用コートも窓越しに見ることができた。「いろいろな意見を周りから聞くけれど、僕自身はグリズリーズでの2年間はとても大切でした。あの2年間ですごくいろいろな準備ができたと思いますし、自分自身も成長できた。ここは自分にとって意味のある特別な場所。それはこの後もずっと続くと思います」。

渡邊はグリズリーズの2年間で、NBAで戦うにあたっての下地を作り上げた[写真]=Getty Images

「毎年今年が一番大事という気持ちでプレーした結果、4年目まで来られた」

 思い入れのある場所、チームだからこそ、この試合での復帰は特別なことだった。そして渡邊は古巣で4年目のシーズンデビュー。約14分の出場で、3得点3リバウンド2ブロック2スティール。チームに得点の機会を与えるプレーが光った。第4クォーター序盤にはダンクを狙ったディロン・ブルックスに豪快なブロック。空中での勢いあるぶつかり合いに両選手とも床に叩きつけられる形で倒れたが、そのあとすぐに2年間チームメートだったブルックスに駆け寄り、背中に手をあてて声をかけていた。

復帰初戦のグリズリーズ戦では元チームメート、ブルックスとのマッチアップも見られた[写真]=Getty Images


 渡邊は、「グリズリーズ戦後に少し痛みが出ていたので大事をとって」次戦に欠場したが、その後もローテーション選手として高い信頼を得ていることが明らかで、堂々としたプレーを続けている。本契約選手でナースHCの下2年目を迎えるのだから、それも当たり前のことかも知れない。しかし渡邊は「ローテーションに入っていようが入ってなかろうが、常に自分が試合に出た時に何をしなければいけないのかというのを見ながら、当然チームを応援しながらベンチにいるので、気持ちの変化みたいなのは正直あまりないです」ときっぱりと言った。

 新シーズンを迎えるにあたって、両親からは「今年が一番大事だから」と言われた。「毎年シーズン前になると同じ話しをするんですけど」と苦笑いしつつ、「僕自身も本当にそう思っていて、毎年今年が一番大事だという気持ちでプレーしている結果、NBAも4年目というところまで来られています」と話した。初めて本契約で迎えたシーズンも「気分的にはあまり変わっていません」と淡々としていた。

 つまり、渡邊のバスケットへの姿勢は、ドラフト外から契約を求めてサマーリーグに挑んだ時も、2ウェイ契約として過ごしたグリズリーズ時代も、無保証の契約から始めた昨シーズンも、そして本契約で開幕した今シーズンも何も変わっていない。むしろ、学生の時から変わっていないのかも知れない。

 だからこそ、楽しみだ。変わらぬ渡邊のまま進化を続けていくことが。

文=山脇明子

渡邊はこれまでもこれからも、変わらぬ姿勢でバスケットに取り組んでいく[写真]=小林靖

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