2026.10.29
大塚製薬主催の「コンディショニングセミナー」が市立船橋高校で行われ、男子バスケットボール部が受講した。講師は、国内外で豊富な指導実績を持つストレングス&コンディショニング(S&C)コーチの第一人者であり、Bリーグの複数クラブでディレクター・オブ・スポーツサイエンス&パフォーマンスを務めてきた吉田修久氏。選手たちが座学と実技を通じて、日々のトレーニングやコンディショニングについて学んだ様子をレポートする。
※ストレングス&コンディショニング:筋力や運動能力を高める「ストレングス」と、日常生活やトレーニング後の回復を含めて心身を整える「コンディショニング」を組み合わせ、パフォーマンス向上とケガのリスク低減を図るアプローチ

セミナーはコンディショニングを中心とする座学からスタート [写真]=須田康暉
座学の冒頭、吉田氏は「高校生活の3年間、特に1年生はこれからの1年でどうやって体をつくるかは非常に大切。土台となる体があってこそ、スキルの伸びが違います」と強調。高校生年代は、思春期の中期から後期にあたる選手も多く、特に男子では、テストステロンなどのホルモンの変化に伴って、筋肉量や筋力が発達しやすい時期にある。成長の時期や程度には個人差はあるが、適切なトレーニングと休養、栄養を組み合わせて取り組むことが大切だ。
ここで吉田氏が強く訴えたのは、選手自身が「なぜこれを行うのか」という目的や、体がつくられる科学的なメカニズムを主体的に理解することの大切さだ。トレーニング、休養、栄養の一つひとつが「体にどう作用するのか」を正しく理解し実践することで、日々の練習や回復のクオリティはより高いものとなる。このメカニズムの理解の有無こそが、毎日のパフォーマンスを左右する大きなカギとなる。
続いて、コンディショニングの根幹である「負荷と回復」のメカニズムが解説された。トレーニングで体に適切な負荷をかけた後、休養や栄養によって十分に回復する。この積み重ねが、長期的な筋力や体力の向上につながっていく。この「負荷・回復・適応」の流れついては、一般に「超回復」という考え方を用いて説明されることもある。しかし、回復が追いつかないうちに次の負荷をかけ続けると、パフォーマンスが低下する「負の適応」に陥ってしまう。吉田氏は「回復もトレーニングの一部。しっかり休み、回復のための方法を日常のなかで実践することが重要です」と呼びかけ、メカニズムを理解して適切に休み、規則正しい生活習慣を送ることが大切であると伝えた。

コンディショニングを理解することがパフォーマンスの向上につながる [写真]=須田康暉
さらに講義は、バスケットボールにおける「フィジカル」の必要性へと深められた。国際レベルのエリートと平均的なプレーヤーを比較した研究データによると、決定的な差があったのは「筋力」だった。バスケットボールは、ジャンプ、ダッシュ、ストップ、方向転換を激しく繰り返す、爆発的なパワーが求められるスポーツである。物理学の公式「F(力)=M(質量)×A(加速度)」が示すとおり、筋力が向上すれば、より高く跳び、より速く動き、より素早く止まることが可能になり、プレーのクオリティ向上に直結する。
また、同じ筋力でも力を一瞬で立ち上げる「RFD(力の立ち上がり率)」が重要となる。トップ選手はこの立ち上がりが圧倒的に速く、一歩の移動距離やパススピード、プレーのクオリティが大きく変化する。筋力を高めれば、同じ動作を少ない努力値エネルギーで行えるため、疲労を減らし、最後までクオリティの高いプレーを維持しやすくなる。
効率的なトレーニングのための「4つの原則」(過負荷、可逆性、特異性、バリエーション)にも言及された。少しずつ負荷を上げ、目的に合った方法を長期的に継続することが大切であり、最低でも2~3カ月は継続して取り組む必要がある。

トレーニング中の水分補給は欠かせない[写真]=須田康暉
体をつくり、日々の練習効果をさらに高めるために、メカニズムを正しく理解し、日常生活のなかで習慣化すべきなのが「睡眠と栄養(食事・水分)」の管理である。
吉田氏は、トレーニングによる疲労から適切に回復するための重要な要素として「睡眠」と「栄養」を挙げた。特に栄養については、質・量・タイミングのすべてが重要だと説明。まずは朝食を含む毎日の食事で、活動量に見合ったエネルギーや栄養をとることが基本となる。そのうえで、練習までの時間や食べやすさに応じて、おにぎりやパン、カロリーメイトなどの補食を活用し、練習に向けて必要なエネルギーや栄養を補うことも紹介された。
また、水分補給についても科学的なアプローチが紹介された。体重の2%前後に相当する水分を失うと、運動環境や競技内容によっては、パフォーマンスが低下する可能性がある。そのため、運動中はのどが渇く前から、こまめに水分を補うことが大切だ。特に暑い環境で長時間運動するときや、汗を多くかくときには、水分とともに失われる電解質を補うことも重要になる。こうした場面では、ポカリスエットのようにナトリウムなどの電解質や糖質を含む飲料を活用する方法も紹介された。メカニズムを理解していれば、こまめな水分補給がパフォーマンス維持に役立つ理由をより深く理解できるはずだ。
高強度の動作を繰り返すための体力づくりについては、ウエイトトレーニングで10回3セットなどの「ハイボリューム」を行い、高い強度の運動を繰り返すための能力を養っていくと説明。さらに、時期に応じて重量を上げて回数を減らすフェーズに移行し、高強度のインターバルトレーニングを行うことで、試合で高強度の動作を繰り返す力につなげていくと解説した。


正しい姿勢を作ることで、効率的な体の使い方が身につく [写真]=須田康暉
体育館での実技では、まずスクワットを通して、自分の姿勢や左右のバランス、関節の動きを確認した。続いてヒップリフトなどを行い、片脚でも骨盤を安定させながら自分の体をコントロールする感覚を確認。最後は、その基本動作をジャンプへとつなげていった。
続いて、上半身と下半身の連動に焦点が当てられ、パスを放つ際も手先だけに頼らず、下半身から生み出した力を上半身へと連動させて伝える技術が指導された。こうした体の連動が、パススピードや一歩目の加速の向上につながる。吉田氏は、競技レベルが上がるほど、姿勢や股関節の使い方といった一見小さな部分にも高い精度が求められると説明。選手たちに、普段の練習から一つひとつの動きを丁寧に積み重ねることの大切さを伝えた。

コートで教わったことを実践 [写真]=須田康暉
セミナーを受講した市立船橋高校の選手たちにも、座学や実技についての感想を聞いた。
普段からウエイトトレーニングなどの強化に力を入れている市立船橋高校だからこそ、正しいフォームへの意識も一層深まった。「専属のコーチからも『正しいフォームや姿勢で行うのと、間違ったフォームでするのとでは、効果や影響が全然違う』と言われていましたが、今回改めて、正しいフォームを意識して取り組むことが大切だと感じました」と選手は語った。
実技レッスンでの指導についても、「最初にやったスクワットでは、自分たちのしゃがみ方が浅い位置で止まっていたのですが、今回やってみて深くしゃがめるようになり、すぐに効果を実感できました。短い時間で手軽にできるので、日頃の練習前や試合前にも適していると思います。今後の練習や試合に活かしていきたいです」と、さっそく変化を実感した様子をのぞかせた。
さらに、コンディショニングにおいて休養が重要であるという教えを受け、「睡眠は本当に大事なので、しっかり意識して過ごしたいです」と日常生活の改善にも目を向け、「世界レベルのコーチに教えてもらい、本当に学びになりました。一番成長できるこの高校の2~3年間、今日教わったことをしっかりと活かして、自分たちが全国の舞台に行けるように頑張りたいです」と、これからの挑戦に向けた目標を語った。
最後に、吉田氏は「日常的な動作の一つひとつのクオリティを高め、なぜやるのかという目的意識を持って、高い強度とスピードで練習に取り組むことこそが可能性を最大化する」と選手たちに温かいエールを送り、セミナーを締めくくった。
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