2025.10.04

JBA審判グループに聞く!【2025−26シーズン版】「改定されたルールについて知っておくべきポイント」

B1リーグ開幕戦をジャッジした審判団 [写真]=B.LEAGUE
バスケットボールコメンテーター

 開幕前の恒例インタビュー「JBA審判グループに聞く!」。これは新たに決まった新ルールやJBA審判グループの取り組みについて紹介し、リスペクト文化醸成のためにスタートしたコンテンツです。今回で6回目を迎えますが、今回も新シーズンに向けて改定されている「プレーコーリング・ガイドライン(審判が笛を吹く基準をまとめた指針)」から知っておくべきいくつかのポイントを解説していただきます!

 2025年8月にアップデートされたプレーコーリング・ガイドラインや、毎シーズン開幕前に開かれる、ヘッドコーチミーティングなどで共有された事項について、今シーズンもJBA審判グループにご協力いただき、解説いただきました。
※各項⽬の映像・URL・文章は新シーズンへのルールの理解を深めていただく⽬的で使⽤しています。本インタビューで紹介している事象、選⼿、審判を批判や評価する⽬的のものではありません。

インタビュー=井口基史

■解説

上田篤拓(日本バスケットボール協会 審判グループ シニア・テクニカル・エキスパート)
bjリーグのプロレフェリー時代にNBAレフェリーを目指し、日本人としては初めてNBAサマーリーグに招聘されレフェリングを経験した。現在はJBA審判グループ シニア・テクニカル・エキスパートとFIBAレフェリーインストラクターを務める。

2025-26シーズンのルールについて知っておくべきポイント

●スローインラインの新設について
 スローインラインとは、コートの外側に向かってサイドラインと直角に引いた、長さ0.15mの4本のラインをいう。近い方のエンドラインの内側の縁から8.325mの距離に、そのエンドラインから遠い側の縁があたるように描く。(スコアラーズテーブル側2カ所/反対側2カ所)

上田 上記のチームベンチ側2カ所に新たにスローインラインというのが設置されました。いつ、どのように使うのかを理解しておきましょう。これまでは、「L2M」(Last 2 min)といわれる、いわゆるゲーム終了まで残り2分以内にタイムアウトが起きた際、タイムアウト明けに行うスローインの再開場所について、ヘッドコーチがフロントコートからの再開を選択した場合、常にベンチと反対側のサイドラインからスローインで再開するルールになっていました。今回のスローインラインの新設に伴い、特定の条件のもと、ベンチ側または、ベンチと反対側のいずれかのスローイン再開場所について選択できることになりました。

【解説】
 第4クォーター、各オーバータイムでゲームクロックが2:00あるいはそれ以下を表示しているとき、バックコートからスローインを与えられることになっているチームに認められたタイムアウトの後で、そのチームのヘッドコーチは、フロントコートのスローインラインからのスローインでゲームを再開するか、バックコートのゲームが止められた場所に最も近いアウトオブバウンズからのスローインでゲームを再開するかを選択することができる。ヘッドコーチがフロントコートからのスローインを選択したとき、元のスローイン
をバックコートから始めることになっていた場合は以下のように対応する。

① ゴール成功後または最後のフリースロー成功後のエンドラインからのスローインである場合、ヘッドコーチは、スローインをスコアラーズテーブル側のスローインラインから行うか、反対側のスローインラインから行うかを選択することができる。

② ファウルまたはバイオレーションの後のサイドラインまたはエンドラインからのスローインは、元のスローインと同じ側(スコアラーズテーブル側または反対側)のスローインラインから、フロントコートで行う。

●フェイク(ファウルの種類)についての変更点
※フェイクとは:相手プレーヤーにファウルをされたように見せて欺くプレー

上田 これまでは1つの事象に対して、パーソナルファウルとフェイクを同時に記録することはルールとして認められていませんでした。ただし今回から、フェイクとファウルの両方を同時に記録できることになりました。例えば一つの例ですが、ディフェス側の選手のファウルが発生した際、オフェス側の選手が必要以上に大げさに倒れたり、欺くような演技をしたとレフェリーに判断された場合は、ディフェンス側の選手のパーソナルファウルと、オフェンス側の選手のフェイクを同時に記録できるようになります。

・対象:フェイクはオフェンス側、ディフェンス側いずれも対象
・フェイク1回目:ヘッドコーチと当該プレーヤーへ警告
・フェイク2回目:同じチームから当該プレーヤーとそれ以外のプレーヤーからでも2回目のフェイクが起きた場合は、テクニカルファウルの対象

★フェイク1回目であっても、全く接触がないにもかかわらず、わざと大げさに倒れてファウルに見せかけたりする行為の度合いによっては、1回目でもテクニカルファウルの対象
→ディフェンスにパーソナルファウル / オフェンスにフェイク(警告もしくはテクニカルファウル)

【参考映像】プレーコーリング・ガイドライン_1-14_フェイク

そもそもフェイクをやめていこう

上田 先日、トップリーグの全ヘッドコーチに参加いただいて毎シーズン前に開催している「ヘッドコーチミーティング」が行われ、フェイクなどレフェリーを欺く行為について、まずはコーチングの視点から、選手たちに止めるようにコーチングをしてもらえるようにお願いしました。

 つまりレフェリーが判定すべきものの対象に、そもそもフェイクが入らなくても済むように協力をお願いしているわけです。その背景として、大学生以下の選手たちがトップリーグの選手たちのプレーを、良い意味でも悪い意味でも真似する傾向があるためです。育成現場であるU12、U15といった小中学生でも、フェイクを真似する選手が実際に出てきており、日本バスケットボール界のさらなる成長のためにも、改善していただきたいことをヘッドコーチの皆さんと共有しました。

・パス・オフ(レフェリーのシグナル)
上田 審判の新たなシグナルが追加されました。ショットの動作(アクトオブシューティング)中にファウルが起きたあと、ファウルをされたプレーヤーがショットをやめて、パスに切り替えた場合は、フリースローは与えられません。その場合は下記の図のような「パス・オフ」のシグナルをレフェリーが示します。このシグナルは、FIBAの正式導入決定以前から国内トップリーグでは運用開始していましたので、すでに馴染みのある方もいらっしゃると思います。

パス・オフ(ショットの動作中にファウルが起きたあと、ファウルをされたプレーヤーがパスをすること)手のひらを開いて両手を横に動かす

●インスタントリプレーシステムの運用について(IRS)
上田 これまでは、一度テクニカルファウルと判定した事象を、アンスポーツマンライクファウルおよびディスクォリファイングファウルに該当するかをIRSにて確認や修正することはできなかったのですが、今回からIRSでの確認ができるようになりました。またヘッドコーチチャレンジの請求についても、タイムアウト同様に、チャレンジが認められレフェリーがシグナルを示すまではキャンセルが可能になりました。
【変更のポイント】
・テクニカルファウルと判定されたものがアンスポーツマンライクファウルまたはディスクォリファイングファウルに該当するかどうかを

・ヘッドコーチチャレンジの請求はタイムアウトや交代の請求と同様に、チャレンジが正式に認められるまで(審判がシグナルを示すまで)は取り消すことができる。

●その他のトップリーグ重点・調整点の共有事項
タイムアウトからのゲームの再開やスムーズにゲームを進めることについて(継続)
上田 これまでも試合時間短縮のために、スムーズなゲーム進行をお願いしてきています。常に2時間や、2時間半を超過するようなゲームが増えることは、ファン・ブースターにとっても、試合中継が長くなるメディアにとっても好ましくありませんので、下記のような試合時間短縮を目指した協力のお願いをしています。

【目的】
・メリハリのあるゲーム運営でお客様やメディア様を中心とした方々を待たせない。
・ゲームの平均試合時間をできる限り短くする。

【タイムアウト対応】
・一つ目のブザーが鳴ってコートに出るように促す。
・二つ目のブザーでゲームが再開できるようにプレーヤーを促す。
・二つ目のブザーが鳴った後にも関わらず、コートに誰も戻る気配がない時には続けてタイムアウトのコールがされる可能性がある。
以上の事柄をキャプテンミーティングでも確認し、キャプテンには必ずコーチにも伝える。

【試合中の進行】
・スローインやフリースロー時など、声をつかってプレーヤーを誘導し、ゲームをテンポよく進める。
・コミュニケーションが必要な場合も、できる限り「明確に、短く」コミュニケーションを取るようにチャレンジする。
・コミュニケーションは、実際のアクションやベンチの近くにいる、またはメカニクス上で自然と対応が必要なオフィシャルが担当することで、それぞれがリーダーシップを発揮し、ゲームコントロールを務めつつ、一方でスムーズにゲーム進行を心がける。

●フリースローのバイオレーションの注意について
上田 細かい点ではありますが、稀に見られる事象として競技規則に則って下記の2点を注意していこうと啓発しています。いずれもそれぞれのプレーヤーが気付いて直していければ、試合でコールする必要がない点ですし、スムーズな試合進行と試合時間短縮につながりますので、ヘッドコーチミーティングで共有しています。
・シューターがフェイクと判断できる2段モーションを行ったり、不必要に一連のアップモーションを止めるなど。
・ボールがリングに当たる前に、シューターがFTラインを越えてペイントに触れた場合。
このようなケースはいずれもバイオレーションとなり、相手ボールでの再開となります。

・アンスポーツマンライクファウル(クライテリア3について)
上田 アンスポーツマンライクファウル(UF)の対象行為として4つあるクライテリアのひとつ、クライテリア3(C3)について、今シーズンよりトップリーグから先行してUF(C3)の判定基準を徐々にFIBAの傾向に合わせて調整する方向です。

アンスポーツマンライクファウル クライテリア3
オフェンスが進行するトランジション中で、ディフェンスをしようとする努力をせず、その進行を妨げることだけを目的としたディフェンスによる必要のないコンタクト
① このクライテリアはオフェンスがショットの動作に入るまで適用される。
② オフェンスの進行を妨げるコンタクトについては、そのコンタクトが正当にディフェンスをした結果のコンタクトであるかを考慮し、C3またはパーソナルファウル(以下:PF)を適用するかどうかを判断する。
-オフェンスの進行を妨げ、必要のないコンタクトと判断できる場合:C3を適用する。 -オフェンスの進行を妨げてはいるが、正当にディフェンスをした結果のコンタクトと判断できる場合:PFを適用する。

③ 必要のないコンタクトとは、明らかにリーガルガーディングポジションから外れている位置から、相手を掴んだり、抱えたり、捕まえたりして、ディフェンスする姿勢なくオフェンスの進行を止めるファウルのことをいう。

④ ボールのチームコントロールをしているオフェンスに対してディフェンスが起こしたコンタクトのみに適用される。

 ここ数年間、FIBAの傾向が急にかわることがないかを含めてC3については判定を行っていましたが、この4年ほどFIBAの傾向が変わらないこともあり、今回、FIBAに合わせる形で徐々に調整をしてまいります。一方で、これはC3のルールがなくなったということではなく、引き続き、トランジション中に必要のないコンタクトでオフェンスの進行を妨げることはUFとなる可能性はあります。明らかに相手を掴んだり、抱えたりするのではなく、ディフェンスする努力と姿勢のなかでバスケットボールのフローが不必要にとまらないようにプレーすることをルールとして求めています。

●ベンチコントロールについて(継続)
 ルール上認められている以外のケースで、ベンチエリアで立ち続ける行為などをコントロールすることで、ゲームを見るお客様の視野を確保することなどが目的です。

・一人のコーチ以外に立ってゲームを指示している、または異論を唱えているなどについて、まずはヘッドコーチに一度伝え協力を求める。この時点でワーニングであることを伝える。
・それでもベンチで立ち続ける行為や、コーチ以外が立って指示したり、異論を唱えている場面があればテクニカルファウルで対応。
・タイムアウト中やインターバル、ゲームが止まったときにレフェリーとコミュニケーションをとることができるのは、原則、ヘッドコーチだけです。

●アンスポーツマンライクファウル(UF)判定時のIRS稼働について
1)アンスポーツマンライクファウル(UF)クライテリア2(C2)の要素を含む場合
→自動的にIRSでのエビデンスチェックを行います。
2)それ以外のUFの判断の場合
→120%確信がある場合はIRSにてエビデンスチェックするかどうかはクルーの判断として運用していきます。

 これは、コート上で「誰が見てもアンスポーツマンライクファウルである」という場合に、IRS稼働を省略できる選択肢を持つことで、よりスムーズなゲーム運営をイメージしています。一方で、例えば複数のクライテリアを含む場合や、アンスポーツマンライクファウルとしてのエビデンスチェックが必要と判断する場合は、UF(C2)以外でも、IRSにてエビデンスの確保は今まで通り行っていきます。

――新シーズンに向けてファン・ブースターへのメッセージをお願いします(井口)
上田 いよいよ男女トップリーグのシーズンが開幕していきます。今シーズンも、よりエキサイティングなゲームが皆様に届くように、レフェリー、テーブルオフィシャルともに協力しながら頑張っていきたいと思いますのでよろしくお願いします!

 少しずつでも、審判ってどんな人たちなのかな、ルールってどうなっているんだろう、ということが皆様の日常に触れていけるように、情報を少しずつ発信していけたらと思っております。

 前回も同じコメントで皆様にご理解いただけるようにお伝えしていますが、様々なSNSを通じ、選手・コーチ・レフェリーへの誹謗中傷が社会問題になっています。レフェリーやテーブルオフィシャルもバスケットボールには欠かせない、そして選手やコーチの皆様と一緒にゲームを運営していくパートナーとして気持ちを持って取り組んでいきます。今シーズンも我々の取り組みにご理解の程、宜しくお願い致します。

Bプレミアに向けた最後のシーズン

 2025-26シーズンを終えると、BリーグはBプレミアへ移行し、現行レギュレーションのシーズンは今シーズンが最後となります。Bリーグが始まり今シーズンで10周年。この10年の間にたくさんのファン・ブースターのおかげで、バスケットボール界は大きく前進したと思います。昔からバスケを愛してきた方々に加え、日本代表の活躍を契機に、Bリーグの試合を楽しんでくださる方々も一段と増え、1勝に対しての熱量や、1プレーの捉え方の重みも、この10年で変化してきたと思います。

 そのような中で、ルールを詳しく知らずに起きてしまう、野次、誹謗中傷、無益な炎上は珍しくなくなり、心を痛めるファン・ブースター、レフェリー、テーブルオフィシャル、選手、コーチがいたことも事実です。

 この「JBA審判グループに聞く」という企画は、そのような状況を少しでも改善しようと、下記のような目的のもと、2020-21シーズンに始まりました。

【目的】
 新シーズン開始にあたり、新しく示されるプレーコーリング・ガイドラインやファン・ブースターが知っておくべきルールについて紹介し、レフェリーへのリスペクト文化やルールの浸透をはかる。

 ルールを正しく理解し、熱くなるところと、クールにいくべきところを見定めて、今シーズンもみんなで日本のバスケを熱くしましょう!みなさんのマイチームが、素晴らしいシーズになりますように。

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