2024.08.08

「1カ月前はBチーム」福岡第一の山口銀之丞…巡ってきたチャンス生かし日本一へ

準々決勝は約15分プレーした福岡第一の山口銀之丞[写真]=佐々木啓次
フリーライター

 8月7日、照葉積水ハウスアリーナで「令和6年度全国高等学校総合体育大会バスケットボール競技大会(インターハイ)」の男子準々決勝が行われ、福岡第一高校(福岡県)と藤枝明誠高校(静岡県)がベスト4最後の椅子をかけて激突。45分間に及ぶ戦いは76-73で決着がつき、最終盤はアリーナに押し寄せた観客の大声援、手拍子が福岡第一の背中を押し、藤枝明誠には覆い被さるような雰囲気に包まれた。

「最後はやっぱり福岡だからかな」。激闘を終え、疲れきった井手口孝コーチがそう安堵すれば、原田裕作アシスタントコーチも「福岡じゃなかったら勝てなかったです」と頬をゆるませた。

「試合に出ている選手だけじゃなくて、ベンチのメンバーも応援席も、会場の皆さんも一丸となって戦えたことがこの勝利につながったと思います」

 そう振り返ったのは、ポイントガードの山口銀之丞(2年)。山口はこの日、崎濱秀寿と2ガードを組んで試合を組み立て、第2クォーターに宮本耀が負傷により一時ベンチへ下がった際には宮本聡(いずれも2年)とコンビを組んでプレーした。

地元の大声援を受けてプレーした山口銀之丞[写真]=佐々木啓次


 実は山口、大会直前のエントリー変更により12名のメンバー入りを果たした選手だ。ロスターには宮本聡と耀、崎濱がいて、キャプテンの八田滉仁(3年)もガードとしてプレーできる。指揮官はそれにも関わらず司令塔を増やし、先発を担う双子の聡と耀、ベンチから出場する崎濱と山口、というペアを固定して起用する戦い方を選んだ。

 藤枝明誠戦で宮本聡と2ガードを組んだのは「練習中もやっていなかったので、本当に急遽でした」と山口は明かしたが、「でも、先生からは『今日はそうなる可能性もあるからな』と言われていました」と続けた。大会直前に山口をエントリーメンバーに加えた理由について、井手口コーチは次のように語る。

「やっぱりガードを安定させたかった。トシ(崎濱)1人ですと相手ディフェンスに圧力かけられた時に辛くなってしまいます。でも、そこにギン(銀之丞)がいれば安心感が出るんですよ。2人は中学から一緒にプレーしていますから」

 崎濱と山口は、中学3年次にライジングゼファー福岡U15のメンバーとして出場した「Jr.ウインターカップ2022-23」で頂点に立った優勝ガードコンビだ。しかし、福岡第一へ入学後は、崎濱と“宮本ツインズ”が先に信頼を勝ち取り、山口がAチームの試合に出場する機会はそれほど多くはなかった。山口は諦めることなく、日々の練習に全力で取り組んだ。

Bチームから這い上がり全国の舞台に立つ山口銀之丞[写真]=佐々木啓次


「練習から声でチームを引っ張ることを意識して、それをこの1年間ずっと継続してやってきました。原田先生も『お前ならやれる』とずっと声をかけ続けてくれまし、自分の中ではその言葉があったからこそ諦めずに個人練習も頑張ることができました」

「インターハイの1カ月前まではBチームでした」というポイントガードは、「この大会はチャンスだと思っていますし、しっかり結果を残そうと思って大会に臨んでいます」と力を込める。無論、“結果”とは日本一獲得に貢献することだ。

 井手口コーチは「ジュニアウインターカップで優勝していますし、そういう選手はやっぱり何か“持っている”と思っています」と、地元での全国制覇を手繰り寄せる存在としても期待を寄せている。

 山口の強みは、チームをまとめるリーダーシップと相手に食らいつくディフェンス力。東山高校(京都府)との準決勝でも「ディフェンス力と声を出してチームを鼓舞することは自分の仕事なので、そこは自信を持ってやっていきたいと思います」と、自身の役目を全うする。

取材・文=小沼克年