2025.08.30
マイケル・ジョーダンは今、”コート”で戦っている。しかし、それは我々が慣れ親しんだ両端にリングが配置されたコートではなく、法廷である。
バスケットボールの神様は、共同オーナーを務める「23XIレーシング」とフロント・ロウ・モータースポーツとともに、米ストックカーレース「NASCAR」を独占禁止法違反で提訴している。ジョーダンは最近、ノースカロライナ州シャーロットの連邦地裁で証言台に立ち、「この訴訟は、NASCARの中で公平に扱われていないすべての人のためだ」と力強くコメントした。
Federal antitrust trial against NASCAR underway.
23XI Racing owned by Michael Jordan and Denny Hamlin is one of the plaintiffs in this case.
Denny Hamlin breaks down in tears as the first witness testifying at NASCAR antitrust trial | AP News pic.twitter.com/KEnUZQV1uh
— Estephany Escobar (@EstephanyNews) December 2, 2025
NASCARとは、全米各地のオーバルコースやロードコースを舞台に、市販車風の「ストックカー」で戦う全米屈指の人気レース。年間数十戦が行われ、観客動員やテレビ視聴数の面でアメリカ最大級のスポーツリーグのひとつと位置づけられており、映画『カーズ』のモデルにもなったことでも知られている。ジョーダンは、2020年にトップドライバーのデニー・ハムリンと共にチームを立ち上げ、NASCARに参戦。車体の生産はトヨタが請け負っており、これまでに通算勝利9勝をあげている。
現在、ジョーダンたちが問題視しているのは、この興行を支える「チャーター」と呼ばれるビジネスモデルだ。チャーターとは、カップ戦に毎週出走する権利のこと。発行数には制限があり、数年前に数百万ドルで取得できたこの権利は、今では1件につき4500万ドル(約69億8000万円)規模で取引されるまでに価値が膨れ上がっている。それにもかかわらず、チャーターはNBAのようなフランチャイズにはない“有効期限”があり、その更新条件はNASCAR側が一方的に決める構造となっている。
『The Guardian』は、この仕組みを「持ち家を購入したつもりが、大家に『数年ごとに更新しろ』と言われるようなもの」と例えた。実際、NASCARは2024年、15組のチームオーナーに対し、2025〜31年向けの112ページにもおよぶ新チャーター契約に6時間以内にサインするよう迫ったとされている。結果として13チームは署名したが、23XIとフロント・ロウの2チームだけが拒否し、両陣営は契約の代わりに訴訟へ踏み切ったという経緯である。
原告側の主張は「年間数千万〜数億ドル規模の投資を求められる一方で、その見返りとなる居場所や収益配分はNASCARの裁量次第で、資産としての安定性がない」というもの。ジョーダンはチームに少なくとも4000万ドル(約62億1000万円)を投じたとされるが、それでも「来季以降もグリッドに並べるかどうかを決めるのはNASCARだ」と苦言を呈しており、チーム側はチャーターがNBAのフランチャイズ権のように、恒久的かつ譲渡可能な資産として扱われるべきだと訴える。
一方、NASCAR側は独占禁止法違反を全面否定している。新チャーターはむしろチームへの分配金を増やす内容であり、オープンエントリーとして出走できる仕組みがある以上、反競争的ではないと主張。さらに、リック・ヘンドリックやロジャー・ペンスキーといった大物オーナーたちが現行モデルを支持していることも強調されている。
ジョーダンのパートナーであるハムリンは、現行のチャーター契約を「チームにとっての死亡証明書のようなもの」と表現。費用高騰と収益のミスマッチが続けば、多くのチームが持続不可能になると警鐘を鳴らした。また、ジョー・ギブス・レーシングの共同オーナー、ヘザー・ギブスも、新契約への署名を「何百人もの従業員の生活と故ジョー・ギブスのレガシーを守るために、頭に銃を突きつけられたような状況で押されたサインだった」と振り返っている。
この裁判が注目されている理由は、単なる金銭問題にとどまらない。陪審が原告側を支持すれば、チャーター制度の抜本的な見直しや、NASCARの一部売却命令といった構造改革が命じられる可能性があるのだ。一方で、NASCARが勝訴すれば、23XIやフロント・ロウは2026年以降の体制維持が難しくなり、未配分のチャーターが別の持ち主の手に渡るかもしれない。
バスケットボール界の象徴は、モータースポーツのビジネスモデルに異議を唱えている。2度のスリーピートを達成したMJは、こちらのコートでどのような結末を迎えるのだろうか。
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