2021.03.30

引退セレモニーから見えた“Mr.シーホース”桜木ジェイアールの偉大なる功績

ウィングアリーナ刈谷に駆けつけたファンにお別れをした桜木ジェイアール [写真]=シーホース三河
ライター・カメラマン

「very very impressed.(とても印象深いものになりました)」

 ファンのお見送りを終えて記者会見場に現れたこの日の主役は、かみ締めるように言葉を発した。

 3月28日、ホームアリーナであるウィングアリーナ刈谷で開催された「CONVERSE Presents 桜木ジェイアール 引退セレモニー ~Thank you! J~」は、多くの人から愛された桜木の人柄がにじみ出たアットホームで温かなものだった。

 桜木はセレモニーを振り返り、雨や風が強い春の嵐の中で会場に駆けつけたファン・ブースター、そして開催に尽力した関係者へ感謝の言葉を口にした。

「自分のキャリアの節目として、今日のような場が本当に必要でした。私はこれまでファンの皆様のためにプレーしてきました。そしてそれが私のモチベーションでもありました。だから現役最後の試合が無観客でしたので、少し虚しい気持ちがしておりました。

 今日のようにファンの方とこのような形で直接お会いできて本当に良かったです。ただ実を言うと、それほど驚きはありませんでした。なぜならシーホース三河という組織はホスピタリティという点においてナンバー1だからです」

三河一筋、常勝軍団の黄金期をけん引

「このような形で直接お会いできて本当に良かったです」と感謝の言葉を述べた桜木 [写真]=シーホース三河


 2019-20シーズンをもって引退した桜木は、2001年に来日してからの19年間のすべてをシーホース三河に捧げた。キャリア通算10991得点2708アシスト6011リバウンドをマーク。2011年から13年は3年連続でMVPに輝き、6度のトップリーグ優勝、天皇杯2度の4連覇など三河に数々の栄光をもたらした。07年には日本国籍を取得し、NBA経験者では初の日本代表入り。三河にとどまらず、日本バスケット界の発展に貢献してきた。会場内には、これまで桜木が獲得してきた優勝カップやトロフィー、盾がずらりと並べられ、桜木のキャリアの輝かしさを物語っていた。

「Our legendary hero, JR Sakuragi」。現役時代と同じように、ホームコートMCの小林拓一郎さんの呼び込みを合図にライトグレーのスーツに身を包んだ桜木が登場。約1000人の観客の温かい拍手に迎えられ、会場全体を見渡して手を振りながらゆっくりとコート中央へと歩みを進めた。

「自分の名前が呼ばれて、以前と同じように迎えていただけたことは本当にうれしかったです。懐かしいみなさんの顔を見ることができて、本当に幸せでした。みなさんが笑顔でいてくれる、幸せそうでいてくれる姿を見て、うれしいという感情以上に、心に沁みる気持ちでした」

 桜木のこれまでの歴史を振り返るトークショーでは、鈴木貴美一ヘッドコーチと、レジェンドゲストとして、かつて桜木とともに三河の黄金時代を築いた外山英明さん、佐古賢一さん、佐藤信長さんが加わり、初めて会った時の印象や今だから話せることについて話した。佐藤さんは「シュート対決に負けて、JRにいつもミスドのハニーディップを取られていた」というエピソードを披露し、会場は笑いに包まれた。

キャリアを通して育んだ友情

2001年に来日してからの19年間、三河一筋にプレー。セレモニーにはかつてのチームメートも参加 [写真]=シーホース三河

 後藤正規さん、小宮邦夫さん、朝山正悟古川孝敏高島一貴さん、比江島慎竹内公輔喜多川修平ギャビン・エドワーズ森川正明狩俣昌也橋本竜馬。元チームメートたちもビデオメッセージで“シーホースのお父さん”をねぎらった。それは、バスケットボール以上に大切にしてきた「友情」の歴史でもあった。

 桜木は神妙な表情で一つ一つの言葉にうなづき、時折比江島の「長生きしてください」、エドワーズの「おじさんJR」というコメントや、森川が暴露した“鈴木HCトイレ水かけ事件”に表情を崩しながら、メッセージに見入っていた。
「これまで私はバスケットを離れたとしても良い友だちでいてくれるような方と関係を築いていきたいと考えていました。かつてのチームメイトが私に対して色々なコメントをくださる映像を見て、ここで私の目的は一つ達成されたなという気がしました」

HCとしてチームを優勝に導くことが夢

ファンを大事にするジェイアールらしく、最後の一人までファンを見送った [写真]=シーホース三河


 現役復帰の可能性は「1年も経っているので0パーセントです」と断言し、「今後の夢は明確です。選手だった時に目指してきたのと同じように、ヘッドコーチとしてチームを優勝に導くことです。今後も(選手時代と)同じような成果を出していきたいと思っています」と力強く語った。

 現在、コーチライセンスの取得を目指しているとう桜木。ファンから将来的に三河のHCになって欲しいという声があるとの問いかけには「ファンの方が私をコーチとして雇ってくださるんだったら可能性はあるでしょうけど、どうですかね?」といたずらっぽく笑った。

 これからも指導者としての新たなキャリア、そして友情を築き続けていくであろう“三河レジェンドヒーロー”が、再びコーチとして“ホーム”に戻ってくることを心待ちにしよう。

文=山田智子

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