2022.10.21
渡邊雄太がブルックリン・ネッツの開幕ロスター入りを果たした。プレシーズンゲームの4試合すべてに出場し、1試合平均14.9分の出場で5.8得点3リバウンド。全試合で3ポイントシュートを決めて、50パーセントの成功率(5/10)を記録した。
初戦のフィラデルフィア・セブンティシクサーズ戦では、約16分プレーしていきなり2ケタの10得点と4リバウンド。2試合目のマイアミ・ヒート戦では第1クオーターの途中から出番を得て、ケビン・デュラントやベン・シモンズらとコートに立った。
同試合は、2ブロックなど好ディフェンスを見せた反面、渡邊自身「課題がいろいろ残った試合だった」と述べたように、トロント・ラプターズで1シーズンをともにし、プレーの特徴もよくわかっていたカイル・ラウリーからうまくファウルを取られてしまったり、フリースローを2本連続でミス、2ターンオーバーも犯してしまった。
しかしミルウォーキー・バックスとの3試合目は、2試合目と変わらず第1クォーターから出番を得て2本連続3ポイントシュートを成功。ヤニス・アデトクンボがキックアウトしようとしたパスをスティールし、ケビン・デュラントの3ポイントシュートのアシストにつなげた。
最終戦となったミネソタ・ティンバーウルブズ戦は、第2クォーター終盤にスターター4人と出場。第3クォーター序盤にファウルアウトとなったベン・シモンズと交代し、またもスターター4人とプレー。デュラントからのアシストでオープンのコーナースリーを決めるなど、自らの仕事をきっちりこなして終えた。
スティーブ・ナッシュヘッドコーチは、渡邊をスターターとともにプレーさせたことについて「雄太を信じている。だから彼を起用した」と説明。 そして、渡邊はプレシーズン終了後、「完全にやり切った。これでカットされても悔いは全くないですし、残ったらこれからまた戦いは続くので、今まで通りぶれずに自分がやらなければいけないことに集中してやっていきたい」と満足感を漂わせた。
元々は、あまり気の進まないトレーニングキャンプ参加だった。
2シーズン前にラプターズのトレーニングキャンプでロスター枠を争った時は、グリズリーズでの2年間、NBAという舞台で本来の実力を見せる機会がほとんどなかったこともあり、そういった立場も納得できた。しかし今回は、ラプターズで2シーズン自らに何が出来るかを証明した後だった。
「今回に関しては、僕のこともある程度分かってくれている状態で、とりあえずキャンプ(契約)でということだったので。なんていうんですかね。『出来る、出来ないをまた短期間で見せなきゃいけないのか』というのも…」。
アメリカで練習をしていた6月に右足首を痛め、日本代表としてアジアカップに出場した7月に再び同箇所を痛めたことで、オフ期間中満足に練習が出来なかったことも気がかりだった。「6月と7月の終わりから8月の終わりぐらいまでの約2カ月ケガで、この夏の練習が足りていないと思っていたので、自信がなかった」。
今シーズンが5年目とはいえ、ロスター枠の争いという状況が楽になることはなく、最初の時と比べても「正直、どちらもしんどいです。知ってもらっているからやりやすいみたいなのはない」。短期間で試され、自らがチームに残れるかどうかが決まるというのは、常にプレッシャーがつきまとい、相当神経をすり減らす日々なのだ。
「(アジアカップの時)代表でエースという立場で楽しい時間を過ごせて、またこのはい上がりからやり直すというのに自分の中で理由をつけて避けようとしていたのもあったのかなと、今思い返すとあります」と渡邊。そんな時、暁子夫人から「今までやってきた挑戦をこれでやめていいの?」と言われ、目が覚めた。「僕もまだ27、あ、明日28になるんですけど(笑)、まだ28歳なので、今やめちゃうのは本当にもったいないので」と笑みがこぼれた。
挑戦を決意した渡邊に、神様がご褒美をくれたかのようにネッツでの日々は新たな発見と刺激の連続だった。そしてこの期間にステップアップし、見事ロスター枠を勝ち取った。ただこういう立場も3度目とあって、ここからの苦労もすでにわかっている。
「(ロスター入りを決めたら)そこからが本番なので。(ロスター枠を争う立場として)僕は絶対にここ(プレシーズン)にピークをもってこなきゃならないので、これからもずっとピークを継続していくというのは大変なものがあるんですけど、それも含めて自分がこの世界にいるために必要なことなので」。
「ケガ人が全員戻ってきたら、僕は絶対にローテーションから外れるので。それは自信がないとかではなくて、今はセス(カリー)とTJ(ウォーレン)とジョー(ハリス)が出ていない状況で、さすがに彼らを差し置いて僕が出るということはないと思います。でも長いシーズンなのでケガ人は絶対に出ますし、その中で自分に求められている仕事をやっていくというのは必要になってきます」。
渡邊は「開幕ロスター入りが決まったからと言って、そこでフル契約になるわけではない」と言い、そのためネッツでプレーオフに出場する姿などはまだ想像することができないという。だが、そのプロセスも選手として成長させるだけだ。
葛藤を乗り越え、再びNBAに戻ってきた。今シーズンも、一秒たりとも無駄にしないプレーでチームに新風を巻き起こす姿に期待したい。
文=山脇明子
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