2019.10.10

ラプターズのレポーターを15年務めるスミス氏が太鼓判「中心選手は変わっても強いチームのまま」

イバカ(右)へインタビューするスミス氏[写真]=伊藤 大允
NBA好きが高じて飲食業界から出版業界へ転職。その後バスケットボール雑誌の編集を経てフリーランスに。現在はNBAやBリーグのライターとして活動中。

10月上旬。「NBA Japan Games 2019 Presented by Rakuten」(以降、ジャパンゲームズ)で激突するヒューストン・ロケッツとトロント・ラプターズは、8日と10日に行われる試合の準備を進めていた。そこでバスケットボールキングは、7日に都内某所でラプターズのチーム練習が行われている中、チームに帯同し、ニック・ナースHC(ヘッドコーチ)や選手たちへマイクを向けてインタビューをしているエリック・スミス氏を直撃。ここでは、スミス氏のインタビューをお届けしていきたい。

インタビュー・文・構成:秋山裕之

「今回は『Sportsnet』のためにインタビューを行っています」

――いつ日本に入りましたか?
エリック・スミス(以降エリック)
 ラプターズのチームと一緒に、日曜日(6日)に到着しました。日本を訪れるのは今回初めてです。

――ようこそ日本へ!
エリック
 ありがとうございます。13時間のフライトで、さらに13時間の時差もあるので適応するのが大変です。

――選手とコーチ陣もご一緒に?
エリック
 はい。チーム専用のジェットで一緒に。彼らは機内の前の方のスリーピングポッドを使っていて、僕らは後ろのほうの普通の席でしたが快適でした。とにかく映画をいっぱい見て、なるべく起きているようにしていました。

9日のチーム練習前、シアカム(中央)の囲み取材でマイクを向けるスミス氏[写真]=伊藤 大允

――日本と東京について、どう思いますか?
エリック
 ここまではとにかくビューティフルの一言。昨日の夜遅くに到着したのですが、ちょっと街に出て食事をし、ビールを堪能しました。時差ボケであまりよく寝られなかったので、今朝…名前はなんだったかな…メイジ…(秋山:明治神宮!)そう、明治神宮に行ってきました。ホテルから歩いて行って、敷地内を通って神社に寄って、少し祈ってきました。その後はホテルに戻り、ここに直接来ました。特に言いたいのは(日本は)とても清潔で、人々も優しいことです。本当に、皆がすごく優しいんです。

――ありがとうございます。それでは、今回のジャパンゲームズはどのようなお仕事で来られたのですか? テレビレポーターや『NBA TV』などですか?
エリック
 今回は『NBA TVカナダ』と『Sportsnet』のために来ています。『Sportsnet』と『TSN』がカナダの2大スポーツチャンネルなんです。

――『TSN』のツイッターは見ています。気になったニュースがあれば翻訳して、NBAの記事を作成しています。
エリック
 これで『Sportsnet』も見てもらえるようになりましたね!

――はい、もちろんです!
エリック
 今回は『Sportsnet』のためにインタビューを行っています。実は『Sportsnet』で、ジャパンゲームズを2試合とも放送します。トロントにいるブロードキャスター2人がテレビ映像に合わせて実況します。そして私は現地でハーフタイムや試合後のインタビューを行い、ライブ分析などをトロントに生中継します。

優勝パレードは「トロント史上最大のスポーツイベントかもしれません」

――昨シーズン、トロント・ラプターズはついに初優勝を成し遂げましたが、レポーターとしてどのように感じましたか?
エリック
 実は15年以上もラプターズのブロードキャスト(テレビ放送)をやっていまして、ラジオの実況もしていますので、優勝した時はオークランド(カリフォルニア州/ファイナルの相手ゴールデンステイト・ウォリアーズの本拠地)でラジオのライブ実況をしていました。本当に、勝った瞬間はすばらしかったです。

 以前から、ラプターズはトロントでは非常に人気があり、カナダでもある程度は人気がありましたが、昨シーズン、特に大きかったのは国中が熱狂し、人気が大爆発したことです。「トロントのチーム」を越えて、本当の意味で「カナダのチーム」になりました。優勝後のパーティーはトロント以外でも、カナダ全体で盛り上がりました。

 ハイライトなどで見たかもしれませんが、トロフィーを披露した優勝パレードには200万人以上が集まりました。これは(MLBのトロント・)ブルージェイズや(NHLのトロント・)メープルリーフスの優勝をしのぐ、トロント史上最大のスポーツイベントかもしれません。非常に大きな規模でした。普段はアイスホッケーの街として知られるトロントで、バスケットボールがここまで盛り上がるのは重要なことであり、本当にびっくりすることでした。
*MLBで最後の優勝は1993年、NHLにおける優勝は1967年

200万人以上がラプターズの初優勝を祝福した[写真]=Getty Images

――昨シーズンの中で、最も印象に残った出来事や思い出はどんなことでしたか?
エリック
 まずはプレーオフの第2ラウンド(カンファレンス・セミファイナル)で、フィラデルフィア・セブンティシクサーズと対戦した時の、カワイ(・レナード/現ロサンゼルス・クリッパーズ)のショットがリムの上を何度も跳ねていた瞬間ですね。あのショットが入っていなければ、ラプターズはシリーズを勝ち進めなかったかもしれません。

 それからカンファレンス・ファイナルでミルウォーキー(・バックス)と対戦して、2-0とゲーム差をつけられ、第3戦を2度のオーバータイムの末になんとか勝ちました。あと少しで3-0という差をつけられるところでした。もしそうなっていたら、ファイナルには進めなかったかもしれません。そしてファイナルにたどり着き、アウェーのオークランドで3戦すべてに勝利したこと。

 リムの上で跳ねるショット、カンファレンス・ファイナル第3戦、そしてファイナルでアウェーの3試合すべてに勝つチームの底力、この3つが印象に残っていますね。

――カンファレンス・セミファイナル第7戦は、アリーナにいましたか?
エリック
 はい、アリーナにいました。その試合はラジオではなくテレビの仕事で現場にいました。カワイのショットがここのコーナーからだとしたら、私はそこから10から15フィート(約3.0から4.6メートル)ほどの距離の位置にいまして、試合後のインタビューを行う準備をしていました。あのショットがポンポンと、バウンドしていた瞬間はそこから15フィート(約4.6メートル)の距離にいました。すばらしかったです。

――本当に最高な瞬間を見ることができましたね。
エリック
 (ショットが入るまで)ファンや皆が待っているだけで、本当にすごかったです。

レナード(中央)がねじ込んだシリーズ決着ブザービーターは、ラプターズ史上最高のショットになるかもしれない[写真]=Getty Images

「ラプターズは相手より得点だけでなく努力面でも圧倒する意識を持つチーム」

――ラプターズは今夏、カワイとダニー・グリーン(現ロサンゼルス・レイカーズ)を失いましたが、ロンデイ・ホリス・ジェファーソンやスタンリー・ジョンソンなどが加入しました。今シーズンのラプターズをどう見ていますか?
エリック
 依然としてディフェンス力は非常に高いと思いますし、得点することもできるチームです。多くの人が予想しているより、良いチームだと思います。(イースト)6位や8位などと予想されていますが、私は今でもイーストのトップ5、いや、トップ3のチームだと思います。

 カイル・ラウリーマルク・ガソルパスカル・シアカムノーマン・パウエル、フレッド・バンブリートやOG・アヌノビーがいますので、一緒にプレーしてきた選手たちだからこそ、このチームにはケミストリーがあります。新加入の選手もいますが、チームの中心選手は変わっていませんので強いチームのままです。

ラプターズの新エースとしてさらなる飛躍が期待されるシアカム[写真]=伊藤 大允

 イーストではミルウォーキーが多分今でも一番のチームかもしれませんが、すぐうしろにいるトロントはフィラデルフィア、ボストン(・セルティックス)やブルックリン(・ネッツ)と一緒でいい戦いができる位置にいます。また、ディフェンディング・チャンピオンとしての経験と立場がもたらす良い影響を過小評価してはなりません。

――今シーズンのオフェンスとディフェンス、それぞれのキープレーヤーは誰になると思いますか?
エリック
 まずはカワイがいない今、パスカル・シアカムが昨シーズンのように活躍できることを証明しなければなりません。カワイがチームにいると全体的にプレッシャーは少なくなりますが、今年はシアカムがチームのエースになれるかが大事です。オフェンス面では彼がキーマンです。

 ディフェンス面では、OG・アヌノビーの活躍が期待されます。OGは昨シーズンあまり活躍できず、さらに家族のことで個人的にも厳しい1年でしたが、今シーズンはカワイが抜けた穴を埋める可能性があるとラプターズは思っています。チームとしてはOGがディフェンス面で活躍することが期待されています。

ナースHCとスミス氏がディフェンス面で期待するアヌノビーがリバウンドをキャッチ[写真]=伊藤 大允

――実は先週、合同電話インタビューでニック・ナースHCにも同じ質問をしましたが、同じ答えでした。
エリック
 それは良かった!

――それでは最後に、ラプターズに関して日本のファンが注目するべきポイントを教えてください。
エリック
 とにかくハードワークが代名詞のチームです。このチームはカワイ・レナードを失いました。それは否定できません。しかし、複数回オールスターに選出されているラウリー、オールスターであり、最優秀守備選手賞を獲得した経験を持ち、世界チャンピオンでもあるガソル、そして次世代のスーパースター候補シアカムがいるので、このチームには良いポイントがもりだくさんです。

 ラプターズは毎試合ハードワークも辞さない、加減したりサボることのない、相手よりスコアだけでなく努力の面でも圧倒する意識を持つチーム。ニック・ナースから伝わってくる揺らぐことのない姿勢とメンタリティーがあります。もし質と団結力が高いバスケットボールを好むなら、ラプターズをお勧めします。

ラプターズを15年以上も間近で見てきたスミス氏(中央)と、チームを率いるナースHC(左)[写真]=伊藤 大允

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