2020.03.28
“才色兼備”という言葉が彼には非常に似合う。世界屈指の名門大学でもあるコロンビア大学に進学し、日本人初のNCAAディビジョン1でのプレー経験を果たしたクラッチーシューターである”KJ”こと、松井啓十郎。今シーズンはプロ生活5チーム目、京都ハンナリーズという西地区の強豪への移籍を決断した。
11月3日、千葉ジェッツとの一戦では前日の劇的勝利の勢いを継続させたかったが、相手のインテンシティ高いプレーに押されて終始リードを作られ、チームとして連勝を飾ることはできなかった。「初戦取れたのは大きいと思うんですけど、やはりアウェイで2日連続取るというのは結構厳しいなという感じでした。出だしとかは悪くなかったですけど、2クォーターに得点が取れずにズルズルとなってしまい、相手を追いかける展開になって。3クォーターに一時は一ケタまで点差が縮まったんですけど、そこから勝ちきることができなかったですね」とこの日のゲームを冷静に振り返る松井。
彼自身もこの日は11得点を挙げたものの3ポイントシュートを全く打たせてもらえず、持ち味を発揮できた訳ではなかった。この現実に対しては、前向きに自分自身で解決しようとしている。
「外はフリーで打ちたいなというのはありますけど、そこは相手も純粋に抑えに来ます。逆に田口(成浩/千葉)とかも3ポイントとかを打ちたいと思うはずなので、自分も同じように打たせまいとディフェンスしながらマッチアップはしています。その中でもファウルが立てこんだ時とかは上手くフリースローで得点を重ねるという部分が今日はできたと思います。その部分を試合の前半とかでも入れていけば、相手はファウルもできないし、外のシュートも打たれたくないとなって、自分のオフェンスのオプションも増えるので継続していきたいですね」
これまではベンチからコートに立ち、流れを変える3ポイントが持ち味のシックスマン的なプレーヤーであったが、京都に移籍した今シーズンは開幕から全試合スタメン出場とコーチ陣の信頼を勝ち取った。昨シーズンの8.2分から32.7分と平均出場時間が大幅に増え、日本人でチーム最多。加えて得点やシュート成功率など他の部門でもプロ生活で一番いい成績を残している。現時点で現れている数字と移籍を決断した理由、彼の言葉を聞いて納得できた。
「要するにプレータイムが欲しいなというのがありました。自分もまだプレーできればしっかりと結果が残せる自信はあったので……。そういう意味では京都っていうチームが自分に一番フィットしやすいし、一番活かしてくれるんじゃないかなと感じて。その結果、今はこうやってたくさんプレータイムをもらってシーズン前半の方は凄くいい形でしたけど、マークがどんどん厳しくなっていくと3ポイントを打たせないと相手もガードしてきています。その次のアイディアや作戦を自分自身で立てないと、相手にずっとマークすれば打てないというレッテルが貼られます。そこは自分の中での次の改善点かなと思いますね」
彼はコーチからはもちろんのこと、エースからも非常に信頼を得ている現状だ。だからこそ、この出場時間をもらってコートに立ち続けている。チームを率いる浜口炎ヘッドコーチは最大限の評価を彼に対して口にした。
「チームメートにもコーチ陣にも信頼を勝ち取っている選手だと思います。入る前はプレータイムの少なさやディフェンス面の不安など聞きましたが、僕自身は心配していませんでした。チームルールをよく守りながらディフェンスをするプレーヤーなので、凄く賢さを感じています。3ポイントはもちろんですが、僕が彼の好きな所は毎シーズン50パーセント近くの成功率を残す2ポイントシュートです。ああいうプレーヤーは特にうちみたいに(ジュリアン)マブンガがボールハンドリングするチームには機能するんじゃないかと思います。少し長く使いすぎて疲れているというか失速している感じはあるので、上手くローテーションしていけば良くなっていくと感じています」
一方のエースであるマブンガも短い言葉であったが、「いい選手ですし、良いシューターであり、そしてそれ以上に凄くコミュニケーションを取ってくれるという事でチームとして凄くいいコネクションができていると感じています」とプレー面以外を含めて信頼を言葉に残した。
信頼を得て、コートに立ち続けている松井。彼も34歳とベテランとして、再度トップに立ちたい気持ちを素直に言葉にした。
「自分が出せる力を毎試合出して、それをチームの勝利の為に貢献していきたいのはもちろんです。そして、今まで学んできた事を色々な選手やコーチに伝えながら、チームのいい雰囲気を作っていければと思っています。もちろん勝負師である人であればトップを目指すことは当たり前ですし、自分もそうです。アーリーカップで優勝できて、次は天皇杯での戦い、そしてリーグでの西地区の地区優勝を狙いながらいい形で4月にチャンピオンシップに行ければ、優勝できるチャンスはどのチームにもあると思っています。そこで自分自身、一花咲かせたいです」
まだまだやれるという自信を持ちながら、試合に出られる喜びを感じて結果を残している松井。ベテランとしてチームをけん引しながら、もっともっと上手くなって最後は栄光を勝ち取る為に——。彼の新たな挑戦はまだまだ続く。
写真・文=鳴神富一
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