2025.09.23

琉球・SR渋谷がNBL挑戦…活発化するBリーグ・NBL交流の舞台裏

近年関係性を深めるNBLとBリーグについてレポート [写真]=長嶺真輝
スポーツライター

 9月18日に発表された最新の男子FIBAランキングは6位。世界の強豪国の一角であるオーストラリアに、Bリーグ琉球ゴールデンキングスサンロッカーズ渋谷が遠征を実施した。両クラブにとって、オーストラリアの地で戦うのは初の事例となる。

 近年、BリーグとオーストラリアのトップリーグであるNBLの交流は急速に拡大している。選手派遣、パートナーシップ締結、そして今回の遠征と、両リーグの関係は深化の一途をたどる。なぜこれほどまでに日豪バスケ界の結びつきが強まっているのか。両クラブの遠征取材を通じ、それぞれが抱く狙いと、この交流が持つ意味を探った。

 参加したのは、9月12〜14日にオーストラリア南西の都市パースで開かれた国際大会「Perth Wildcats International Series」。主催したのは、NBLで最多10回の優勝を誇るパース・ワイルドキャッツ(1979年設立)。同じくNBLサウスイースト・メルボルン・フェニックスと、Bリーグの琉球、SR渋谷の計4クラブが参加し、異なるリーグのチーム同士で2試合ずつを行った。

オーストラリア第4の都市、パースに琉球とSR渋谷が遠征 [写真]=長嶺真輝

 BリーグNBLのチームを巡っては、千葉ジェッツが昨年、シドニー・キングスとパートナーシップに関する覚書を締結した。リーグ同士もパートナーシップを締結している。今年6月には両リーグの選抜チームがオープンハウスアリーナ太田で開かれた「B.LEAGUE GLOBAL INVITATIONAL 2025」で対戦し、5〜8月にはいずれもU22枠選手であるSR渋谷の大森康瑛と琉球の佐取龍之介NBLの下部リーグ、および育成リーグに派遣したことも記憶に新しい。

 なぜ、ここまで交流が活発化しているのか。琉球とSR渋谷によるオーストラリア遠征の取材を通し、その理由と意義を探った。

◾️Bリーグの2チームを招いた理由

 昨年の8〜9月に来日した際、名古屋ダイヤモンドドルフィンズ千葉ジェッツ横浜ビー・コルセアーズとほぼ非公開で対戦し、初めて日本のチームと試合をしたワイルドキャッツ。今年は一転して琉球とSR渋谷を地元に招き、チケットを販売して有観客で大会を開催した。しかも、今回はNBLの2025-26シーズンの開幕を1週間後に控えた大事な時期での興業だった。

 ワイルドキャッツのダニー・ミルズGMが、琉球の安永淳一GM、SR渋谷の松岡亮太GMと長い付き合いがあることも理由の一つというが、そもそも、Bリーグクラブとの関係構築に前向きな理由は何なのか。ミルズGMに聞くと、以下のように答えた。

Bリーグはアジア地域で最も優れたリーグであり、ここ5、6年の中では、おそらくBリーグが世界で最も成長しているリーグだと思います。彼らと関係を築き、私たちのチームを国際的に成長させていくことは非常に楽しみです」

 10チームで構成されるNBLは、シドニーやメルボルン、ブリスベンなど、大都市圏が集中するオーストラリア大陸の東海岸地域に拠点を置くチームがほとんど。関係者によると、人口230万人を超えるパースをホームタウンとし、NBLの中で唯一、西海岸に本拠地を構えるワイルドキャッツは独自で海外クラブと交流する動きを強めているという。

 ミルズGMは「来年はまた日本に戻れることを願っています」とも言った。成長が著しいBリーグクラブとの交流を通し、新たなビジネスチャンスの創出やパースの知名度向上に寄与したい考えなのだろう。また、「私たちはアジアの強豪チームと対戦したいですし、Bリーグのチームも同じことを望んでいると思います」と話したように、競技力、ビジネスの両面で世界有数のリーグの一つに数えられるNBLとの交流は、Bリーグのチームにとってもメリットは多いはずだ。

もともと琉球、SR渋谷とも海外志向が強く、パースの狙いにマッチしたとも言える [写真]=長嶺真輝

 ユースチームの育成理念として「渋谷から世界で活躍する選手を育てる」を掲げるSR渋谷の神田康範社長は「グローバルな企業になることを目指している中、選手、スタッフが海外経験を蓄積する意義は大きいです。NBLは選手の力やマーケット規模についても参考にできる部分があります。日本との時差も1時間ほどなので、今後も交流を続けていきたいです」と見通した。

 こちらはクラブとして「沖縄を世界へ」というビジョンを掲げ、海外挑戦を通して沖縄の知名度向上を目指す琉球の安永GMも「強い相手を求めていろいろな国に行くことが沖縄に対する貢献にもつながると思っています。対戦するタイミングも重要です。今回はNBLの開幕が近かったこともあり、相手も本気で戦ってくれました」と話し、選手たちにとって得難い経験ができたと見る。

◾️NBL選手からも注目…リクルートの狙いも?

 Bリーグに対する注目度の高さは、NBL選手のコメントからもうかがえた。

 オーストラリアが3連覇を果たした今夏の「FIBAアジアカップ2025」で代表チームに選出されたフェニックスのオーウェン・フォックスウェルは「日本バスケは国際舞台での競争力がどんどん高まっています。アジアカップでは対戦こそできませんでしたが、本当に上達が見て取れます」とコメント。印象に残った選手に琉球の岸本隆一を挙げ、「世界中の才能ある選手と対戦できる機会は少ないので、とてもいい経験になりました」と笑みを浮かべた。

 同じくオーストラリア代表だったワイルドキャッツのベン・ヘンシャルも、SR渋谷、琉球との2試合を終えた後に「彼らはオーストラリアまで遠い道のりにも関わらず、素晴らしい戦いをしてくれました。Bリーグには多くの敬意を払っています」と語った。過去に3、4回ほど来日経験があるという。「Bリーグは本当に盛り上がっていて、ハイレベルな外国人選手も増えてますよね」と続け、関心の目を向けているようだった。

代表でもあるフォックスウェル(左)とヘンシャル(右)もBリーグに興味を示す [写真]=長嶺真輝

 直近3シーズンでBリーグのレギュラーシーズンベスト5に入ったD.J・ニュービル宇都宮ブレックス)、ヴィック・ロー(琉球)、クリストファー・スミス広島ドラゴンフライズ)、ペリン・ビュフォードはいずれもNBLを経験しており、ローは今大会の主催者であるワイルドキャッツが古巣だ。Bリーグの外国籍選手はサラリーも年々高騰しているとされ、NBLの選手間でもBリーグが話題に上がっていても不思議ではない。

 Bリーグの島田慎二チェアマンはNBLとの交流について「以前は(韓国の)KBLとの交流が主流でしたが、昨今はNBLなど世界の強豪国のリーグともこういった話が増えてきました。それはBリーグのレベルが1段階上がったことを意味していると思います」と評価する。その上で、「各クラブには、中長期的にリクルート面などでも優位性を発揮していこうという考えがあると思います」と推察した。

 同じようなレベルの選手に目を付けている感もあるBリーグNBLのチーム。現地での交流が、力のある選手の獲得につながる可能性は十分にあるだろう。

◾️「高さと強さ」だけではないオーストラリアからの学び

 ワイルドキャッツは昨シーズン3位、フェニックスは同4位の強豪だ。加えて開幕を1週間後に控えていたこともあり、チームの完成度に差があった感は否めないが、今大会の試合結果は琉球、SR渋谷とも2連敗だった。

 いずれも190〜200センチ台の選手が大半を占め、高さ、強さ、速さを備えるオーストラリアらしい選手たちが揃っていた。ただ、代表チームも同様だが、個人の能力に依存し過ぎず、高い統率力で戦うのが彼らの特徴の一つとも言える。岸本が口にした印象が分かりやすい。

NBLのチームは、みんなが走りながら出口を探している感じでした。1人が突破を仕掛けたときに、それに連動して2人目がギャップを作り、3人目がもっと大きなギャップを作る。ドライブやアウトサイドからの攻撃をリズム良くやっていました。立ち止まって考えるのではなく、それを動きながらやるのは難しいです。そういうバスケットができたら幅が広がるので、いろんなものを吸収できた遠征でした」

 つまり、各選手の状況判断のスピードが速く、かつ、その質が高いということだ。この部分は、相対的に身体能力が劣る日本人選手でも参考になるポイントだろう。また、NBL2チームの中で、ひときわ目を引く選手の一人だったフェニックスのガード、フォックスウェルとマッチアップしたSR渋谷のジャン・ローレンス・ハーパージュニアはこう振り返った。

「彼は本当にうまかったです。自分と年齢が近いと思いますが、とても落ち着いていて、よく周りを見ながらプレーしていました。その点は自分も学ぶべきだと感じました。日本代表でもさまざまな経験をさせてもらっていますが、オーストラリアのようなレベルの高いチームと試合ができるのは本当に貴重です。しっかり自分の成長につなげたいと思います」

日本代表の未来を担うハーパージュニア(左)や脇真大も刺激を受けたはず [写真]=長嶺真輝

 SR渋谷には、ハーパージュニアと共に今夏のアジアカップに出場した狩野富成も所属し、琉球にも代表入りに意欲を見せる佐土原遼脇真大らがいる。若手の彼らが世界基準の経験をより多く積めることは、所属チームのみにとどまらず、代表チームのレベルの底上げにもつながるはずだ。

 各国のリーグとの交流が活発化する昨今。その中でも、FIBAアジアの管轄内で強烈な存在感を放つオーストラリアのNBLは、今後もBリーグにとって重要なパートナーであり続けるに違いない。

文・取材・写真=長嶺真輝

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