2019.10.14
9月9日、泣いても笑っても、日本代表(FIBAランキング48位)にとっては「FIBAバスケットボールワールドカップ2019」の最終戦――。4連敗の苦境で迎えた17-32位順位決定ラウンドのモンテネグロ代表(同28位)戦に、渡邊雄太(メンフィス・グリズリーズ)は様々なものを背負ってコートに立っていた。
チームのキャプテンを担ってきた篠山竜青(川崎ブレイブサンダース)が5日のアメリカ代表(同1位)戦で左足の指を骨折し、コート内のリーダーとして負担が増えた。八村塁(ワシントン・ウィザーズ)も6日にチームを離れたことで、エースの責任も果たさなければいけなくなった。
渡邊は言う。
「塁と竜青さんが抜けたのは、精神的にきている。自分はまだ若いほうですし、竜青さんみたいに声を張り上げて引っ張るようなキャラでもない。自分なりにプレーで態度を示そうと思って(17-32位順位決定ラウンド初戦の)ニュージーランド代表(同38位)戦に入ったんですけれど、何もできずに終わってしまっていた」
ニュージーランド戦の渡邊は9得点で試合を終えた。30点差の敗戦という結果を見てもキャプテン、エースとしての責任を果たしたとは言いがたい一戦だった。
大敗後の彼は険しい表情でこう述べていた。
「自分自身もこんな試合になるとは思っていなかった。向こうの方が勝ちに対してハングリーだったのかなと思います。正直このままでは日本に帰れない。応援してくださっている方々もたくさんいて、代表合宿を一緒にやって落ちたメンバーもいる。選ばれた12人としてふさわしくない、絶対やってはいけない試合だった」
中1日のモンテネグロ戦は、日本人2人目のNBAプレーヤーが重大な決意を持って臨んだ試合だった。
「このままでは後悔だけが残ると思って、今日は自分の持てるすべてを出しきろう、とにかく背中で日本を引っ張っていこうと思いながらプレーしました。ニュージーランド戦が終わったあとに、自分自身は代表のユニフォームを着る資格がないプレーをしたと感じました。あの試合のあとは自分自身に対しても怒りがすごかったです。チームとしても代表としてもふさわしくないプレーをやってしまっていた。(富樫)勇樹(千葉ジェッツ)や竜青さんがケガで出られない中で、ああいうプレーをしていたら申し訳ない。今日は自分の持てる力をすべて出しきることに専念しました」
渡邊は有言実行、獅子奮迅だった。チームの初得点を決めると、フリースロー、2ポイントシュートと得点を量産。前半は20分のフル出場で21得点6リバウンドを記録していた。第3クォーター残り6分6秒にはダンクを叩き込み、この時点で試合は45-45のタイ。文字どおり「背中で引っ張る」働きだった。
第3クォーター残り5分54秒には指先の出血で一度コートから退き、第4クォーター残り25秒でベンチに下がったが、最終的なプレータイムは37分2秒。彼は34得点9リバウンドという群を抜いたスタッツを残して試合を終えている。相手から受けた8つのファウルは彼がそれだけ「仕掛けて」いたことを示しているし、12本のフリースローをすべて決めたことも精神的な安定の証明だろう。
しかしチームは第3クォーター、第4クォーターとモンテネグロに引き離され、65-80のスコアで苦杯を喫した。日本は5連敗で大会を終えることになった。
トルコ代表(同17位)、チェコ代表(同24位)、アメリカ、ニュージーランド、モンテネグロの5カ国が強敵だったことは間違いない。ただし渡邊は大会の途中から「自分」という敵と戦っていた。それが彼を縛り、プレーをスポイルしていた。
彼はこう説明する。
「予選ラウンドを絶対突破しなければいけないと、自分自身にプレッシャーをかけていました。チェコに負けたあと、プレッシャーにやられて、自分を見失って自分を出せない状態になっていた。今回は初めて、バスケ人生でプレッシャーに負けていた。ただ今後もそういう状態がもしかしたらあるかもしれない。NBAでプレーするとなっても、プレッシャーは絶対ある。そのプレッシャーにどう打ち勝っていくのか、この代表期間をとおして学べた」
日本代表の試合は年明けにも組まれる予定だが、NBAやGリーグでプレーする限り、代表への復帰は来年の夏になる。渡邊にとってはチームの勝利を追いつつ「自分」にフォーカスして、取り組む10カ月になる。青年は取材の最後にこう述べていた。
「一人ひとり、悔しい思いをして今回は日本に帰ると思う。チーム全体で悔しさを忘れずに、まず個人のレベルアップがオリンピックに向けて必要です」
「1次ラウンドを突破する」という大志も、「ヨーロッパ勢からワールドカップ初勝利を挙げる」という最低限の目標もチームは果たせなかった。24歳の新キャプテンにとっては収穫の何倍も後悔を感じた大会だったに違いない。しかし己は自分の弱さを知り、最終戦で意地を見せた。チームを背中で引っ張るにふさわしいプレーを見せ、結果を残した。きっと今後のバスケ人生、東京2020オリンピックにつながる大切なステップとなることだろう。
文=大島和人
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