2025.10.02

「沖縄を世界へ」…琉球ゴールデンキングスのトップとユース同時海外遠征に見えるキングスの本気度【前編】

トップチームと同時期に海外遠征を行った琉球U18チーム [提供]=琉球ゴールデンキングス
バスケットボールコメンテーター

キングスの文化「現状維持は衰退」

世界の高さに挑戦した琉球U18チーム [提供]=琉球ゴールデンキングス

 2023年8月に琉球ゴールデンキングスがビジョンとして掲げた「沖縄を世界へ」。キングスの文化の一つである「現状維持は衰退」を胸に、昨シーズン(2024-25シーズン)の開幕前に、日本のプロバスケットボールチームとして初のヨーロッパ遠征を行った。イタリア・シチリア島にて、トラパニ・シャークス(イタリア)、デルトナ・バスケット(イタリア)へチャレンジし、オフの話題を集めたことは記憶に新しい。

 今シーズンは「アジアNo.1の球団」と「世界に通用する選手の輩出」という目標実現のため、キングスが次に選んだ舞台は、近年Bリーグへ加入する新外国籍選手の多くがプレー経験を持つ、オーストラリアのトップリーグ、NBLだ。

 加えて、「沖縄を世界へ」を掲げ実施する取り組みは、トップチームの海外遠征だけに留まらない。沖縄の子どもたちが「世界を目指せる環境」と「世界を夢見るきっかけ」となるように、香港で開催された「第1回GOAT Lab International Rising Youth Invitational Tournament Hong Kong 2025」へU18チームが挑戦した。

 トップチームとユースチームが“同時”に海外遠征を行う難しさは、チームオペレーションのマンパワーや費用面において、簡単ではないことは想像に難くない。さらにユース強化を進めるキングスの本気度の表れが、“泣く子も黙る”浜口炎氏をU18チームの指揮官に招聘したこと。トヨタ自動車アルバルク、仙台89ERS京都ハンナリーズ富山グラウジーズライジングゼファー福岡と長年トップチームを率いてきたプロコーチを、U18チームへ招くという過去にない一手はファン・ブースターに驚きを与えたはず。

 今回、海外遠征をはじめ、新シーズン開幕前にキングスが様々な取り組みを行っていることについて、安永淳一ジェネラルマネージャー(GM)と浜口炎U18ヘッドコーチにその目的と背景を聞いた。

インタビュー=井口基史

「日本では経験できないサイズ感をこの世代で体感」(浜口)

今季から琉球U18チームのヘッドコーチに就任した浜口氏 [提供]=琉球ゴールデンキングス

――電撃のU18ヘッドコーチ就任からすぐの海外遠征となりました。
浜口 就任後2カ月の準備で初の海外遠征でしたが、単独チームかつU18チームでの海外トーナメント出場は、日本では異例の取り組みだと思います。ユース選手は普段は別々の高校に通うチームメートが多いですが、言葉の通じない環境で寝食を共にするという素晴らしい経験ができました。

――この世代で国際試合を経験する価値について。
浜口 海外遠征での気付きは本当に多くありました。遠征ですので、自分で洗濯や身の回りの準備をするのは当たり前ですし、ケガ人が出た場合はみんなでヘルプし合うなど、一人のアスリートとして成長するために必要な、プレー以外の部分も経験できたと思います。海外選手とのコミュニケーションで、シャイになる選手もいれば、一歩前に出てくる選手もいるなど、チームメート同士の理解も深まったはずです。バスケの部分では、日本で経験できないようなサイズ感のチームとの試合を、この世代で体感できたことが財産だと思います。

――すぐに始まるU18チームの活動に生かせる点は。
浜口 今シーズンから初めて参戦する、U18⽇清⾷品ブロックリーグ2025(グループH)では、対戦相手となる高校チームには留学生がいます。そのサイズ感に近い感覚をこの遠征で経験したことは大きいと思いますね。トップチームのバスケの考え方を継承することを基本とし、いくつかのセットプレーなどを共有することになると思います。また、バスケットIQを身につけるためにも、高校生が理解できるようにプロ選手に教えてきた内容を分かりやすく丁寧に説明をし、選手たちが短期間で成長できるようにアレンジしながら、柔軟な対応を心がけています。キングスはU15チームも、日本トップレベルのプログラムです。U15の末広朋也HCとも密にコミュニケーションを取りながら選手たちの情報を共有し、トップチームの桶谷大HCも含めてコーチ陣みんなで育成に取り組んでいます。

――アジアカップで日本は敗れたが、アメリカのオーストラリアのU18との対戦で感じた日本の課題は。
浜口 世代が違いますので難しいですが、フィジカルの課題については今に始まったことではないです。今回の遠征でも、アメリカやオーストラリアの選手は、身体は細くてもコンタクトが好きな選手も多くいました。やはり、身体能力の差を縮めるためには日本人が優れている面を、より強化し伸ばしていく事も若い世代には大切な課題だと思います。

「選抜チームではなく、単独チームでの海外挑戦の意義」安永

――U18チームが海外遠征に至った経緯は。
安永 2023年に香港中学1位チームが、キングスU15との対戦のために沖縄に来てくれました。その選手たちが学年を重ね、現在はU18となり、今回のホストチームGOAT LABチームのメンバーになっています。そのホストチームが下記の強豪チームを招いて国際試合を行うことになり、キングスU18に声が掛かったという経緯です。一過性ではなく、継続してユース育成に取り組んできたことの成果が、今回の海外遠征に繋がったと思います。

「第1回GOAT Lab International Rising Youth Invitational Tournament Hong Kong 2025」参加チーム
【グループA】
琉球ゴールデンキングスU18
GOAT Lab (香港)ホストチーム
Indigenous Basketball Team(オーストラリア):元NBA パティ・ミルズが支援

【グループB】
Simeon Career Academy (アメリカ):元NBA デリック・ローズが支援
AthletIQ Geelong(オーストラリア)
Selangor Basketball Club(マレーシア)

琉球U18チームもデリック・ローズと交流 [提供]=琉球ゴールデンキングス

――単独チームでの海外挑戦の意義とは。
安永 選抜チームが世界で戦うことは、アンダーカテゴリー日本代表、Bリーグユース選抜など、すでに頻繁に行われていますが、単独チームが海外で戦うことは、一部の強豪校を除いて今までの日本では少なかったと思います。バスケはチームスポーツですので、普段から共に戦い、個人それぞれに役割があるチーム対チームの試合を、海外で経験することに、大きな意味があると信じています。

――ドラフトが始まる時代に、ユースをどう見ているか。
安永 ユースで育成した選手に、トップチームで活躍してもらうことが第一だと思います。ドラフト候補選手について得られる事前情報は、大会の過程や結果、各世代のコーチ達からのヒアリングなど、どうしても限定的になると思います。それに比べてユース出身の選手は、スキル、パーソナリティーなど全てを知り尽くし、トップで活躍するために何が必要かを、共に考えて過ごしてきた選手ですので、チームにフィットする可能性が高いはずです。

――将来トップで戦う育成ということは、U18で勝つチーム作りではない?
安永 キングスユースは各ポジションのタレントを選抜して作るチームではなく、個人の育成が目的ですので、全ポジションに選手を配置する考えはあまりありません。将来のために複数ポジションや、プロになる可能性が一番高いポジションをプレーしてもらうためです。高校バスケはインターハイ優勝などの目標達成のために留学生獲得という選択肢があると思いますが、キングスユースはトップチームの選手になるというのが目標ですので、大きな違いがあります。そのような編成で、U18日清食品リーグなどで勝つことは大変ですが、今回の海外遠征で同じ世代の自分たちよりサイズが大きいけれど、ガードスキルを持つ、アメリカ、オーストラリア選手とのマッチアップを経験できた事が大きいと思います。

――U15、U18では目の前の勝利を求めない?
安永 あまり結果を追求し過ぎる考えはありません。ただ「キングス」という看板を背負って出場しますので、ユースの選手といえどもプライドがあります。今は全国の強豪校の方が強い、というのが多くの見方だと思いますが、かつてトップチームもbjリーグ時代からJBL、NBLチームを倒したいという想いから始まりました。絶対に勝てないと言われていた時代を経て、リーグ制覇し、沖縄県勢では無理だと思われていた天皇杯も獲得できました。楽しむことは忘れずに、いつかユースでも高校バスケの概念をひっくり返したいという想いはあります。とはいえ浜口HCとは、ユース世代はもっと楽しんでバスケをするべきだ、という価値観を共有しています。

――元NBAのデリック・ローズパティ・ミルズがサポート?
安永 出場チームのシメオン高校は、アメリカ・シカゴの決して裕福ではない地域の学校ということと、元シカゴ・ブルズのスーパースター、デリック・ローズの母校ということで、彼が渡航費を負担したそうです。実は会場にサプライズで登場するなど、子たちは大喜びだったと思います。オーストラリア代表の英雄、パティ・ミルズも母国のインディジェナスというチームに、私財を投じて育成を支援しています。そのような国際試合に参加できたことはキングスユースの大きな一歩でした。

県外流失させない取り組みとドラフト対策

 沖縄県では育成世代の子どもたちが、強豪校を目指して中学、高校で親元を離れ、島を出る選択をすることも少なくない。「もしキングスユースの存在が、沖縄にいながらプロを目指す場所になれば、子どもたちの新たな選択肢になるはず」と安永GMは語る。

 これまでのBリーグの特別指定制度では、優秀な選手が集まる関東の大学生選手のリクルートには、沖縄から大学に通いつづける難しさという、地理的な不利さを感じていたことを隠さない。2026年1月29日に迎えるBリーグ初のドラフト対策については、これまでアシスタントコーチとしてトップチームに帯同してきた森重貴裕氏をスカウティングディレクターに配置転換し、これまでのトップチームへのスカウティングと共に、ドラフト候補選手の情報収集を行う用意を怠らない。

 今回の海外遠征の裏には、キングス最強プログラムが着々と進行しているのを感じた。みなさんキングスはマジだ!(井口)

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