2024.07.10

GMとは何か?そのために現役時代から意識する重要なこと。バスケットボール青野和人さんのセカンドキャリア<後編>

[写真]=須田康暉
バスケットボールキングプロデューサー(事業責任者)

 昨夏のFIBAバスケットボールワールドカップ 2023、映画『スラムダンク』の大ヒットなど、大いに盛り上がるバスケットボール界。Bリーグでも越谷アルファーズが、埼玉県初となるB1チームへ昇格するなど、地域を巻き込みその勢いは増すばかりだ。この越谷アルファーズのゼネラルマネージャー(GM)青野和人さんも元々バスケットボール選手として活躍した後に、現在のキャリアを歩んでいる。本記事前半では、青野さんがどのようなアスリート人生を送ったのかを語ってもらったが、後半では、現役からコーチを経てたどり着いたGMというポジションについて、そして今の仕事を支える心構えとして、現役時代から意識すべきことについてお話を聞いた。

取材=村上成
撮影=須田康暉

憧れだけど意外に知らない?GMって何をする人なのか?

――世間一般でGMって何する人なの?ということは意外に知られてないかと思いますので、今のお仕事の内容をちょっとお聞きしたいなと思います。競技やクラブによって職域や責任範囲は違うと思いますが、今、青野さんが就任されている越谷アルファーズのGMとはどういうお仕事なんでしょうか?
青野
  シンプルに言うと2つメインの仕事があります。それは情報収集と交渉です。その前に、まず、GMとしての私の仕事のスタンスなんですが、ヘッドコーチがチームを運営していく中で、私から見て、たとえ「こうした方が良いのにな」、「この先進んじゃうと、崖なのになって」と分かっていても、一緒に落ちてあげるようなスタンスでいます。コーチの望む選手を獲得しないと、それもチーム戦績の言い訳になっちゃうかもしれないですし、コーチのことを信頼してないって思われるのも良くありません。

[写真]=須田康暉


――クラブ全体の、特に競技面でのプロデューサーという感じなのでしょうか?
青野  アメリカのGMは、クラブの実質トップにいて、ヘッドコーチよりも偉いポジションで、全てをこの人が全て決める!もちろん報酬も1番もらう!みたいなポジションです。しかし日本では、立ち位置としても、社長やヘッドコーチ、スタッフがたくさんいる中で、どちらかというとコーチやスタッフを下支えするポジションと言えばわかりやすいかもしれません。

――それはチームの方針、方向性、どのようなチームを作りたい、バスケットボールの志向性などのビジョンはヘッドコーチが示し、それを成し遂げるための材料や、素材となるべき人材をGMが中心となって集めるという理解であっていますか?
青野  近いと思います。やはりGMとしてもヘッドコーチに惚れ込んだ方が仕事もお互いにやりやすいですし、安斎コーチとは一緒に選手もやっていたので、彼のキャリアが成功することは私の喜びでもあります。GM・青野の人生がより豊かになるためにというよりは、周りに頑張ってもらってクラブの成績が上がり、コーチの評価が上がることで、後に感謝されるようならば嬉しいかな・・・。という順番になっていますね。権限を持ったマネージャー的な振る舞いのイメージがありますね。

メインの仕事以外に何かに取り組むことが大事

――青野さんは 現役からコーチを経て、現在はGMとして、今でもバスケットボール界でご活躍をされてますが、もしセカンドキャリアで今とは違う環境に身を置くにしても、現役の時からこの先の将来を考えた時に、必要なんじゃないかなとか、こういうことは意識しておいた方が良いよと思うことはありますか?
青野  はい。自分のメインの仕事以外に、もう1つ何かに取り組んで、後々自分のために返ってくるようなことを、ちょっとでも良いので積み重ねてくといいのかなと思います。自分はそれがたまたま英語でした。アメリカには自己紹介もできないままで行きましたけれど、向こうに行って公園でバスケットやっていたら友達ができて、どんどん英会話も教えてもらって、書くよりも聞く方がどんどんうまくなっていきました。それが帰国後、外国籍選手ともコミュニケーションが取れる。コーチへの道へと進むきっかけとなったデビット・ベンワー(元ユタジャズ他)コーチからお誘いも受ける。自分がヘッドコーチの時には通訳を使わずに外国籍選手とのコミュニケーション取れる。とその時には思いもしなかった強みが自分の中に構築されていることに驚きます。
留学するまでは全く気がつきませんでしたが、日本人特有の生真面目さが故かもしれませんが、例えばバスケットボールをやっていて、英語の勉強をする時間が1週間でたった3時間を充てたとしても「この時間をバスケに充てないとは、バスケに対して失礼じゃないか」みたいな・・・。メインの仕事をおろそかにしているような感覚になって、本業とは違うことへエネルギーを注ぐことができない人が、とても多いと思います。
でも、それを自分の許容範囲の中で処理しておいて、別の何かに取り組んでおくと、それがコツコツと積み重なっていくと大きな力になって返ってくる。極論それが選手の時に自分のハイライト動画を作るのが趣味でやっていたとしても、動画編集に抵抗がなくなっていくと思います。SNSの上げ方が上手になっていくことも含めて、自分の趣味の中から、ちょっと脱線でも良いですし、趣味と密着していても良いのですが、 何か競技と別のことにエネルギー注ぎ、そしてそれを続けていくと、後々、思わぬ大きな力になって返ってくると思うんです。

――なるほど。ストイックに競技に向き合うことも大事だけれども、もう一つ熱中することがあると、後にそれが身を助けることもあるということですね。ところで、アルファーズのGMという立場で言えば、B1制覇を目指す!ということだと思いますが、さらにその先で考えているご自身のキャリアはどのようなものでしょうか?

[写真]=須田康暉


青野  そうですね。越谷市を中心にバスケットボールの熱に埼玉県全体を巻き込むことです。私はGMをやりながらもスクール事業部の責任者もやっています。例えば、駅を歩いていてバスケットボール持った大きな選手のポスターがあって、「これなんだろう?」から始まって、興味を持ってくれてバスケットボールに対して1歩目を踏み出した子どもたちが、更にスクールで楽しみを得て、そのままユースチームに進む。ユースチームもどんどん駆け上がって、終わった頃にはプロのステージが待っているみたいな・・・。好きで始めたことが職業になるという手助けができる環境作り。これはどのステージも欠けることができない重要なパーツだと思います。今はまだ色々な課題はあるんですけど、それを少しずつ解決していき、越谷でバスケットボールを始め、越谷生え抜きの出身選手を排出していきたいです!

コントロールできることに集中を!

――最後に、自身のキャリアに悩んでいるアスリートの皆さんにエールをお願いします。
青野  自分に対してかけられるエネルギーというのは、自分ではわかってるとは思うので、そこには不安を感じずに、それよりも周りの人たちに、しっかりとエネルギーを注ぐことができるような人間になって欲しいなと思います。あと、ゆくゆくはぶちあたる壁に対してですけれど、コントロールできることだけに集中して、コントロールできないことに自分の気持ちを持ってかれないように。というところですね。

――“コントロールできること”というと、具体的にはどういうことでしょうか?
青野  まずコントロールできないことですが、自然災害はもちろんですが、業界環境やチーム事情、企業の経営状態など社会人として生きていく中で、自身ではコントロールできないにも関わらず、自身に大きな影響を与える事象という者は沢山ありますよね。先ほどの話と繋がってくるのですが、そういった問題は避けることができませんが、そういった困難に直面したときには、矢印を自分自身に向けながら、自分のことを自分でコントロールして、コントロールできないところは、目を背けるのではなく、気を配りながら自身がコントロールできないことを理解した上で気を付けて進む。そうすると自身がコントロールできることの範囲も広がりますし、コントロールできることに集中して臨むことができます。自身ではコントロールできない事象に思い悩んでも良い結果を得ることはできません。
あと、最後に付け加えるとしたら、今起きている自分の不安や苦しみは、 それらを味わってない人よりも必ず強みになります。自分も試合に出られない人の気持ちもわかりますし、トライアウトで受からない人の気持ちもわかりますし、蹴落とされた人の気持ちもわかります。逆に上に上にと上がった時の恐怖も理解できます。今、そういう苦しい、嫌だなと思ったことは必ず自分の糧になると思います。また、そのときに思い込みであったこと、例えば、自分だけが孤立していくような感覚になってしまうとか、すごい憎たらしいって思っていた人が実はそうじゃなかったとかも含めて、様々な経験を経ることで視点が変わってくると思うんです。大変なことも多いと思いますが、辛く苦しいときこそ、その経験が未来の自分を作ってくれると信じてポジティブに物事を捉えて欲しいと思います。

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