2025.10.03

「沖縄を世界へ」…琉球ゴールデンキングスのトップとユース同時海外遠征に見えるキングスの本気度【後編】

今回の遠征には岸本隆一も参加 [写真]=琉球ゴールデンキングス
バスケットボールコメンテーター

Bリーグ10周年の開幕を前に、琉球ゴールデンキングスはトップチームがオーストラリア、U18チームが香港への遠征を実施。同時に海外遠征を行った意図や背景について、トップチームの桶谷大ヘッドコーチ、そしてクラブ全体をけん引する安永淳一ジェネラルマネージャー(GM)にお話をうかがった。

インタビュー=井口基史

「キングスに来てほしい」

脇真大に指示を与える桶谷大HC [写真]=琉球ゴールデンキングス

――オーストラリアのパースで行われた「Perth Wildcats International Series」に参戦した経緯を教えてください。
桶谷 そもそもホストチームであるパース・ワイルドキャッツのダニー・ミルズGMから安永GMへ、「国際試合でキングスに来てほしい」とコンタクトがありました。その後、昨年の10月にEASL(東アジアスーパーリーグ)ファイナル4が行われたマカオへ、わざわざ口説きにも来てくれました。ミルズGMのチームががヴィック・ロー選手の古巣ということもあり色々と聞いていましたので、スムーズに決まりましたね。「沖縄を世界へ」というテーマを掲げてから、昨シーズンはイタリア遠征、今シーズンはオーストラリア遠征を行い、自分たちが世界と戦うためには何が足りないのか? 何が必要なのか? という気づきをシーズン前に得られたのはすごくありがたい機会でした。

――前回のヨーロッパ遠征が話題となっていたので、今回もイタリアを含めたヨーロッパへという判断もあったのでは?
安永 世界No.1がNBA、No.2がユーロリーグ、その次にレベルを上げ続けているのがオーストラリアNBL(ナショナル・バスケットボール・リーグ)という認識で、キングスは常に強いところと勝負して成長すべきという考えが、まずあります。そのうえで、2024年1月にBリーグとNBLのパートナーシップ締結が行われ、ユース選手の受け入れをNBLが申し出てくださいました。U22枠の佐取龍之介選手がその一環としてNBL下部組織にあたるNBL1 WESTのワーウィック・セネターズに合流できることなり、その受け入れサポートをしてくれたのも今回のホスト、パース・ワイルドキャッツという縁でした。

桶谷 ヨーロッパ遠征で得られるものが多かったのは言うまでもありません。ただ今回のオーストラリア遠征ではまた違う学びを得ました。まず外国籍選手のレベルでは、ヨーロッパはベテラン選手を好むのに対し、NBLは若くてこれから飛躍しそうな外国籍選手が多く在籍しています。今回の遠征の大きな収穫の一つが、オーストラリア籍選手のクオリティーの高さを日本人選手たちが体感できたことです。

「『サイズ、フィジカルの差』だけで済ませてはいけない」

桶谷 外国籍vs外国籍の場面では、正直キングスが上回るシーンもありました。しかし日本人選手vsオーストラリア籍選手の場面では、例えばペイントへの侵入や、スリーポイントの確率など、オーストラリア籍選手のレベルの高さを感じたはずです。海外チームとの対戦ではよく、「サイズ、フィジカルで負けた」と言ってしまいがちですが、そこで勝負を決められた感覚はありません。

ジャック・クーリーをはじめとする外国籍選手は互角なプレーを見せた [写真]=琉球ゴールデンキングス

 それ以上にオーストラリア籍選手のシュートの正確性、オープンショットを決め切る力、オープンを作る状況判断などが上回っていました。1戦目のサウスイースト・メルボルン(フェニックス)戦では相手の2ポイント確率を30パーセント台に抑えることができましたが、そういうゲームでありながら彼らはフリースローを稼いでくるプレーを見せ、スクリーンの質を高めてディフェンスを後手に回らせるなど、試合巧者ぶりも見せつけられました。

 つまり、注目しなければいけないのは「サイズ、フィジカルの差」だけではないことです。これについては日本人選手でも縮められる部分ですので、克服できれば世界の強豪、オーストラリアのチームと今以上に戦えるときが来ると信じています。

――試合に対する臨み方に違いがあったのでは。
桶谷 NBLは9月18日開幕ということで、両チームとも開幕まで1週間を切った臨戦モードでした。キングスはプレシーズンをまだ約3週間残していましたが、フルメンバーのガチンコで戦ってくれたのは大きかったです。さらに日本とオーストラリアの時差は日本が1時間早いだけなので、今後の遠征先として大きな理由になると思います。時差調整で大切なプレシーズンの1日をロスせずに済みますし、何より選手の負担軽減になります。ヨーロッパ遠征では、どうしても時差のコンディション調整が必要という点がありましたから。

――時差、強度、スケジュールを考えると次回も海外挑戦はオーストラリアが有力か?
桶谷 パース・ワイルドキャッツのGM、ダニーさんは大会を終えるとすぐに「来シーズンは沖縄へ行きたい。」と言っていました(笑)。お互いにとってベストタイミングがマッチすればぜひ沖縄に来てもらいたいですし、他チームを交えてのアイランドゲームとして迎えられたら最高ですね。
――なるほど!海外チームを沖縄へ招いて、「めんそーれー(ようこそ/いらっしゃいませ)」して、沖縄の魅力を世界に伝える手もあるのか!

見たか!パース沖縄県人会の力!

――現地では在パース日本国総領事やパース沖縄県人会の歓迎がありました。
桶谷 いや-! 沖縄県人会のパワーは凄いですよ! バスケを通じてパース在住の日本にゆかりのある方々と交流ができました。また、領事館の皆さんがウェルカムパーティーを開いてくださり、私たちを公邸にお招きいただき、そこでパースのことを知る機会もありました。試合のハーフタイムでは沖縄県人会の皆さんがエイサーを踊ってくださり、パースの人たちにも沖縄を知っていただけましたし、まさに「沖縄を世界へ」をともに表現していただいたと思っています。

現地県人会の皆さんがハーフタイムにエイサーを披露 [写真]=琉球ゴールデンキングス

安永 今回の沖縄県人会の現地での歓迎は感激でした。現地到着は深夜12時を過ぎるフライトでしたので、申し訳ない時間だったのですが、完全サプライズでわざわざ空港で待ち構えてくださいました。沖縄県は過去の歴史において、移民としてハワイや南米に移住された方々を多く持つ県です。今回は日系二世の方々も応援に駆けつけてくださるなど、バスケを越えた交流ができたのは、キングスの存在価値そのものだったと思います。チーム強化を目的とした海外遠征ではありますが、キングスの存在意義、カルチャーという意味では、沖縄出身移民が多いとされる、ハワイ、ブラジル、アルゼンチンへのキングスの旅の可能性は探りたいですね。

――同じタイミングでキングスU18も「沖縄を世界へ」を香港で体現していました。
桶谷 ユースチームの遠征実現には、EASLのマカオ遠征が一役買っています。「第1回GOAT Lab International Rising Youth Invitational Tournament Hong Kong 2025」のホストチームである、GOAT Lab (香港)のオーナーのチームが元々、キングスU15と沖縄で対戦していたこともあり、EASLで佐々(宜央)コーチと私が食事をしていたところに、オーナーがキングスU15、U18との継続的な交流を直談判にきてくれて、今回の遠征が実現しました。

 オーストラリアの遠征先からU18の試合をチェックしましたが、シメオン高校の存在はキングスの(アンソニー)マクヘンリーACからも強豪校と聞かされていましたし、オーストラリアの選手たちはサイズがあってもガードの動きができる選手がそろっていました。沖縄の子どもたちは、本島(本土)に行って試合することも少なく、県外チームとの対戦経験が少ない子どもが多いなか、このような国際試合の経験ができたことは、財産として残るはずです。キングスユースから世界を目指す、日本の頂点を目指す、という意味では、できるだけ早く世界を知り、そこで何が必要か、何が足りないのか、という逆算で理解できたはずです。

――元NBAのスーパースター、デリック・ローズパティ・ミルズのこの大会に参加したチームに対する支援についてはどう思いますか。
桶谷 ほんとにすごいことです。キングスU18と対戦したシメオン高校はデリック・ローズの母校で、アメリカ・シカゴの貧しい地域にあります。ローズがNBAの選手になったのち、母校や地域に還元して、後輩たちに海外経験のチャンスを創るという貢献に、敬意を表したいです。地元オーストラリアのヒーローであり、現在はハワイ大学のGMを務めているパティ・ミルズがオーストラリアチームの派遣をサポートしていました。これは彼らのおかげで間接的にキングスU18が海外経験を積めた恩恵にあたりますので、改めて感謝です。

――日本代表は直近アジアカップで思うような結果が出ませんでした。ヨーロッパとオーストラリア遠征を単独チームで経験した桶谷HCから見て、日本代表にも通じる、日本バスケ界への気付きがあったら教えてください。
桶谷 ヨーロッパ、オーストラリアと日本人選手の違いでいうと、ペイントタッチができるか、そこからの状況判断の質などがあると思います。今回のアジアカップでは、例えば河村(勇輝)選手、比江島(慎)選手、渡邊(雄太)選手、八村(塁)選手といった日本を代表するペイントを支配できる選手たちが不在だったことが、結果が出なかった一つの要因だとは思います。しかし、それじゃあ、彼らがいなければ誰もできないのか? そういう状況ではなく、常に次の世代、選手を創出し続ける必要があると思います。

 アジアカップでのオーストラリア代表はベテランもいる一方、若手が中心でしたが、しっかり次の世代にもトップレベルと変わらない選手が多くいました。例えばキングスでいえば、脇(真大)選手、佐土原選手、崎濱選手などがその世代ですが、これから彼らが台頭し、日本代表に必要なプレーを表現できるようになれば、間接的に日本代表強化にキングスが貢献しているはずですし、キングスユース、トップの取り組みが将来的な日本バスケ界、代表強化にもつながっていると信じています。

佐土原を代表する世代が海外遠征でどんな学びを得られるか [写真]=琉球ゴールデンキングス

――今回の「オーストラリア遠征」、改めて収穫は。
桶谷 2年連続アウェーの海外遠征をシーズン前に経験して、違う国に行って戦ってくるというのは、自分たちがタフになれるチャンスだと本当に感じます。チームビルディングの意味でも、ホームにいると仕事がルーティン化しがちですが、日本語が通じないところで過ごすことで、チームの結束力も増しました。現地の育成事情も知ることができ、22~23歳という、いわゆる大卒年齢の選手たちのレベルの高さ知り、もう少し多くの方に日本の育成現場にも注目してもらう必要があると感じました。それぞれの現場で皆さんしっかり取り組んでいると思いますが、海外での対戦ではどういう事が必要だったのか、という経験談をもっと正確に伝えないといけないと感じました。「フィジカルが弱かった。サイズで負けた。」で終わってしまっていてはもったいないです。「勝負にならない。」とは感じませんでしたので、より具体的に、正確に、育成年代に伝えていくのも私たちの仕事だと思いました。

――開幕まであと少し! キングスのファン・ブースターへメッセージをお願いします。
桶谷 プレシーズンを通じて各選手みんな状態が良くなっています。新加入の佐土原(遼)選手、小針(幸也)選手などが楽しみな方は多いと思いますし、崎濱(秀斗)選手も昨シーズンより進化しています。なにより岸本(隆一)選手がコートに戻ってきてくれました。頼もしい選手の復帰と、新加入選手の融合など楽しみが多いですね。

 開幕戦で戦う横浜(ビー・コルセアーズ)は安藤誓哉選手の加入に加え、ラッシ・トゥオビHCがフィンランド代表の指揮官として臨んだユーロバスケット(FIBAユーロバスケット2025)で史上初のベスト4入り果たしたこともあり、今はノリノリだと思います。今シーズンの開幕戦はホーム開催です。皆さんも沖縄サントリーアリーナで迎え撃つ準備をよろしくお願いします!

取材を終えて…

 今回、改めて安永GM、浜口炎U18HC、桶谷HCのお話をうかがい、琉球がクラブとしてやみくもに海外遠征を行っているのではなく、「アジアNo.1の球団」と「世界に通用する選手の輩出」という目標実現のために「沖縄を世界へ」というビジョンを掲げ、これまで取り組んできたさまざまな事柄が、今回のユースとトップの海外遠征につながっていると分かりました。

 また、パース沖縄県人会の皆さんとの交流は、過去の所属選手をはじめ、球団スタッフ、ファン・ブースターとともに、キングスが長年大切にしてきた「沖縄の誇りを背負い、地域とともに歩むクラブであること」という存在意義を表す象徴的なシーンだったと思います。コート上やコート外の琉球ゴールデンキングスのカルチャーを見せてもらいました。

 でもまだ夢の途中。今後も「沖縄を世界へ」を掲げ世界へ挑戦し続けるキングスが楽しみだ!(井口)

オーストラリア遠征に参加したメンバー琉球ゴールデンキングス

「Perth Wildcats International Series」

【試合結果】
■9月12日
琉球ゴールデンキングス 75-90 サウスイースト・メルボルン・フェニックス
サンロッカーズ渋谷 66–86 パース・ワイルドキャッツ

■9月14日
琉球 93-103 パース・ワイルドキャッツ
SR渋谷 72–85 サウスイースト・メルボルン・フェニックス

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