2023.09.07

河村勇輝の進化は止まらない…「僕のバスケ人生の中で節目になった2週間だった」

バスケットボールキング編集部

世界のトッププレーヤーたちと初めてマッチアップ

 初めて出場したFIBAワールドカップ2023河村勇輝横浜ビー・コルセアーズ)は確実に進化を遂げた。

 河村は全5試合に出場、うち1次ラウンドのオーストラリア戦、17−32位決定リーグのベネズエラ戦、カーボベルデ戦には先発出場を果たした。スタッツを見ると、平均23.8分の出場で13.6得点2.0リバウンド7.6アシストを記録。フィールドゴール成功率は42.9パーセント、3ポイント成功率は33.3パーセント、フリースロー成功率は78.6パーセントをマークした。試合別で振り返ると、最多得点はフィンランド戦で4本の3ポイントを含む25得点をゲット。また、ベネズエラ戦で19得点11アシストのダブルダブルを達成した。

 一瞬にトップスピードに到達してディフェンスを切り裂くドライブ。勝負どころでリングを射抜いた3ポイントシュート。数字には現れないが、相手のスタミナを削ったプレッシャーの高いディフェンス。これらを武器に河村は日本の司令塔して、チームの勝利、そしてパリオリンピック出場権獲得に大いに貢献した。

 それでも初戦のドイツ戦は河村にとっても苦いデビュー戦だったのかもしれない。河村は第1クォーター残り4分55秒、富樫勇樹千葉ジェッツ)に替わりコートに立ったが、らしくないパスミスや精度の低いシュートもあり、鮮烈デビューと表現するには程遠いものだった。

「この第1戦はチームとしても個人としても悔しい思いをしましたが、ヘッドダウンすることなく、明後日すぐ試合があるので、いい準備したいと思います」

 ドイツ戦の反省を踏まえ、2試合目のフィンランド戦で早くも本領を発揮する。この試合もベンチスタートだったが、積極的に1対1を仕掛ける河村のプレーが見て取れた。ドイツ戦では「打たされていたかもしれない」と語ったシュートも本来の出来を取り戻し、25得点をゲット。3試合目のオーストラリア戦では徹底マークにあい、この大会で最少の3得点で試合を終えたが、ベネズエラ、カーボベルデとの2試合ではともに2ケタ得点をマーク。2試合連続で同じ間違いをしないのも、今大会の河村の特徴だったと言えるだろう。

ディフェンスを切り裂くドライブで注目を集めた [写真]=伊藤大允


 22歳とチーム最年少に関わらず、試合の結果に一喜一憂しないのも河村だった。パリオリンピック出場を決めたカーボベルデ戦後は、誰もが喜びを爆発させる中、河村は相変わらず冷静に試合を振り返る。

「チームとしてうれしい勝利でしたけど、フィンランド戦もこのカーボベルデ戦も個人としてはうまくいったこととうまくいかなかったことがあるんで、個人としてはまだまだいろんなことやらないといけないなるのかなと。でも、これも日々成長だと思うし、ワールドカップ5試合経験できたことっていうのは、本当にこれからの人生にキャリアにおいて大切なものだったんじゃないかなと思うんで、そのチャンスを与えてくださった皆さんに感謝です」

 もちろん曇った表情でメディア対応しているわけではないのだが、喜びよりも前に反省の気持ちが大きかったようだ。このように河村は試合後のメディア対応の際、ほぼほぼ最初に口にするのが反省の弁だ。試合直後のビデオを見返していない状況の中、客観的に自分のプレーを振り返り、できなかった点、悪かった点を言葉に出して丁寧に分析する。

 この繰り返しが河村の成長を促していると言えるだろう。

印象に残るマッチアップはドイツのシュルーダー

 今大会ではNBAプレーヤーをはじめ、多くの海外選手とマッチアップを経験した。河村は「なかなかできる経験ではないですよね。世界トップレベルの選手たちとやりあえたというか、対峙していろんなことを感じられました」と振り返る。

 その中で一番印象に残っているのがドイツのデニス・シュルーダー(トロント・ラプターズ)だったという。

「別格だったと思っています。コースを止めたと思っても、いつの間に抜かれている感覚がありました。これはこれまでプレーしてきた中でなかった経験ですね。ビデオで確認しましたが、『絶対止めた』と思ったコースに入っていても抜かれてたりしていので。本当のトップレベルのポイントカードって凄まじいなって改めて思いましたトップのレベルの差っていうのは感じました」

 これを話す河村の表情は打ちのめされて凹んでいるのではなく、何か新しい目標を見つけてワクワクしている少年の顔だった。

 だったらシュルーダーから何を学べばいいんだろう、自分のために何が必要なのか、何を吸収すればいいのか。それを実際に体験できたからこそわかることがある。この話をしたとき、河村の目の輝きはさらに増したように見えた。

河村がまっさきに名前を挙げたのがシュルーダー(左)だった [写真]=Getty Images


 日本を熱狂させた福岡第一高校時代、将来の目標を聞くと、「Bリーグの選手になって、日本代表に選ばれるように成長したいです」と常々口にしていた河村。いつしかそれに「日本で開催されるワールドカップに出場したい」が加わり、「パリオリンピックに出場したい」に変わっていった。また、「日本代表として世界相手に勝つポイントガードの1人でありたい」とも語っていた時期もある。

 河村はこれらをこの大会で達成してしまったわけだ。

「どんどん成長できる大会が終わってしまうのは寂しいですが、どんな場所でも成長できると思うし、僕自身、ケガもありましたから、体作りのところではまだまだとも言えます。自分の全盛期がいつかなのかとか決めたくないですけど、あと2、3年後にはもっともっと強くて、もっともっとスマートな選手になれるのはなりたいと思ってます。それに向けて1年1年、本当に積み重ねていきたいなと思います」

 その先には世界への挑戦が待っている。

「ビーコルとの契約継続の会見でも話しましたけど、海外に行ってプレーしたいという気持ちは強いし、タイミングだったりをしっかり見極めたいと思います」

 さらに言葉が続く。

「何よりこれからのキャリアにおいて、すごく大事な節目な大会になったと思っています。世界の本当のトップレベルとの差というものを感じた試合もあったし、逆にやれる部分もたくさんあったと思うし。そのために自分が今何をしないといけないのかっていうのが分かった大会でもあったと思うので。これからのバスケットボールキャリアにおいて、自分が成長するには何をしなければいけないのかがわかっただけでも、僕の人生においてすごく大事な2週間になったと思います」

 河村勇輝の進化は止まらない。

深く頭を垂れてコート飲するのが河村のルーティンだ [写真]=伊藤大允


文=入江美紀雄

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