2023.12.18
「まだルールがよくわかっていないんだけど、次の試合に勝てば、ラスベガスに行けるということ?」
11月20日(現地時間19日)のヒューストン・ロケッツ戦で活躍し、試合後に呼ばれた会見場で、八村塁はインシーズン・トーナメントのことを聞かれると、少し恥ずかしそうな笑顔でメディアに聞いた。
「次のユタ(・ジャズ)戦で勝ったら準々決勝をホームで戦い、それに勝てばラスベガスだ」と返答を得ると、「今3-0(3勝0敗)だし、是非行きたい!」と声を弾ませた。
「何をやっているのか、わからなかったんですけど…」。それが、八村のインシーズン・トーナメントのスタートだった。それは他の選手も同じ。「トーナメントをするらしい」「ラスベガスで試合をするらしい」「賞金が出るらしい」程度はわかっていたが、一体どういうシステムで行われるかまでは、把握していない選手がほとんどだった。
ただ、勝ち上がった4チームだけがプレーできる「ラスベガス」と「トーナメント」、そして「賞金」の3つの言葉は、大学時代“ファイナル4”という4強だけがプレーできる場を目指していたNBA選手を奮い立たせるのに十分で、レイカーズのアンソニー・デイビスは、「(グループプレーの初戦で)サンズを破ったあと、『(優勝賞金の)50万ドルに一歩近づいたぞ!』と言っている奴がいたよ。試合に勝って、そういう会話をするなんて今までになかったことだ」と笑みを浮かべ、高校から直接NBA入りしたレブロン・ジェームズは、「試合がより激しくなっているし、ファンからのエナジーもインシーズン・トーナメントでは違う。シーズン中に行われるトーナメントに僕等も賛同する。50万ドルがかかっている。獲得を目指す」と闘争心が湧く大会に士気を高めていた。
レイカーズのホーム、クリプトドットコム・アリーナで行われた準々決勝で、鼻を守るためのマスクをつけてコートに立った八村は、第1クォーター終盤にデイビスとともにデビン・ブッカーにダブルチームをかけてターンオーバーを誘うなど、守備でチームに求められたことを遂行し、攻撃では第2クォーター序盤にジェームズからのパスを受けて3ポイントを決め、レイカーズのリードを13点にした。このシュート後、サンズが即タイムアウトを取るなど、インパクトを与えた一発だった。八村にとっては13日ぶりの試合。鼻骨骨折の手術後、ほとんど練習が出来ていない中での出場ながら、約21分半プレーし、7得点、2リバウンド。レイカーズは接戦を制し、ラスベガスへの切符を手に入れた。
準決勝のペリカンズ戦でも約21分半プレーし、9本中5本のフィールドゴールを決めるなど12得点。レイカーズも最大44点差をつけて決勝進出。東を制したペイサーズとともに最後まで残った2チームとなった。
ラスベガスは八村にとって、ゴンザガ大時代、毎年カンファレンス・トーナメントが行われ、2度優勝した思い出の場所だ。インシーズン・トーナメントの会場になっていたT-モバイルアリーナにレイカーズファンがより多かったことから、「ラスベガスはどのチームにとってもニュートラルのはずだが…」と聞かれた八村は「違うんだ。大学のときもここに来たときはゴンザガ大のファンがたくさん来てくれていた。そしてレイカーズでももちろん多くのファンが来てくれていて、凄くエナジーをくれる。だからここはホームコートのようなものだ」と言い、「それにしても、たくさんのファンがいて最高の気分。今季から始まった新たな試みで、トーナメントだ。とてもいい。レギュラーシーズンとは思えない。プレーオフのような盛り上がりだね。こういうのは好きだ」と特別な経験を心から楽しんでいた。
試合終盤、コート上でジャンプして喜んでいた八村は、「勝つことが大事。こういう優勝というのは、モチベーションになる」と笑顔がはじけた。
八村にとっての優勝は、ゴンザガ大のエースとしてザイオン・ウィリアムソン(現ニューオーリンズ・ペリカンズ)、RJ・バレット(現ニューヨーク・ニックス)、そして現在チームメートのキャム・レディッシュを中心としたデューク大学にマウイ・インビテーショナル決勝で競り勝って以来で、「NBAに入るまで、ずっと勝ち続けてきたので、(NBAが導入した)初のトーナメントだけど、こうやって勝てることができて良かった。これが(NBAファイナルが行われる)6月にもつながると思うので、すごくいい経験だった」と久しぶりに王者になった満足感を噛み締めた。
それから6カ月あまり。インシーズン・トーナメントで自力とメンタルの強さを発揮したチームの一員としてチャンピオンに輝いた。
「勝つチームでやるということが、僕がずっと望んでいたこと。こうやって、いろんなことがあってトレードされて、プレーオフとかいろいろ経験してここまで来たので、こうやって勝てたことは、僕としてもうれしい」。
「よくわからなかった」インシーズン・トーナメントは、王者のメンタリティを持って常に取り組んでいた大学時代の自らを思い出させた。そして、ミッドシーズンに得た勲章を自信と誇りに代えて、次は“6月”を目指す。
取材・文=山脇明子
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