1時間前

「居心地の良いところから抜け出す」…日本人5人目のWNBAプレーヤー山本麻衣の挑戦の原動力

デビュー2戦目で初得点も記録した山本麻衣 [写真]=Getty Images
ロサンゼルス在住ライター

■プレシーズンマッチで残した強烈な印象

 7月29日(現地時間28日)のラスベガス・エーシズ対ポートランド・ファイア戦。エーシズが16点リードした第4クォーター残り3分10秒に山本麻衣がコートに立った。「ジャージーも入れなきゃいけなかったし、マッチアップも確認しなきゃいけなかった。ボールもインバウンドしそうだったので、それに気を取られて、それ以外を考える余裕が(なかった)」と山本。

 日本人で5人目となったWNBAの舞台は、「ついにこの場に立った」などと実感することもなく、慌ただしいスタートとなった。

デビュー戦で放ったシュートはリングに弾かれた [写真]=Getty Images

 だが、「自分が出る時にすごい歓声だったのは聞こえていたので、すごくうれしかった。試合に出ていた選手たちがいいゲームを作ってくれて、自分のチャンスが生まれた。チームに感謝しています」と、しみじみと語った。

 山本がエーシズのホーム、ミケロブ・ウルトラ・アリーナのコートに立ったのは、この日が初めてではなかった。今年4月に女子日本代表のアメリカ合宿メンバーとして渡米し、エーシズのプレシーズンゲームの相手として対戦。その試合で山本は、約28分出場して3ポイントシュートを13本中7本決めるなどで24得点の活躍を見せた。

 昨年はダラス・ウィングスのトレーニングキャンプに参加し、開幕ロスター入りを目指していた山本にとって、このエーシズ戦と、その3日後にアリゾナ州フェニックスで行われたフェニックス・マーキュリー戦は、「アピールの場」だと捉えてのプレーだった。「国際大会は結構基準にはなるけれど、自分がいくら日本で活躍しても、やはりWNBA選手相手にどれだけプレーできるかが、このリーグの指標になる。もちろんチームの勝利が一番ですけど、そこは(アピールの場というのは)、自分のなかにもありました」と話す。

 そして山本の活躍を目の前にしたエーシズのベッキー・ハモンヘッドコーチは、「彼女のシュート力やリングに向かってドライブし、ペイントエリアに切り込んでからパスをさばく能力は素晴らしい。でも何よりも、その負けん気の強さやスピード、指示などの人間性が魅力で、本当に優れた、バスケットボールIQの高い選手。彼女のような選手が加わることは、私たちにとってうれしいこと」と、山本の入団を歓迎した。また日本との試合ではプレーしなかったが、WNBAのスーパースター、エイジャ・ウィルソンは「あの試合で何よりも印象的だったのは、彼女のエネルギーの高さ。自らのペースと活力でチームを力強く牽引できる面は、まさに私たちが必要としているもの。ロッカールームにいてくれるだけでプラスになるような選手というのは、間違いなく貴重な存在。これから彼女と一緒にやっていくのが待ちきれない」と新戦力とのプレーを心待ちにしていた。

 ハモンHCは、山本がはじめて全体練習に参加した練習後、「まずはチームになじんでもらい、プレーやセットオフェンス、指示、そして私たちのやり方を学んでもらう必要がある」と話し、「ベンチから出てきてチームに勢いをもたらす存在になってくれることを期待している」と、山本のエネルギーがチームの助けになることを想定している。エーシズは、昨シーズンを含め、過去4年で3度優勝している強豪。当然、今シーズンもプレーオフを勝ち抜いていくつもりで戦っており、そのためには選手の疲労やケガをものともしない十分な戦力が必要で、その“ピース”として、山本と残りシーズンの契約を交わした。ボールハンドリングを任せられる優れたガードも多く、スター選手がそろっているチームではあるが、山本自身も「他の選手とは違うクイックネスだったり、スピードというのは、やはり自分の武器でもあるので、チームが停滞した時に一つの突破口じゃないですけど、みんなとは違った形でペイントにアタックして、そこから崩していくというのができたらいい」と自信をのぞかせる。

■「居心地の良い場所から抜け出す」挑戦を選択

メディア対応する山本 [写真]=山脇明子

 日本にいれば、常に主力選手でいられる。だが、「人間って誰でも一つのところにいるとすごく居心地が良くなって、そこにずっといたい気持ちになると思うんですけど、自分の成長を考えたときに、そこから抜け出すこともすごく大事だと思う。そういう選択肢が二つあったときは、私はいつも自分の心地良くないほうを選んできた。そうやって挑戦することで自分の可能性がどんどん広がると思うので、今までもそういうところを大事にやってきてました」と山本。ウィングスでの最初の挑戦も「ウェーブはされましたけど、あのキャンプがあったから、今は最初から何もわからない状態じゃないというのはすごく大きい」と、堂々と話した。

 ウィングスで過ごしたトレーニングキャンプを終え、昨年の夏は「NBAの登竜門」サマーリーグに足を運び、夢の舞台を目指してしのぎを削る選手たちの姿を目の前にした。シカゴ・ブルズでプレーしていた同じポイントガードの河村勇輝の試合も会場で観戦。2歳年下だが、ともに男女それぞれの日本代表を率いる存在の河村について、「河村くんの活躍はすごく刺激になります。彼もあの身長でNBAでやっているので、彼のプレースタイルとか、大きい相手選手に小さい選手がどうやって戦えるのかというのを本当に学ばせてもらっています」と自らのチャレンジに重ねた。

 あれから1年。サマーリーグを観戦した同じラスベガスでエーシズのユニフォームを着て初めて、レギュラーシーズンの試合のベンチに座った。試合終盤に突然呼ばれ、スコアラーズテーブル前で待つこともなく、大歓声を浴びるなか、コートに入った。そして残り約30秒には、クロスオーバーで相手をかわしてドライブし、フィンガーロール・レイアップを試みた。「ジュエル・ロイド選手が自分にパスをくれているのをすごく感じていたので、自分のプレーをしようと思いました」。ボールはリングに当たって跳ねてしまったが、チームメイトの後押しが、山本らしい思い切ったプレーを引き出した。勝利で終えた試合終了直前には、ステファニー・タルボットが山本にパスし、山本にとって初のWNBA勝利の瞬間をボールとともに迎えさせた。

 山本のWNBA初得点は、2試合の不出場を経た8月4日の敵地でのアトランタ・ドリーム戦。19点差の残り18.3秒にトップの離れた位置から3ポイントシュートを成功させると、ロイドはじめエーシズのチームメイトがベンチ前で大喜びした。試合終了後には、ウィルソンが「麻衣!」と叫び、はじけるような笑顔で山本を祝福している姿が画面に映し出された。

 デビュー戦後、山本は「ベンチにいて、自分でも伝えられることがあります。試合に出ていなくても戦術面だったりチームのためになることがあれば、もっと声をかけていきたいとすごく思いましたし、ディフェンスのハイプレッシャーだったり、オフェンスでペイントアタックするという自分の武器でチームを助けられたらいいなと思う」と、エーシズの一員としての自らの役割について話した。

 ハモンHCは、「麻衣はよく見て学んでいる。頭が良くて本当に飲み込みが早い。練習でプレーに参加していないときでも、ただ見ているだけではなく、コミュニケーションを取ったり話をすることで、早く理解している」と感心したように話した。

「慌ただしく」WNBAデビューを果たした山本は、チームへの早期適応に急ピッチで取り組んでいる。目まぐるしく過ぎる日々のなかで、それがチームへの最大の貢献であり、自身の成長を加速させるカギとなるからだ。

文=山脇明子

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