2023.09.01

W杯2勝目と最終戦への思いを語った渡邊雄太「パリを決めて、死ぬまで代表活動を続けたい」

大会前には退路を断つ覚悟を示していた渡邊雄太[写真]=伊藤大允
中学や高校、大学などの学生バスケットをはじめ、トップリーグや日本代表と様々なカテゴリーをカバー。現場の“熱”を伝えるべく活動中。

■ マコも河村も雄大もジョシュも「これがチームの力」

 積極果敢にシュートを放つ姿は、仲間に対してのメッセージのようにも感じた。

 8月31日に行われた「FIBAバスケットボールワールドカップ2023」の17-32位決定ラウンド、ベネズエラと対戦した日本は、相手のうまさの前に前半を終えて5点のビハインドとなる。

 その状況で迎えた後半、開始約2分半の間に3ポイントシュート2本を沈めたのが渡邊雄太(フェニックス・サンズ)だ。その姿は、冒頭にも挙げたように、チームメートへの鼓舞、ギアを上げていくぞといような意図的なアピールにも見えたのだ。

「ペースが遅かったというか、明らかに相手が疲れているのに、向こうのペースに合わせてしまっていたので、ペースを上げたいなということは思っていました。個人的にはもう少し(シュートの)確率も上げたかったですが、勝ったので、次の試合も勝ちたいと思います」と、渡邊はそのときのことを振り返った。

 渡邊は、ベネズエラ戦では38分の出場。3ポイントシュート3本を含む21得点8リバウンドを挙げて日本のオフェンスをけん引。それだけでなく、相手のビッグマンに対するディフェンスでも圧倒し、大事なところでのブロックショットと、さすがのプレーを披露した。

「もうマコ(比江島慎)のおかげです。もちろんチームの勝利ですけど、最年長が最後に引っ張ってくれました」

 試合後、ミックスゾーンに現れて、このように第一声を発した渡邊は、「(試合終了の)ブザーが鳴ったときに1点でも勝ってればいい。欲張らずに一本ずつ返していこうということを伝えていました。重要なところで、みんながしっかり足を動かした。河村(勇輝)がプレッシャーをかけてくれて、そこで相手のリズムが崩れましたし、オフェンスではマコが一生懸命点取りに行ってくれた。(馬場)雄大も体を痛めてる中であれだけやってくれて、ジョシュ(ホーキンソン)も疲れていたと思うんですけど最後まで体を張ってくれた。富樫勇樹は今日のプレータイムは短かったけれど、ベンチからずっと声を出してくれたので、これがチームの力だと思います」と、仲間の健闘を口にした。

■ 大会前には“代表引退”示唆もパリ切符目前

ベネズエラ戦では試合中に歓声を煽る場面もあった渡邊雄太[写真]=伊藤大允


 1次ラウンドの結果から2次ラウンド進出はならず、順位決定戦に回った日本だが、アジア1位に与えられるパリオリンピックの出場権争いは続いている。この日も日本戦の前に中国が大会初勝利を飾っており、アジアのチームの結果は気になるところ。だが、1次ラウンドで、アジアの中で唯一1勝を挙げていた日本はこの順位決定戦の2試合を勝利すれば、文句なしでパリ行きが決まる。

 その初戦となるベネズエラ戦に勝ち、安堵の表情を見せた渡邊は、「日本代表は今の12人だけではなく、(選手)選考を争って、最後に残念ながら落ちてしまった選手もたくさんいます。それに日本代表がしんどい時期も支えてくれてた人たちがいたおかげで、今こうやって注目を浴びながらやらせてもらっているので、どんどんと歴史はつながっていると思います。今までの歴史の中で1秒も無駄な時間なんてなかったと思いますし、僕たちがパリ(行き)を決めることが何よりも今まで頑張ってくれた人たちへの恩返しだと思います」と、熱い思いを語った。

 大会前、渡邊は「今大会で(日本を)パリオリンピックに連れて行くことができなければ代表のユニフォームを脱ぐ」と宣言し、強い覚悟を持ってワールドカップに臨んでいた。そんな渡邊がベネズエラ戦後、今の日本代表について問われると、このようなコメントを残した。

「今日は37~38分相手のペースで、なかなか自分たちのバスケットを出せずに、みんなイライラした状態が続いていました。ただ、最後にみんなが一つの勝利に向かって足を動かして体を張ってやれたので、本当にこのチームが誇らしいです。まだまだこのユニフォーム着て、ずっとこのチームで一緒にプレーしたいので、次の試合に絶対勝って、パリを決めて、死ぬまで代表活動を続けたいです」

 大会直前に足首を捻挫。万全のコンディションではないが、それでも自らのプレーで戦う“姿勢”を体現する渡邊。そんな日本の頼もしいリーダーは、「フィンランド戦でも、ドイツやオーストラリアに負けた試合でも、どれだけ点数を離されても、会場のみなさんが誰もあきらめていない。そのおかげで勝てたと思います」と、感謝の思いも幾度となく語った。

「次の試合(2日のカーボベルデ戦)は、世界ランクでいったら、はじめて自分たちの方が上になると思うのですが、試合を見ていたらとても強い。自分たちが格下だと思って、そういう気持ちで40分間戦います」

 あと一つ。「やり切りたいと思います」という渡邊は、アジアのライバルたちの動向を気にすることなく、勝ってパリ行きの切符をつかむことだけを考えている。

取材・文=田島早苗

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